見出し画像

短編小説「魔法の言葉係」(1650字)#青ブラ文学部

3年1組には、たくさんの係がある。
2学期に入ってオレは「魔法の言葉係」になった。

「毎日帰りの会で、コウタくんの考えた『魔法の言葉』を発表してね」
担任のマオ先生は、目をきらきらさせてオレに言った。

こまったな、とブツブツいうオレを見て、となりの席のリサがため息をついた。
リサは、1学期から「天気予報係」をやっている。帰りの会で「明日の天気」を発表するのだ。

「魔法の言葉なんて、かんたんじゃん。自分の好きな言葉を言えばいいんでしょ」
そう言って、タブレットで「ウェザーニューズ」をチェックしている。
「こっちは大変よ。まちがいないように毎日こうやってチェックするの。フェイクニュース言うわけにいかないでしょ」

いや、正解がある方がかんたんじゃないか。そう思ったけどめんどうくさいのでオレは、だまっていた。


家に帰って、母ちゃんにこのことを相談した。
「魔法の言葉? へえ、今どきだね。令和の小学生は大変だね」
母ちゃんはスマホをささっと指でなで、こんなのどう? とオレに見せた。
「X」の画面に「今日の名言bot」が表示されている。

今日の名言は「自分の幸せは、いつも自分の心が決める」のようだ。

「これでいいじゃん。毎日違うのが流れてくるからさ。ねっ? いいでしょ」
母ちゃんは、やっつけ気味に言った。
オレもめんどうくさいので、うん、と言って、自由帳に「自分のしあわせは、いつも自分の心が決める」と書き写した。


次の日の帰りの会、「魔法の言葉」を発表する時間になった。
「ではコウタくん、お願いします」
きらきらした瞳のマオ先生にうながされ、オレは自由帳を見ながら大きな声で言った。
「自分のしあわせは、いつも自分の心が決める」

マオ先生の顔がくもった。
「コウタくんそれ、先生、昨日Xで見ました」

「誰かが言った言葉じゃなくて、コウタくんの考えた魔法の言葉を聞きたいの」
マオ先生は、悲しそうに眉をひそめて言った。

こまったな。
重い足取りで下校するオレに、同じクラスのシュウとリクトが駆けよってきた。
「コウタ、オレら、いい言葉考えたぜ」

なになに、教えて、と飛びつくオレを見て、2人はニヤリとした。

「ち○○、まるだし!!!」

そうさけんで、ギャハハハハ、と笑って走り去った。

オレは、ため息をついた。
まったく、役に立たないやつらだ。


オレは母ちゃんに、今日のことを話した。
「へえ。マオ先生も『今日の名言bot』見てたのね」
受け売りじゃダメなんだね、マオ先生若いし、一生けんめいなのね。母ちゃんはのんきに言った。

オレは今度は父ちゃんに、何かいい言葉ない? と相談した。
野球をみている父ちゃんは、待て、今ピンチなんだ、と目を離さない。

かと思ったら、あっ、と何か思いついたようにこちらを見た。
「『1アウト満塁は意外と点数が入らない』っていうのはどうだ」
このピンチを切り抜けるにはそう信じるしかないんだ、と言う。
オレは、ぽかんとした。

「……おぉぉ、よし、ゲッツーだ!『1アウト満塁は意外と点数が入らない』まさに魔法の言葉だ。信じてよかった」
父ちゃんは、力強くガッツポーズをした。
「相手からすると、呪いの言葉だね」
母ちゃんが横でニヤニヤしている。

意味がわからない。
昭和育ちは、なんでも野球に結びつけるのでこまる。オレは、野球に興味はないんだ。

みんな、当てにならないな。


次の日、結局何も思いつかないまま帰りの会を迎えた。

「コウタくん、今日の魔法の言葉をお願いします」
マオ先生が昨日より少しきびしい顔で、オレをうながした。

オレは苦しまぎれに、大きな声でさけんだ。

「みんな、明日も元気で、がんばろう!!!」

教室が、一瞬しんとなった。

まもなくマオ先生が、大きな拍手をした。
「すばらしいわ、コウタくん。先生、そういうのを待っていたの」
マオ先生のいきおいにつられみんなも、歓声と拍手をオレに送った。

「コウタ、すげえじゃん」
帰り道、またシュウとリクトが駆けよってきた。
「明日も、ぶちかませよ!!」


走り去る2人の背中を見てオレは、ため息をついた。
「……正解が、わかんねえよ」


〈了〉


山根あきら様「青ブラ文学部」企画に参加します。

我が家にも小3男子がいますが、フィクションです。
でも彼のクラスに「天気予報係」は実際いるそうです。
令和の小学生は、大変ですね……


企画、ありがとうございます✨✨


#青ブラ文学部
#魔法の言葉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?