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行政書士試験記述式の予想問題を作成してみたα5(民法)

前回の、行政書士試験記述式の予想問題を作成してみたα4に続き、予想問題を投稿していきたいと思います。今回は、民法の物権となります。
この領域では、所有権の問題、特に物の得喪(GET or LOSE)の問題が提起されやすいです。いかなるときに得ること(GET)ができ、いかなるときに喪失(LOSE)するのか、その切り分けをしっかり把握しておくことが重要です。
それでは解いてみてください。
:お手元に六法全書をご用意ください。ご用意できない場合はこちらをどうぞ→e-Govポータル https://elaws.e-gov.go.jp/


予想問題一

問題
 
A所有の甲土地をBは無権限で占有し、時効が完成した。その後、Aが死亡しCとDが甲土地を相続した。ところが、遺産分割の協議によりCが甲土地すべてを相続することとなったが、その登記がなされる前に、Dが勝手にCの持分と自己の持分を分けて登記し、自己の持分のみをEへと売却し、その登記を移転した。Eはこの売買において帰責性はなかった。
 上記事情において、BCEが所有権を主張した場合に権利関係はどのようになるか。BCE各々につき述べ、取得者は誰の持分を取得するかも含めて「甲土地の所有権は」に続けて40字程度にて記述しなさい。

甲土地の所有権は

記述枠
記述枠

解説と解答

<解説>
あーーーーーー複雑!(´・д・`)ヤダ
と思わざるえないような問題ですが、一つ一つ紐解いていきましょう(それしかないですから・・(;^ω^))。
まずは、以下のように図解したうえで考察をしていきます。

図解

①Bの時効完成
最初に、Bが甲土地に対する時効を完成させました。時効取得は原始取得(他人の所有に関係なく独立して所有権を獲得できるもの)ですので、この時点では、Bが甲土地の所有権を全面的に主張ができます。もし、Aが生存していたとしても所有権を対抗できません。
②CDへの相続
次に、AからCDへと甲土地が相続されました。これによりBとCD、どちらに所有権が帰属するのでしょうか。
この場合は、登記の有無により決定することとなります。これは、Aを起点としてBとCDに二重に譲渡がなされた状態とみることができるためです(二重譲渡類似※)。そして、CDは登記を備えましたので(Cにとっては「はからずも」という感じですが)、この時点で、Cは自己の持分につき所有権を取得しBは時効取得を主張できないことが確定します。
③Eへの売却&登記移転
そして最後は、DからEへ売却&登記移転がなされます。これは単純な承継取得ですから、EはDの持分につき所有権を取得します。

以上が結論になります。

このように、一見複雑で難解に見える問題でも、図解をして、順を追い、論理を紡ぎます。そうすると、おのずと解答が見えてきます。また、民法の問題においてはこのような力を試されることが多いです(択一式、記述式ともに)。是非とも、このような力を身に着けましょう。

<解答>

甲土地の所有権は

解答
解答

予想問題二

問題
 
甲建物にAが抵当権の設定をしており、乙建物にBが抵当権の設定をしていた。実は、この甲建物と乙建物は一体となっている1棟の建物であるが、土地の所有者がそれぞれに異なるため、土地の境界線に沿って壁を設けることで別々の建物として登記されたものである。
 しかしその後、双方の土地の所有者が同一人物Cのものとなった。また、甲乙建物の元々の所有者もCであり、ABはC所有の建物に対して抵当権の設定をしていたのである。そして、Cは双方の土地の所有者となったことを機に、甲乙建物の境界の壁を取り壊して1棟の丙建物として登記をした。
 このような場合において、甲乙建物上に存在していたABの抵当権はどのようになるか。「ABの抵当権は」に続けて40字程度にて記述しなさい。

ABの抵当権は

記述枠
記述枠

解説と解答

<解説>

建物合併と抵当権
建物合併と抵当権

別々だった2つの抵当権が、1つの不動産を対象にすることになってしまったというレアなケースです。このような場合にはどのように処理すればいいのか?という問題になります。見ていきましょう。
まず、Aの抵当権の対象は甲建物であり、Bの抵当権の対象は乙建物です。ですが、甲乙建物ともに丙建物へと変貌してしまいました。
なので、ABの抵当権は消滅するのでは?とも考えられます。だって、抵当権の対象不動産が無くなったのですから・・
でも、そもそも抵当権とはいかなるものなのかを考えましょう(法律の問題を考える時は条文・制度の趣旨から考えることが重要です)。
抵当権とは、不動産の交換価値を把握して優先弁済を受けるものです。だから、「交換価値があればいい、残っていればいい」ともいえます。
そこから考えれば、甲乙建物は消滅したのではなく丙建物へと名称を変えただけで交換価値はしっかり残っています(壁は撤去されていますが)。だから、抵当権は消滅させずに存続させるべきです。
そして、平成6年1月25日判例(裁判所ウェブサイト)では「互いに主従の関係にない二棟の甲乙建物が、一棟の丙建物となった場合においても、これをもって、抵当権が消滅することはなく、右抵当権は、丙建物のうちの甲建物又は乙建物の価格の割合に応じた持分を目的とするものとして存続すると解するのが相当である。」としました。
つまり、「金額に応じてそれなりに分けて、抵当権を続けよう!」という解決策を判示したのです。
そして、このような結論に至った背景には、ある狙いもあります。
それは、「悪用する輩を生み出さない」ということです。
もし、”建物合併➪再登記➪抵当権消滅”というルーティンが生まれれば、それを利用して抵当権設定者がわざと抵当権を消滅させることができるからです。
それを防止するために上記のような判例となったのです。
ちなみに、判例の文言をそのまま解答としましたが「丙建物を、甲建物と乙建物の価格によって持分を決定すれば抵当権は消滅しない。」(37文字)のように、平たく記述しても構わないでしょう。たぶん、部分点はもらえると思います。

<解答>

ABの抵当権は

解答
解答

予想問題三

問題
 
Aは被担保債権5億円にて、不動産会社B所有の甲建物に抵当権を設定していた。甲建物は、集合住宅及び店舗として賃貸され安定的な賃料を得ていたが、Bは赤字経営に陥っていた。
 そこでBは、Cより3億円の融資を受けることで経営の立て直しを図ったがうまくいかず、Cへの弁済ができなくなっていた。そしてBは、甲建物の賃料債権を代物弁済としてCに債権譲渡したうえで確定日付ある証書をもって対抗要件も具備した。
 一方、Aは甲建物の価値下落を懸念していた。周辺の土地価格の下落および甲建物自体の経年劣化により、現在価値に換算すると5億円以下になっていることは明らかであり、抵当建物の交換価値の現実化が困難な状況になっていた。
 上記事情の下、Aが被担保債権を保全するため方法を、民法の条文の解釈上どのような根拠によってCへの債権譲渡に優位できるかも含めて「Cへの債権譲渡は」に続けて40字程度にて記述しなさい。

Cへの債権譲渡は

記述枠
記述枠

解説と解答

<解説>
Bの経営不振により抵当権者であるAの債権回収が危うくなっています。
たとえ、抵当権の実行による競売をしても甲建物は5億円に届きそうもありません。
このように、頼みの綱である抵当不動産の価値が下落している状況において、Aは何かできないでしょうか。
この場合、抵当不動産(甲建物)から生み出される果実(賃料)に期待するしかありません。
甲建物の賃料は安定しているので、1度に5億円を取り戻せなくとも毎月入ってくる賃料で補填していけば、いずれは満額に達するでしょう。
このように、果実などに抵当権の効力を及ぼすことを物上代位(304条、371条)と言います。
ただ、肝心の賃料債権がCに債権譲渡されてしまいました。しかも、「確定日付ある証書をもって」(対抗要件としては十分)です!
Aとしては、

これで万事休すか・・(´・ω・`)ハア

といったところですが、
しかし、平成10年1月30日判例(裁判所ウェブサイト)にて「民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の”払渡し又は引渡しには債権譲渡は含まれず」と304条1項の条文を解釈しました。
つまり、裁判では「民法304条1項の”払渡しと引渡し”の中に債権譲渡が含まれるか、否か?」で争われたのですが、裁判所は「含まれないよ」としたのです。
だから、債権譲渡された賃料債権等を差し押さえて物上代位を行使することができることになります。
これは、「債権譲渡を利用して物上代位の執行を妨害する」といった悪用のおそれがあり、このことを考えて至った結論となります。

<解答>

Cへの債権譲渡は

解答
解答

予想問題四

問題
 
株式会社Aは寿司のチェーン店を経営しており、市場から魚を仕入れていた。しかし、一つ問題が存在していた。それは魚を仕入れる際に、コストカットのため大量に仕入れをしたいところなのだが、仕入れ資金が不足していたため苦慮していたのである。先に仕入れた魚が店舗で売れ、現金が入ってくるのを待っていたのでは、なかなか仕入れ資金が工面できないのである。 
 そこでAは、B銀行より定期的に借り入れを受けられないかを考え、本社ビルを担保として根抵当権設定契約を結ぶこととした。その際、民法に定められた必要的事項に従い、極度額を1億円、債務者を市場の卸業者Cとし、被担保債権の範囲を定めた。
 民法の規定によれば上記被担保債権の範囲とは、Cとのどのような取引に限定されるのか。40字程度にて記述しなさい。

記述枠
記述枠

解説と解答

<解説>
Aのように、定期的に借り入れをしたい場合、担保の提供をして根抵当権設定契約を結ぶと非常に便利です。そうすると、

資金を借り受けて仕入れ➪販売➪売上で返済➪また資金を借り受けて仕入れ

といった感じで、滞りなく営業活動を継続できて利益を上げることができます。
ですが、根抵当権設定契約を結ぶにあたり民法では、抵当権者保護のために最低限定めなければならない事項(必要的約定事項)を規定しています。それが、①極度額と②債務者および③被担保債権の範囲(398条の2第2項)です。
まず、①極度額に関してですが、これは借入できる上限額は”いくらまで”というものです。そして、この極度額の範囲内であれば何度でも借入と返済を繰り返すことができます。

※例えば、1億円の極度額で8千万円借入れて3千万円返済、また5千万借入れといった具合。

次に、②債務者です。根抵当権設定契約においては債務者が誰であるかを決めなければなりません。通常の抵当権であれば、借入金でどこの誰と取引したかなどは問われません。
しかし、次に述べますが根抵当権設定契約では特定の取引に限定されるので債務者が誰であるかを特定する必要があります。
これは、債務者Aとの取引に関する根抵当権設定契約を結んだ場合、債務者Bと同じ種類の取引を行っても借入はできないということになります。
そして、問題で問われている③被担保債権の範囲です。これは、どのような取引を対象とするか、その範囲を決めるものです。
ただ、無制限に取引内容を決められるわけではなく398条の2第2項において、「担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。」と範囲がしっかりと規定されています。
この、特定の継続的取引契約とは、”AがCから魚を定期的(継続的)に仕入れる”といった商品供給契約を指します。
また、一定の種類の取引とは、”AがCから魚(種類)を定期的に仕入れる”といった商品供給取引を指します。
よって、条文の「債務者」の部分を「C」に置き換えて記述し”Cとの特定の継続的取引契約によって生ずるものその他Cとの一定の種類の取引によって生ずるもの”とすれば解答になります。
ちなみに、根抵当権のところは行政書士試験受験者にとっては勉強量の薄い領域かもしれませんが、過去に択一式での出題(令和2年、平成28年)がありますので、この問題のような基本部分はしっかりと押さえておきましょう。

<解答>

解答
解答

予想問題五

問題
 
Aは自動車部品の卸売業を営んでいる。だが最近、世界的な感染症により不況が訪れたため自動車の販売台数が落ち込み、Aの会社も経営危機に陥っていた。しかしAは、いずれは感染症も収まり、経済が復興して自動車の販売も回復すると見込んでいる。そして、あと1年分の資金があれば会社を存続させることができると踏んでいた。
 そこでAは経営資金の融資をB銀行に打診したが、B銀行より相応の担保の提供がなければ融資はできない旨を伝えられた。だが、AおよびAの会社に目立った財産はない。この状況でAは、会社の倉庫に在庫として保管されている自動車部品を担保とすることを考えた。でも、在庫部品は仕入れと出荷によりその内容が激しく変化する。
 判例よれば、このような物に担保権の設定ができるとするのは、いかなる場合となるのか。40字程度にて記述しなさい。

記述枠
記述枠

解説と解答

<解説>
Aのように商売を行い、日々流動する商品を扱っている場合、その商品を担保にできるかが問題となります。このような不安定なものを担保にするのは「如何かな」ということです。
ですが、昭和54年2月15日判例(裁判所ウェブサイト)では「構成部分の変動する集合動産であつても、その種類所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる」としています。つまり、

別に、種類と数と量がある程度決まればいいんじゃない( ´∀` )

と柔軟に考えてくれたようです。そして、定まることのない集合物をある程度、種類・数・量を定め担保とすることを、譲渡担保の一つである集合譲渡担保と言います。

集合譲渡担保
集合譲渡担保

そして譲渡担保とは、誰かからお金を借りる時に自分の所有する工業機械を担保にするといった、物を他人の所有としつつ自身で使用収益することができる担保権です。
これはいわば、不動産にしか適用されない抵当権の設定のようなものを、動産に対しても実現できるという非常に便利な担保権です。
なので、譲渡担保は民法の条文に規定がない担保権(非典型担保という)ですが、便利で社会経済上の要請があるため担保権として認められています。

<解答>

解答
解答

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