神大短歌vol.7の読書会があった

こんにちは。
神大短歌会の機関誌の最新号、「神大短歌vol.7」の読書会を行いました。
メンバーは、緒川那智ちゃん・貴羽るきちゃん・ものういかわうそちゃん・私です。
笑いあり真面目ありの楽しい2時間でした。

早速、会員の方の連作から1首ずつ紹介します。

深海魚皮分厚そう肉なさそう結論あんまり美味しくなさそう
たまもぱぴよん 『スイゾッカン・ラプソディ』

斜に構えながらも、なぜか水族館を満喫している様子が想像できるような歌です。
この方は、連作の構成に力を入れいている印象が強いという意見が上がりました。冒頭・ラストで出てくる「謹慎」の意味や、二人の関係性についても、みんなでいろいろな予想を立てて読みました。
そんな構成力が光るたまもぱぴよんさんの短歌が、1首単体だとどう見えるだろう?という点が注目ポイントになりました。

管轄が変わるとアスファルトが変わるそれだけのデジタルで生きてる
府田確 『第二』

日本のどこかで当たり前に行われていることを、「デジタルで生きてる」と落とし込む発想の歌。
静謐な語彙で編まれた連作ながら、読者を突っぱねない、どんどん引き寄せられてしまう力がある作品だなという評がありました。「第二」という題が歌にかかる気持ちよさも言及されました。
クールさが魅力になるため、定型にきっちりとはまれば、さらに端正な連作になるのでは!?という意見もありました。

乙女座の少年だったあの夏のプールサイドの三角すわりの
奥村鼓太郎 『すずらんの花』

素朴な情景ながら、前後の歌から想起される「星座」から、自然と上からの視点が想像できる1首。
「プールサイドの三角すわりの」のような、フレーズの気持ちよさが目立つ歌が多いという意見がありました。一方後半に収録されている『システムエラー』では、比較的要素の多い語彙が使われた短歌が多く、今後どちらの作風で咲き誇るのか!?楽しみです。

歪だね小さい頃のディズニーが結局一番楽しかったね
井井 『一人でも生きていける』

楽しい遊園地としてまず挙げられるディズニーランドではあるが、小さい頃の思い出のディズニーランドが一番楽しかったという、大人になることの寂しさを憂うような1首。連作全体を通し、安定感があるという印象を受けた人が多く、今後もどんな短歌・連作を作り上げていくんだろう?という期待の声が上がりました。一方、連作の冒頭・ラストの歌と、中間部の歌のテイストにややズレがあるという見方もありました。

ふるさとを持てない僕は曲がらない第一関節だけがよすがだ
植村優香 『青い街』

帰る場所は今いる場所だけで、それが自分の体の第一関節にフォーカスされていく1首。
「。」の入った短歌で、自分との対話・戦いが描写された連作でした。上記で紹介した歌のような、美しい歌をもっと聴いてみたい!とも思います。

「ホルンにも名前を付けてあげました」「どんな名前を?」「ソクラテスです」
掃除当番 『音になる』

吹奏楽をテーマにした30首の連作からの1首です。
自分も吹奏楽をやっていたので、懐かしく読みました。笑
30首の歌が音になり、それが1つの音楽になって流れてくるイメージですかね。「吹奏楽」というテーマで書かれた短歌たちですが、その中でもフォーカスしたいのは何なのかが分かると、もっと読みごたえを増す連作なのかなと思いました(例えば、「吹奏楽部の部員の友情」なのか、「コンクールに挑戦する吹奏楽部」なのか、「楽器に対する愛おしさ」なのか)。
これからもどんな仕掛けを繰り出し、それがどんなふうに輝くのか!?注目です。

除夜の鐘イヤホン越しに聞きながら蕎麦を啜って食欲満たす
ふるもと こうへい 『ゆく年くる年いつもの年』

除夜の鐘を聴きながら食べるのは年越しそば。年に1回しか食べない特別なものを、「食欲満たす」対象としてしか見ていないのがユーモラスな1首。そのほかにもいい意味で力の抜けた歌が多く、年越しという何度も繰り返してきた行事が改めて愛おしく感じられるような連作でした。
ちょっと腑抜けた主体の人と成りがつかみやすい連作だからこそ魅力を感じる短歌が多いため、たまもぱぴよんさん同様1首単体で見たときはどうなるだろう?という意見もありました。

現役生の方の連作についての感想は以上です。
全員自分のカラーがあって、今後が楽しみだなあ!by先輩一同

ここからは、OBOG連作です。

エクセルを整えていく花農家が畑で花を育てるように
緒川那智 『箱庭療法/シームレス』

私個人の意見ですが、職場詠には独特の絶望感を感じてしまうんです。
私が仕事嫌いなだけなのかもしれませんが。爆
ただこの歌からは、どうぶつの森のようなのどかささえ感じられるという意見がありました。「畑」からかな?
作者史上初「あなた」を封印したこの連作は、読書会でも大きな反響を呼びました。笑

光は言葉をしないでいい時間をくれる だから光のことは書かない
懶い河獺 『出口』

光りがちな短歌の世に短歌で意思表示しちゃう1首。天邪鬼だったり、短歌の横に色々書いて気を散らしてきたり、でもこの主体が嫌いになれない連作でした。
ちゃんと(?)下ネタが入ってて安心(?)したというしんたんの絆を感じる(?)意見もあって良かったです。

誰にも見つからないでうまれてきたようなコスプレイヤーのカラコンの青
村上なぎ 『こう見えて回遊』

自分の歌です。
青色のカラコンを見ると心がざわざわするので、それを歌にしようとしたら、こうなりました。

心臓が身体をゆらす 心臓が私みたい 私なのか
貴羽るき 『世界の部分』

自分の内側に語りかけるうちに、体の中まで入り込んで、自分に到達していく1首。自分自身が記述する・される側両方になるという、あまり読んだことのない連作でした。詩を思わせる短歌が多いからか、1首1首の質量がいい意味で軽くて、ぼうっと浮かび上がっている感じ。

低用量ピルはぬいぐるみの箱の横の箱だよ飲み忘れるな
山中澪 『近況報告』

読み手にとっては、いわば赤の他人である人物の近況報告ながら、「低用量ピル」というような普段の会話ではあまり出ないような、パーソナルな部分が詠われた1首。子供らしさをイメージさせるぬいぐるみと、大人に必要なピルの対比も言及されました。

町中が朝を迎える いいね 蝶 人間つねに悲しい足音
川嶋ぱんだ 『いいね』

足音を持たない蝶と、足音で感情が分かってしまう人間が表現された1首。「蝶」がすべての歌に詠みこまれた連作ながら、その他にもいろいろな要素を孕んだ単語が多くあり、その響きあいも論点になりました。

デラックスサイズの高級ハンバーガー 届く前から食べたくはない
北野風車 『TOKYO?』

デラックスかつ高級というスペシャルなハンバーガー、何となく選んだけれど食べる気は起きない。「届く」という言葉から、デリバリーであることが想起され、現代社会での1コマととれる1首。
仕事に忙殺されながらも、「ハンバーガー」などの語からカラフルさを感じ取れる、作者ならではの連作でした。

以上がOBOG連作の感想です。
いろいろな歌があった。

https://shintan.booth.pm/

ここで買えるようです。

【余談】
暗い話するなって感じなんだけど、この頃、電車で泣きながら帰るレベルで仕事・暮らしとしんどいことが重なっていた。正直この読書会も気持ちをちゃんと持っていけるかなあと思ってたんだけど、準備のために機関誌を読み返していたら、どんどん引き込まれていって、嫌なこととか全部忘れちゃいました。
私に短歌があってくれてよかったと本気で思った。
本当にありがとう。みんなの幸せをいのります。

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