電子レンジの話

今日、電子レンジが壊れた。
18歳の時一人暮らしをする際父親に買ってもらったHITACHIのオーブンレンジは“チキンを焼いたりお菓子作りをしたりしたい”という私のわがままを充分に叶えてくれる、一般的な一人暮らし初心者の人間にはちょっと贅沢なアイテムだった。

昨日の夜からあまり調子が良くなかったが、電源コードを持ち上げたり引っ張ったりしながらなんとなくまだ使える状態であることを確認。
明日にはもしかすると良くなっているかもしれない……、そんな期待は今朝呆気なく打ち砕かれる。

何度も蓋をパカパカしてみては何も映らない小さなモニターを眺め、「そういえば故障箇所はコードだったな」なんて思いながらメーカーのサイトを確認したり取扱説明書を引っ張り出してみたりなんかして解決策を探す。

しかし8年も前に購入した(恐らく購入時既に型落ちしている)商品の保証なんてとっくに終わっているのだろうし、出てきた取扱説明書は何故か別のメーカーの物。
少しだけ途方に暮れ、束の間の絶望を経た後に私はAmazonで一番似ている商品を購入した。

買い替えるのは、私にとって少し寂しいことだ。
一人暮らしをやむを得ず終了した時、若気の至りで家を飛び出し当時の恋人の家に転がり込んだ時、更にそこから紆余曲折あって友人夫婦の家に居候をさせてもらっていた時。
そして、北海道から大阪へ引っ越してきた時。

色々な物を捨てたり売られたりしどんどん荷物が減る中で、何故か私はこの電子レンジだけは後生大事にずっと持ってきていた。
住む場所を転々としていた為使わずにいた期間も長かったが、大阪に来てからは自炊にお菓子作りにコンビニ弁当の温めにと随分お世話になった。

そんな大活躍してきた相棒が急に動かなくなるなんて、手放さなくてはならないなんて。
たかが電子レンジだろうと思われるかもしれないが精神的にそれなりのダメージを受けている。
明日には新しい物が届くし、生まれて初めての粗大ゴミ処理の手続きも先程済ませた。

なんだかあまり自分らしくないスムーズな対処とヤマト運輸からの通知にそわそわするし、今からゴミ捨て場に取りに行き粗大ゴミ処理手数料券をひっぺがし、購入した商品も返品して何事もなかったかのようにいつもの場所に置き直したいとさえ思っている。

けれどもそうやって全てを台無しにするナンセンスな行動をとったとて、あの電子レンジが正常に動くことはもうないし何より自分自身が困ってしまう。
明日からはまた、今日までと同じように何年も。
今度は自分で買った新しい品と共に、粗大ゴミの捨て方を覚えた私として生きていくと思う。
そのうち前任の電子レンジのことを忘れる日が来るかもしれない。

これが大人の階段を上るということなのだろうか。

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