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「東京通過③」(須藤蓮)~【帰ってきた!「逆光の乱反射」】

アップリンク・ショック以降、須藤の焦点は再び数字・結果から人に移っていった。改めてそのことの重要性を認識したと言っていい。

アップリンク・ショック以前、東京でもいい出会いはたくさんあったはずなんです。でも僕はそれを発見できなかった。結局、人なんです。出会った人、僕が会いに行った人、まわりにいる人……彼らが持ってる才能やポテンシャルが新しいことを生み出すわけじゃないですか。
そこから「東京でも尾道とか広島みたいに付き合おう」っていう「東京の尾道化」がはじまるんです。たとえばDialogueとか東京でやろうとすると「馬鹿にされるんじゃないか?」って心持ちになる。たとえば本当はアイドルが好きなのに怖い先輩の前では言えなかったりするのと同じで(笑)、僕はこれまで一番自分らしい部分を隠して、東京という場所と委縮して付き合ってたんです。でもそういう人って、すごく多いと思いますよ。

そんな中、須藤にとって「人はあたたかさみたいなものを求めてるんだ、それがもっとも大事なんだ」ということが確信に変わる出来事があった。

それが2月1日から3日間に渡って吉祥寺NEPOで行われた「Dialogue Live」だ。

これは彼らが東京公開で知り合ったクリエイターの作品の展示、ひとつのテーマについて語り合うDialogue、音楽ライブが合わさった複合イベント。それまでの東京で数々のイベントは行っていたが、須藤は新たな気持ちで、この「ART+TALK+MUSIC」の催しに向き合った。

こういう合同イベントって東京では腐るほどあるんです。さらにこの時期はコロナ禍だから赤字は確定。でも僕は「これは自分が一番大事だと思うあたたかさを軸にしたイベントにしよう」と割り切ったんです。ここであたたかさと向き合わなければダメだと思って。イベント出演者は17人と多いけど、全部自分で連絡して、丁寧にコミュニケーションをとることを心掛けて。そしたら当日、参加者がみんな楽しそうで、誰も帰ろうとしないんです。それって僕が目指してたあたたかみみたいなものが他の人との間にも生まれて、ここにいることが肯定されてる状態になってたと思うんです。

半年前の広島では聞かなかったが、今回須藤が何度も繰り返していた言葉があった。

「あたたかみ」

それは東京という場所だからこそ切実に浮き彫りになった、彼の理想郷なのだろう。

東京公開の最終日、インスタに「やっとはじまった」って書いたんです。最終的には2ヶ月間もロングランして「やっと終わった」とも言えるんだけど、でも気持ちは「やっとはじまれる!」って感じで。東京って自分のやりたいことをやるには戦いづらい場所だったんです。でもそこに2ヶ月身を置いて、本当に大事なものを見つめられる腰の強さを身に付けた――そういう意味では修行の期間だったと思います

東京公開の終盤から『逆光』のインスタグラムには、再び地方からの報告が入るようになる。名古屋、岐阜、京都、大阪、神戸、福岡……これからの公開に向けての仕込みと新たな出会いの日々。

広島は成果と喜びしかなくて、東京は学びしかなかったですね。いま俺の頭の中には「東京くん」と「広島くん」がいるんです。次に岐阜で公開することになって、俺の嫌いな東京くんは「そこに可能性なんてないよ!」って言うんです。でも俺の中の広島くんは「そこに可能性はある!」って言ってくれる。で、その可能性が現実を切り拓くんですよ。現実は人の想像力で切り拓かれるから、その想像力を豊かな方向に導く哲学を僕らは立ち上げて、伝えて、実現していかなきゃいけないんです

それにしても笑ってしまうのは、彼らのメンタルがものの見事に季節と符合していることだ。真夏の広島・尾道ではじけ、真冬の東京でちぢこまった。自然のままに生きる彼ら。ではこの春、3月25日から公開する京都では何を見るのだろう?

京都は劇場も含め全部好きなんで、何やっても楽しいというか。もはやお客さんが来なくても楽しいくらい(笑)。はじまる前に負けてた東京から、はじまる前にすでに勝ってる京都への転換ですね

京都は『逆光』の前日譚ともいえる、須藤と渡辺の出会いとなった『ワンダーウォール』の街。自らのルーツですごす春うららで、またやわらかな乱反射が描かれていく。 (おしまい)


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