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「島根、あや庵にて④」(渡辺あや)~【連載/逆光の乱反射 vol.34】


『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。
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こうあらねばならない、かくあらねばならない、というキューブ(社会的な型)にハマっていた人たちを元のカタチに戻していくのが、『逆光』プロジェクトが現在進行形で起こしている改革なのかもしれない。それは洗練されすぎた資本主義社会への適応障害に苦しむ人たちに対する治癒行為であり、ヒトが野蛮で不確かなそのヒト自身に還っていく人間宣言(令和ルネッサンス!)でもあるのだろう。

清水 結局あやさんがこの『逆光』プロジェクトでやりたかったことってどういうことなんでしょう?

渡辺 そうですね……これからの日本って課題山積みで明るい希望が見えにくいんですけど、だからこそひとりでも自分の人生とか自分という存在に満足して、楽しそうに生きてる人、ゴキゲンで元気な人が増えていかないといけないと思うんです。人はキューブである必要はなくて、その人の能力、ポテンシャルをいくらでも大切にしていいし、のびのびと発揮していくべきなんだっていう意識、社会はそれを応援する意識をそれぞれ持ってほしい。というわけで、まずは自分自身と周りの人たちがゴキゲンで人生を楽しめるようにがんばるってことですかね。

清水 そういうゴキゲンな人がドミノを倒すように次々と連鎖していってるのが『逆光』の面白さですよね。あやさんに触発されてまずは蓮くんが開かれ、そこから永長(優樹)くん、京都の大学生たち、多くの観客……と就職活動をやめたり仕事をやめたりする人が続出しています(笑)。

渡辺 あと素晴らしかったのは、宣伝プロデュースを名乗り出てくれた広島のみのりん(兼永みのり)、福岡映画部の石渡(麻美)さん、岐阜のセッキー(関谷奈美)といった30~40代の女性もめきめきたくましくなっていったこと。やったことがないチャレンジに蓮くんたちと取り組むことで、みんなどんどん経験値を積んで、自信をつけて、めざましく能力を開花させてくれてました。

左:兼永みのりさん(映画『逆光』広島チーム宣伝隊長、パーソナリティ)
右:石渡麻美さん(映画『逆光』福岡チーム宣伝隊長、福岡映画部代表)
清水 その人たちは各地域の『逆光』活動を中心になって支えている人で。彼女たちも『逆光』に出会ったことで新たな可能性を見出してますよね。

渡辺 気付いたら各地のメンバーがつながって、支え合ったり応援しあったりしてる様子が面白いんですよ。例えば京都の映画館でアルバイトしてるユッキー(御景雪)が岐阜のセッキーに動員傾向をアドバイスしてたりとか、すごく有益な交流だと思うんです。あと、みのりんと石渡さんが本格的に手を組めば、広島~福岡という映画の流れを作れるんじゃないかとか。せっかく花開いた彼女たちと各地のポテンシャルがもったいないので、今回だけで終わらず今後これをどう育てていくか、そのための展開を蓮くんとも必死で考えています。

右:関谷奈美(映画『逆光』東海チーム宣伝隊長、主婦)
清水 僕は兼永さんしか見てないのですが、まさに「水を得た魚」というか。まるで何かにリベンジするようにエネルギッシュに動き回っていたのが印象的でした。

渡辺 普通東京からは地方の映画宣伝なんて全然期待されてなくて。予算とポスターだけ送られてきて、「こっちが言う通りにやってください」って感じらしいんです。だから持ってた実力が発揮できなかったし、ここまでできるっていう自覚もなかったのかもしれない。ところが私たちのようなポンコツが現れてフラフラしてるので「なんとかしてあげなければ」って気持ちになってくれて(笑)、気付いたら「私、こんなにできるんだ!」って、自分で自分のポテンシャルにビックリしてるところもあると思います。きっと彼女たちもこれまで地方というキューブに収まってたのかもしれないですね。東京に対する敗者的立場をわきまえてしまって。でもこのあいだ蓮くんも言ってましたけど、これほどの人材たちも、私たちがフラフラしなければ眠り続けてたのかもしれないと思うとゾッとするんです。こういうのを眠らせておくのは、もう業界の損失と言っていいと思います。

清水 『逆光』は福岡が終わって、6月末から名古屋で上映開始。個人的には7月16日からの岐阜公開がひとつのクライマックスになる気がします。「ぎふ柳ヶ瀬夏まつり」と一緒に「ようこそ昭和シネマの世界へ」という企画をプロデュース。そのメインイベントはあやさん企画立案、岩崎大整さん音楽プロデュース、蓮くんプロデュースの昭和歌謡ショー! まさに「柳ヶ瀬ブルース」の世界です(笑)。

渡辺 「柳ヶ瀬ブルース」を歌った美川憲一さんも来てくださるそうです(笑)。なんで自主映画チームが縁もゆかりもない商店街の祭りをプロデュースするんだよって、どこで言っても面白がられるんですけど。なんか蓮くんが初めて柳ヶ瀬に行ったときから、すごく気に入って「岐阜はがんばりたい!」って張り切ってたら、商店街青年部長さんが「映画祭やりませんか?」って声をかけてくださってこんなことになってるんですよね。今度、岐阜市長さんたちと地方都市についてトークするんですけど、私は地方都市の喫緊の課題は誇りを取り戻すことだと思うんです。経済的勝者じゃないと勝者と呼んではいけない風潮は東京に限らず強いけど、それに縛られている限りは誇りは取り戻せない気がしてます。

清水 経済勝負になったら東京に勝ち目はないですからね。儲かってるところの順番で勝ち負けが決まってしまう。

渡辺 岐阜は名古屋に対するコンプレックスが強くて、岐阜から名古屋に行く人は多いけど、名古屋から岐阜に行く人はいないそうなんです。それを聞いて、島根と広島の関係に似てるなって思いました。街の中心にシャッター商店街がどーんとあって、大型ショッピングセンターとコンビニとパチンコ屋だけがキラキラしている。地方都市がいかに誇りを回復させていけばいいのかというのは、私自身ずっと考え続けていることでもあるんですが、それには多分物語が必要で。それは別に経済で語られなくていい、というか経済じゃ無理なんです。

清水 となるとポイントになるのは「岐阜にあって名古屋にないものは何か?」ってことじゃないですか?

渡辺 その土地にしかないものですよね。これもまた答えは「自分のサイズに戻っていく」ってことになるのかもしれない……まあ難しくてまだまだ私もわかりません。でもね、昭和歌謡ショーは「街のスターがいっぱい生まれてほしい」と思って発案したんですよ。朝ドラの『カーネーション』を書いたときに、岸和田のだんじりを取材してすごくいいなと思ったのが「街にスターがいっぱいいる」ってことだったんです。別に芸能人じゃなくても輝ける人が柳ヶ瀬にも実はたくさんいるってことを証明したい(笑)。昔から祭りってそういう機会でもあったんだったと思うんです。「祭りで輝いてたあのお兄ちゃんやお姉ちゃんがいる街」って思った子供は、自分の街を誇りに思えるんじゃないかと思うんですよ。

渡辺と話しながら、冒頭に出た「東京vs地方」のひとつの答えが岐阜で見られることになるだろうと確信した。
帰り際、渡辺は外まで見送って手を振ってくれた。山中を走る国道はすぐに真っ暗闇に包まれる。人の気配はどこにもいない。普段見ることのない、吸い込まれそうな深い闇。

渡辺と話したいくつもの言葉が頭から零れ落ちそうになりながら、ハンドルを握って島根から広島へ、元来た道を南下していく。 (この項、おしまい)

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