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「須藤蓮との出会い①」(須藤蓮①)~【連載/逆光の乱反射 vol.1】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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須藤蓮が初めて広島市に足を踏み入れたのは2021年3月25日、今から考えるとほんの2ヶ月前であることに驚かされる。

須藤はその日の夜に横川シネマで行われる、自らが監督・主演を務める映画『逆光』の関係者試写会のために広島に来た。その前日は映画のロケ地となった尾道での関係者試写会。3月22日から6日間に及ぶ尾道~広島の旅は、彼にとって映画づくりと同じくらい重要な「映画配給活動」のはじまりでもあった。

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東京からスタートして地方を回る――いわゆるシャワー効果のような既存の配給システムに反旗を翻し、地方から東京へと展開していく。映画をまずは作品が作られた舞台の街で公開し、そこから東京を目指すという「逆流」のスタイルに須藤はこだわった。

「人口が少なく、それ以上にカルチャーに興味を持つ人が少ない地方でそんなアート映画を上映して勝算があるのか?」

常識を知る映画業界の大人たちは、当然のように彼の提案をいぶかった。しかし須藤は、顔と顔を突き合わせて話すことで必ず多くの賛同を得ることができる、地方の熱を引き出すことができると自信満々だった。

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須藤蓮、24歳。おかしな男だった。

現在、慶応義塾大学法学部在学中。弁護士を目指していたキャリアを封印し、芸能界に進出。所属するのは業界大手のスターダストプロモーション。2017年秋からの活動でNHK朝ドラ『なつぞら』や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』に出演。若手俳優の注目株として早くも頭角を現しつつあった。

つまりどう転んでもエリートでしかない男が、自腹を切って映画を作り、ドサ回りのような映画興行に挑戦するというのだ。順調だった俳優としてのキャリアを一旦中断し、製作者側に回ろうというのだ。

須藤蓮とは、一体どんな男なのだろう? やはり酔狂できまぐれなエリートなのだろうか?

初めて会った彼は、想像通り若くて、ハンサムで、スマートで、爽やかで、長身で、情熱的で、今風で、人懐っこく、人たらしだった。

そして想像以上に不遜さとナイーブさが同居するアンバランスを抱えていた。自分が抱え込む数々の矛盾を突っ走ることでどうにか解決しようとするような、切羽詰まったエネルギーがフェロモンのように噴き出していた。

実際、横川シネマでの試写には地元マスコミやミュージシャンなど「広島の文化系の顔役」50人弱が姿を見せ、終映後の劇場ロビーでは、須藤と彼らの熱い議論が長い間、展開された。

そしてそこから3日間の広島滞在で、彼は多くの支援者と知り合い、広島公開に向けた数々のプロジェクトを始動していくことになる。それは本当にあっという間のスピードで、こちらが見ていてア然とするほどスムーズだった。須藤と脚本家・渡辺あやが書店へ、新聞社へ、セレクトショップへと足を運び、映画への想いを熱く語ると、それを聞いた人たちは百発百中で魅了され、鼻息を荒くし、彼らの味方に付いてしまうのだ。

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私が須藤にインタビューさせてくれないか、と言ったのは、彼が東京に戻る前の晩だった。私は彼らに知り合いを紹介するためしばらく一緒にすごしたが、彼らがやろうとしていることを知り、目の前で起こっている動きを目にするにつけ、「これは記録しておかなければいけないんじゃないか」という気にさせられていた。

今ここで大事な何かが起こっている――。

それは自主映画の公開という枠組みを超えるものであり、どこか新しい生き方、新しい時代の萌芽を感じさせるものであった。そしてこの刻々と変わっていく状況、刻々と変わっていく彼らのマインドの変化をきちんと残しておいたほうがのちのち絶対面白いことになる――という下心もあった。(つづく)

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映画『逆光』は現在、配給活動を支援するためのクラウドファンディングを行っています。↓ ↓ ↓ ↓ ↓


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