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「京都は春③」(大成海)~【連載/逆光の乱反射 vol.30】

京都の大学4年生・大成海(おおなり・かい)。『逆光』の関西での配給活動に参加した彼は『逆光』にどんな影響を受けたのか?

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乱反射。光線が表面の滑らかでない物体にあたって種々の方向に反射する。物体の形がいびつであるほど、表面の滑らかさが失われるほど、反射する光線の数は多くなる。

ぼくは、『逆光』のプロモーションスタッフとしての活動を通じて、これまでよりいくらかいびつな人間になった。

まず、多くの人と出会った。京都で長年暮らしてきた大人たち。自分の表現を持っている人たち。何か面白そうなことへ飢えている若者たち。ぼくが憧れ続けているお店の大人、同世代の小説家、弟みたいなやつ、自分の欲望を頼りに映画を撮っている人……。様々な場所で、たくさんの人たちに出会い、一緒にお話をした。『逆光』と須藤蓮が京都から離れても、京都で一緒に何か面白いことをしたいという人たちにたくさん出会えた。

そして、自分の夢を堂々と話せるようになった。ぼくは作品を作者から受け手に届ける仕事をしたい。そのために、もしかしたら編集者になっているかもしれないし、ライターやデザイナーになっているかもしれない。自分のお店を開いているかもしれないし、会社を作って社長になっているかもしれない。あるいは、フリーターで複数のバイトをしながら生きながらえているかもしれない。

これまでは、なりたい職業はいくつもあったけれど、自分の能力に見合っていない気がして、他人に話すのが怖かった。けれど、須藤蓮の周りに集まってくる人たちは、自分のしたいことを高らかに掲げている。

自分の表現方法を持っている人はかっこよく見えて憧れる。ぼくもどんな手段でもいいから、自分がその時にいちばん楽しいと思えることをしたい。価値基準の最も大切なところに数字を置くのではなく、自分の直感を置くことができる人間になりたい。そう言えるようになった。

何より、須藤蓮に出会えた。

彼は頻繁にものを失くす。自転車に乗ろうと思えば、まずは鍵を求めてポケットをまさぐるところから始まる。『逆光』のチラシが入った袋をたばこ屋の前の大きな灰皿の上に忘れたこともあったし、宿泊しているホテルの鍵を誤って東京行きの荷物の中に入れたまま発送しかけたこともあるし、自分が全く違う場所に自転車を止めていることに気がつかず、他人の自転車の鍵をこじ開けようとしたこともある。

しかし、舞台挨拶でマイクを取れば、『逆光』に対する熱い思いがこぼれ、京都の大人たちと酒を飲めば「京都」に対する愛があふれる。本来なら、京都に住み、数年かけて地道に作っていく人の繋がりを蓮さんはあっという間に作ってしまう。時に勢い任せで無鉄砲な、時に熱くて丁寧なその人柄が、多くの大人と若者を虜にしているのだと思う。

自分がやりたいと言い出したことについては、どれほど困難な状況であっても身を引かない。しつこく粘って会いに行き続け、意地でも突破しようとする。それが実現しなかったケースも、実現したケースもあったけれど、実現が不可能なら次のより良い方法を考える。

ぼくは須藤蓮の京都滞在中、最も近い場所で須藤蓮の背中を見てきた1人として、自分との付き合い方、他人との話し方を多く学んだ。

もうすぐ『逆光』が京都から離れてしまう。そして、須藤蓮が次の上映地へと行ってしまう。今、こんなにも楽しい毎日を送っているからこそ、「終わり」がくることが怖い。怖くて寂しい。例えば数ヶ月後、『逆光』のInstagramを見ていると、次の土地で須藤蓮と楽しく宣伝活動しているその土地の人たちに嫉妬をしてしまいそうだ。その前に、『逆光』が京都から離れて数週間、ぼくは虚脱感と寂寥感に追われ、あらゆるものが手に付かなくなってしまうかもしれない。

けれど、ぼくはぼくで夢中になれることを見つけられるはずだし、その中できっと、ぼくなりにおもしろいことをして、成長できると思う。その小さな成長をいくつも積み重ね、数年経って、それぞれがスケールアップした時、また今の『逆光』チームが集まったら今よりもっとおもしろい「仕事」ができると確信している。

今の活動はまだ「遊びの延長線上」、「仕事の手前」という感覚であるが、いつかきっと須藤蓮が京都に戻ってきて、このメンバーで「仕事」をすることができるようになるために、僕たちはそれぞれの道を行かなければならない。もしかしたら、その機会は訪れないかもしれない。けれど、今やっていることは決して無駄ではないということは確かだ。お金では得ることができないこの経験とご縁を大切に、身体は日を重ねるごとに疲れ続けるけれど、心まますます元気になっていく、そんな生活を送っていきたい。

乱反射。外から来る情報が、いびつな心を持ったぼくの中に入り、種々の方法で消化され、新たな表現として出ていく。ひとつの情報をできるだけ多くの光線として、「乱反射」することができるよう、日々精進していくことをここに誓う。

ありがとう、『逆光』。ありがとう、大好きです、蓮さん。 (おしまい)


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