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「受け入れた人」(ref.中本健吾)~【連載/逆光の乱反射vol.11】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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映画『逆光』の配給宣伝活動には多くの広島人が協力しているが、その中でも大きな力になっているのがセレクトショップ「ref.(レフ)」のオーナである中本健吾だ。

中本はファッションの枠を超えた広島カルチャーの顔的存在。2013年からは店舗隣の袋町公園で、エッジの利いた蚤の市「ザ・トランクマーケット」を開催し、街の盛り上がりにおおいに貢献している。

そんな中本が『逆光』に“乗った”ことは広島人に大きなインパクトを与えた。しかもこれまで外部企画にハコを貸したことがない中本が、2ヶ所ある店舗スペースの一方50坪をまるまる提供。70年代の邦画ポスターの展示や『逆光』の撮影で実際使用した同じく70年代の古着販売などを行う、立体的な「ジャパニーズヌーヴェルヴァーグ展」を3週間にわたって開催したのである。しかも人気イラストレーター「たなかみさき」を須藤に紹介し、コラボグッズの製作までサポートする力の入れようだ。

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一体どうして中本はここまで『逆光』に肩入れしたのだろう?

出会ってすぐピンときたんです。蓮くん24でしょ? 最近若い子で元気のいい子はいないんだけど、「えらい元気のいい子だな」って思って。「あんなことやりたい」「こんなことやりたい」っていうのがどんどん出てくるんです。2回目に話すときにはもう具体的な話になってて、「これは乗っていいな」と腹くくりましたね。あと須藤蓮は知らなかったけど、保証人として渡辺あやさんがいたことは大きかったです。僕は朝の連ドラをずっと見てて、その中でも『カーネーション』はファッションを扱った作品ということもあって大好きで。「この人が関わっているなら映画も面白いに違いない」と思って動いたところはあります。

実は須藤との出会いの前に、中本の中ではもうひとつのストーリーが流れていた。ref.ではコロナ禍で苦しむアーティストを支援するため2020年4月から「アーティスト支援」を開始。昨年は岡山出身のシンガーソングライター「さとうもか」を支援し、メジャーレコード会社からのデビューを実現させた。中本はさとうに続く支援アーティストを探しているところだった。

そこに須藤はタイミングよくはまったわけだが、この企画に至るまでの中本の思考が面白い。

福岡に行って気付かされたんだけど、広島と福岡って同じ地方都市なのに福岡は九州7県に対してすごく手厚くやってるんです。たとえば福岡に行くと「こういう人がいるよ」って鹿児島や佐賀の人をたくさん紹介してくれて。福岡は九州中の面白い人を一度集めて、いろんな人に紹介して、その後その人を東京に進出させる文化ができてるんですよ。それを見たとき、広島は中国地方全体に対して何かやってきたのかな、と。

地元の文化やクリエイターを支援して、育てたい。現在53歳の中本の胸中にあるのも「若手育成」への想いである。

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あやさんも『逆光』は若手支援であり、映画界への恩返しと言ってたけど、やっぱり50すぎると若いヤツの世話を焼きたくなるんです(笑)。自分の知恵で近道させてあげたり、いろんなことを吸収させてあげたり。特に蓮くんなんてスポンジみたいだからどんどん吸収するし「あれはどうですか?」「これはどうですか?」ってやりとりもすごく面白くて。
で、最終的には鶴の恩返しですよ。有名になって「広島に来たらオヤジに挨拶せんといけん!」ってなってくれたら最高じゃないですか(笑)。他人のためにやってるように見えて、結局は自社のためだし僕の老後の楽しみを作ってるだけ。でもそこには夢がありますよね。自分にも夢があるし、会社にも夢があるし、そういう人たちにも夢がある。そういうのってこれまで広島ではなかったことだと思うんです。

中本が須藤との交流を語るとき、とにかく楽しそうなのが印象的だ。

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最初は須藤蓮をてのひらの上に乗せてた気がするけど、今は須藤蓮に操られてるというか(笑)。蓮くんにいろいろ言われると「まあええわ。やっとくわ」って気持ちにさせられることが多くて。うまくいく若者って大人をコントロールできる人なんです。大人に対してもてなしができたり、接客ができたり。蓮くんもちゃんと大人を転がしてますよね。それって男前だけではできないことですよ。

若者に転がされて喜ぶ大人が増えることで、街はもっと楽しくなる。ref.で行われている「ジャパニーズヌーヴェルヴァーグ展」はいよいよ8月3日(火)まで。広島でしか起こりえなかったセッションをぜひ店内で体感してほしい。(この項、完)

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映画『逆光』は現在、配給活動を支援するためのクラウドファンディングを行っています。




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