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ラブホテルバイトで死体の第一発見者になった話

これは、女子大生だった私がラブホテルでアルバイトしていた時の話である。
よく、ラブホテルバイトをしていたと話すと、

1番に印象深かったことは何?

と、聞かれる。

今回は、1番印象に残ったことを話そう。全てを忘れてしまう前に。

私が、ラブホテルで1番印象に残ったことは、
廊下での裸の徒競走を体当たりで阻止したことでもない、
普通のサラリーマンだと思っていたら、売人だった話でもない。

“死体の第一発見者“になったことである。

店長からは、働いていたホテルでは、大体5年に1度は死体案件が発生する話は聞いていた。
私が、アルバイトを始めた時、すでに前の死体から3年が経過しており
5年に1度の話を店長から聞いた時点で、全てにおいて引きが強い私は、

あー。これ、次は私が引くな。

と、直感した。

死体を引くと直感したからには、こちらもシュミレーションをする必要がある。
発見時、事後対応など、想定できうることを書き出して案件発生に備えていた。

と、まあ、店長から話を聞いたすぐにはそんなシュミレートを行なっていたが
人間とは、忘れる生き物である。半年経つうちに、次第にそんな話も忘れていった。


それから、2年が経ち、私が知らないうちに、前の死体案件から5年が経過していた。


その日は、朝9時からの勤務で、夜勤の先輩方から、いつも通りに引き継いだ。
一般のホテルと同じく、宿泊にはチェックアウト時間が決まっているので、
朝の大仕事は、10時チェックアウトのラッシュだった。

私のラブホテルは、泥酔状態で昨晩入ってきた宿泊客たちとトラブルにならないように
全室にチェックアウト30分前に部屋へモーニングコールをかけていた。

その電話に、出なかった部屋については、直接、フロントの人が部屋まで行って
部屋のインターフォンを押して起こすか、それでも起きなければスペアキーで突入する。3階くらいからなら、外に飛び逃げして部屋代を踏み倒す人がいるからである。
(私も、窓からひらり、ルパンみたいな人間に遭遇経験アリ。)


賑わった日の翌日は、いつもの間隔だと、3〜4件くらいは応答のない部屋がある。
その日も、計4件の不応答があり、1番下っ端の私がスペアキーを持って、部屋を回って歩くことになった。

みんな、爆睡しているのかあなー?
また逃げたりしているのだろうか?
とにかく、界隈の方々と揉めませんように。
突入する前に、インターホンで起きてくれよう〜と思いながら、男性が1名という最初の不応答 部屋に向かった。(男性1人利用は多い。)

ピンポーン

ピンポーン

ドンドンドン、お客さま、おはようございますー。ピンポーン
ドンドンドン、お客さまー。おはようございますー。ピンポーン

何度大声で叫んでもダメだった。
初っ端から、起きないんかい!と思いながら、スペアキーでドアを開いた。

ドアを開き、玄関があり、その先に廊下があった。

お客さまー。おはようございますー。
失礼いたしますー。
職員ですが、お部屋に入りますー。おはようございますー。

と大声で言いながら、部屋の中に進んだ。

声かけをしながら、廊下の半分まで進み、部屋の状況を確認した。
室内は暗かったが、バスルームからは煌々とした明かりが漏れていた。
その漏れ出た明かりが、廊下も部屋も薄明かりとして照らしていた。


お客さまー。おはようございますー?

廊下の半分過ぎあたりに来た時に、居室内のベッドの上が見えた。
布団も何もなく、まっさらな白いシーツしかなかった。

布団と人間は、どこに行った?
もしや、布団をクッションとして、窓から出たか?
と思い、窓の方に目をやったが、厚手のカーテンがかかっており窓も空いている気配がなかった。

カーテンに動きはない・・・。すると、人間は部屋の中か・・。

と、カーテンの上部から、下部へ目を移した時だった。
薄明かりなので、はっきり見えなかったが、カーテンの下、
床に半裸で布団を羽織って仰向けで寝ている、人を見つけた。

いた!

お客さまー。おはようございますー。
フロントですー。おはようごz

呼びかけながら、近づこうとしたが、

この人間は何かおかしい。と気がついた。

これだけインターホンをして、呼びかけても起きないということは、
おそらく、泥酔しているのだろう。

しかし、今までの経験上、これだけの泥酔をしている人からは
かなりの音量の、うるさいイビキが確認された。


いま。
この部屋は、静まり返っている。
気味が悪いほどに。

この事実に気がついた時に、私の頭の中でもピンポーン!と鳴った。



ついにきた。死体を引いたんだ。

シュミレーションだ。シュミレーションを発動せねば。
Xデーが、来てしまった現実に、だんだん震えてきた手を押さえて、
目視で、この仰向けの人に呼吸があるか、しゃがんで胸とお腹を確認した。

案の定、上下の動きは全く無かった。

私のシュミレーションでは、死んでいても生きていても。
① 1人では、絶対に対応しない。
② 発見した時間を確認。

男性1名、呼吸なし、確認、09;46。
時計を見ている間に、廊下から、清掃さんの話し声が聞こえてきた。
いつも仲良くしてもらっている、おばちゃんとお兄さんのチームである。

走って、玄関へ戻り、廊下の清掃さんを2名確保。09;47。
玄関ドアは、閉めないようにドアストッパーで固定。

清掃さんにも確認してもらい、応答なし、脈なし。09;48。
おばちゃんは、終始、こわいこわい!と言いつつ、死体をガン見していた。
そのうちに、廊下の緊急用電話でフロントの先輩へ。09;48。


先輩!先輩!わたしです!
〇〇号室、死体確認、脈なし呼吸なしです。
救急車と警察を呼んでください。
部屋に清掃さん2名います、店長を呼んでください。
私は、他の部屋の人を起こしに行きます。
(後日補足、死体の場合は蘇生できないのですぐ警察。)



と言って、他3件の不応答の部屋に向かった。09;49。

どこの部屋も、生きた人間がインターホンで対応してくれ、
良かった、死体は1件だ。
いや、1件でも嫌だ。
しかし、ついに来た、Xデーだ、、、。


と、フロントに戻るエレベーターの中で思ったのを覚えている。


そこから、警察の鑑識の方や刑事の方が来て、自分の名前や誕生日、住所や大学名など色々なことを聞かれた。予想通り、自分の行動と時間を聞かれたので、メモを見せた。第一発見者の私と、第二発見者のおばちゃん、第三発見者のお兄さんは、午前中全てを拘束された。

それぞれ、死体を見た時には部屋はどんな状況だったのかを聞かれた。
そんなこんなで、3人で廊下で椅子に座り、並んで待っているうちに、
清掃のおばちゃんが、「あーーー!」と大声を上げて立ち上がった。
警察の方々も何か、重要な証拠を見たのかと鑑識の手を止め、清掃おばちゃんを見た。

「私、さっき警察の人に聞かれた時に、今年で68になるのに、20歳になった息子の生年月日を言っちゃった!虚偽詐称だわ!どうしましょう!!!」



おばちゃんの中の重大事件だった。



と、いう死体遭遇事件の顛末でした。
おばちゃん!そこ!?っていうね(笑)
死因は脳梗塞で、お風呂に入るか上がった後に倒れたとのこと。


対応については、絶対に死体遭遇のXデーは私が引く。という強い確信があったので、
シュミレーションをしてたので良かったです!

何事も、1人で対応しないことがベストだと思います。背負い込まない、リスク分散する。

私たちも、いつどこで死ぬのか、わからないよ、と身をもって感じた出来事だったし、

歴史を見れば、「七つまでは神のうち」という言葉がある通り、つい最近の明治大正昭和までは、死がより身近にあったのかな、と思う。

以前よりも"死"が身近でなくなった今、逆にその対比とするところの"生"が曖昧になっているようにも感じる。

闇があるおかげで光が見える。
どちらかだけでは、どちらもが、曖昧にそしてその存在すら、認知できない時が来る。


まあ、それにしても、書いてて思う。
色々ありすぎて、もうお腹いっぱいだけど、ラブホテルバイト、楽しかったすなー!



おわり。






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