オキナワンロックドリフターvol.64

沖縄旅行最後の日は帰りの飛行機を早い便にしたため、慌ただしく、中の町からバスに乗り、そのまま那覇バスターミナルへ。途中、車窓からちらりと見えたアンティーク人形と風船が窓辺に飾られた店が気になった。どんな店なのだろうか。
那覇バスターミナルに到着すると、すぐさまゆいレールに乗り、那覇空港へ。車内から流れる谷茶前を聴くと旅の終わりを告げられているようで胸が痛くなった。売店でグァバジュースとさんぴん茶を買うと搭乗口へ。旅の終わりのセンチメンタルさからなのか、食欲はないので、空港では何も食べずに博多駅に着いたら食欲が戻るだろうからその時はうどんでも食べようと思った。
飛行機が離陸し、昼前の日射しを浴びて煌めく瑠璃色の海が遠ざかるとなんだか涙がでてきた。帰りたくないな。昨年の夏とは真逆の気持ちが心を過った。
ぐしぐし泣きながら遠ざかる島に手を振った。そして、鹿児島の岩だらけの海が見えると気が滅入ってきた。いっそ移住できたらと思うものの、お金もなく何のスキルもない私が思い付きだけで移住するのは自殺行為に等しい。次はいつ沖縄に来られるのかなとため息をついた。
福岡空港に着き、地下鉄を使って博多駅へ。特急の時間が近かったため、結局何も食べずに家路へ向かった。
家に戻り、旅のレポを更新する。明日からまた灰色の日々だ。次はいつ沖縄に行けるのだろうか。先の長い話になりそうで遠い目をした。
私はまた日々の生活に追われていった。相変わらず、職場の人たちのパチンコや芸能人のゴシップ、韓流ドラマの話題にはついていけず浮いてしまう。
任せられたメニューは好評だからなんとかなっているものの、それから先のメニューはなかなか作らせてもらえない。職場内では何処の派閥に入れず、さながら職場内で漂流している状態だ。けれど、働くしかなかった。
2006年、仕事が終わると精も根も尽き果てた状態になる私は横になりながら、無料動画配信サービスのヤフー動画やGyaO!で映画や昔のドラマを見るのが日課になっていった。
この年は、『チェケラッチョ』、『涙そうそう』等、沖縄を舞台にした映画が公開された年で、そのためなのかGyaO!やヤフー動画は『ホテルハイビスカス』、『ナヴィの恋』、『ソナチネ』等沖縄を舞台にした映画を期間限定配信していた。
そんな沖縄を舞台にした映画の中に、以前から見たかったものの、なかなか見られる機会がなかった映画が配信された。
『月のあかり』という映画である。
出演は人気声優の椎名へきる、 『タイムレンジャー』でタイムファイヤーを演じた笠原紳司、『仮面ライダークウガ』で一条刑事を演じた葛山信吾、ベテラン俳優本郷功次郎と最高の素材を取り寄せたようなキャストだ。しかし……。
舞台出身の監督が山羊汁に惹かれ、そこから思い付いたものを羅列し、風呂敷広げて片付けないまま終わったような映画の内容だった。はっきり言って、もし映画館で1600円~1800円払って見たならば暴れていただろう。見終わって真っ先に思ったことは、この映画を金払って見なくて良かったという気持ちだ。
これを読まれた方ならどうしてそんな映画を貴重な時間を潰して見るのか?と問われるだろう。この映画を見たのはたったひとつ理由があった。
正男さんがカメオ出演していたからだ。
映画の中盤。笠原氏演じる“男”がココナッツムーンを訪れ、酒を飲む。同時にココナッツムーンの外、マリブビーチでは、沖縄を震撼させている連続殺人鬼“ガキ”が殺した中年女性の遺体を運んでいる最中という物騒なシーン。“男”がココナッツムーンで酒を飲んでいると正男さんがライブをやっているくだりがある。
正直、サイケな服を着て、汁の中のとろろ昆布のように踊って唄う正男さんの姿には脱力しまくり、なんとコメントすべきかわからない。歌も正直言って精細を欠いており、歌の終盤にてサングラスを外した時の目付きも鋭く危うく、後に事件を起こす兆しが映像の中からも伺えて痛々しくなる。
それでも、事件前の正男さんの映像が見られる貴重な映画なので、私は正男さんが出てくるシーンを何度も何度も繰り返し見た。
さらに、そのライブシーンでは、正男さんは『南の島の神様が』という曲を唄われていた。作詞作曲は前田達也さん。どうやら90年代後半に杜仲茶の沖縄限定CMのコマソンとして前田さんが歌われた曲らしい。
何故、この曲を唄ったのだろう。風の噂に、事件の前に正男さんはこの曲をひっさげて再起を計ろうとしたと聞いた。アイランド閉店とそれによるバンド活動停止を余儀なくされた1997年から2001年の事件までの空白の4年。途切れ途切れの音楽活動の中、正男さんはどんな思いでこの歌を選び、唄ったのだろうかと、繰り返し観たせいか覚えてしまった『南の島の神様が』を口ずさみながら考えこんだ夜だった。
「正男さん、今向こうでどうしているのかな……」
私は無意識に、ぽつんと呟いた。

(オキナワンロックドリフターvol.65へ続く……)
(文責・コサイミキ)

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