オキナワンロックドリフターvol.77

昼寝から目が覚めたのはアラームが鳴る1時間前だった。顔を洗ってコザクラで何か飲むことにした。コザクラは開店したばかりでマサコさんがお通しを作っている最中だった。
「いらっしゃい、せっかくコザクラ荘に宿泊したんだし、サービスするから夕飯に何か食べる?」と問われた。私はこれから飲み会だからと答えると空きっ腹にお酒は良くないから軽く何か食べておけばと言われたのでお言葉に甘えることにした。料金は500円なり。
見とれるような手早さでマサコさんはワンプレート軽食を作られた。少なく盛られた雑穀米ご飯に野菜サラダ、唐揚げ、麻婆春雨にピクルスだ。
コザクラをされる前にマサコさんはゲート通りで屋台をされていたそうなので美味しいんだろうなとは確信していた。食べてみると予想以上に美味しく、特に唐揚げが美味しくて、生姜ベースの塩味のそれは噛むと鶏の旨味がじゅーっと口に広がった。
食べながらマサコさんとコザについて話をした。近々、インフォメーションセンターやコザについての情報サイトを立ち上げると自信たっぷりに話すマサコさん。その行動力に相変わらず凄いなと感心した。と、同時にそれは08年から12年までコザにてやたら乱立されたNPO法人や催し物の片鱗だったなと失礼ながらも今となっては思った。
食後の温かいさんぴん茶を飲み干して、いざ飲み会会場である居酒屋ちゃぼへ……と思ったものの、ムオリさん、新垣さんから少し遅れるとメールが入った。一人でちゃぼにいてはなあと思い、せっかくなので翌日の朝ごはんになるものをどこかで買うことにした。
しばらくめぼしい店はないかとうろつき、台湾料理店キャサリンに入り、冷めても美味しいものをとオーダーしたらチャーハンを提案された。え?チャーハン?
「うちのは玄米と野菜使ってるから胃にもたれないの」
商館のマダムのような雰囲気のキャサリンさんからそう勧められ、チャーハンをテイクアウトし、それだけじゃ申し訳ないのでワンタンスープを店で頂くことにした。
野菜がふんだんに使われたチャーハンは玄米がさながらポン菓子みたいに炒られており、油っぽくなくさらさらしたおこわみたいな見た目のチャーハンだった。ワンタンスープも野菜がたっぷりかつワンタンの餡が程よく濃厚で体に滋養がしみわたるようなスープだった。
キャサリンさんにお礼を言い、コザクラ荘へ引き返し、チャーハンをテーブルに置くと、居酒屋ちゃぼへ。
まだ時間があるのでくすのき通りをうろつくことにした。ゴヤ十字路周辺しか歩かない私には新鮮な町並みで駄菓子屋やスナック、こじんまりしたテイクアウト専門のペルー料理店があり、新しい発見だった。
ちゃぼに入る前に暇潰しにmixiをチェックした。すると、mixiにメールが入っていた。
マイミク申請されて承諾した、とあるオキナワンロッカーの息子さんだった。
ナユタさんと名乗る彼は東京でしばらく音楽活動をし、沖縄に帰郷されたばかりだそうである。mixiで同い年の私のページを見つけ、オキナワンロックについて調べているのに興味を持たれたのかmixiのメッセージを通して色々質問された。新着メッセージにはこう書かれていた。
「コサイさん、今、沖縄にいるんですよね?良かったらどっかで飯でもどうですか?」
考えた末に明日か明後日ならと返信したところ、すぐに「じゃあ、明後日」と返ってきた。どうしよう。一対一で会うのは少し不安だな、まさかオキナワンロックについて好き勝手書いているから、それを恨んでいるんじゃないよなと猜疑心が過った。

そんな時にさっちゃんからタイミング良くメールがきた。
「まいきー、オスカーの店って月曜もあいてたっけ?日曜の夜はバイトが入っちゃった。ごめん!月曜の朝に朝ごはんご馳走するから」
ナイス、さっちゃん!
私はmixiを通して知り合った、オキナワンロッカーの子息であるナユタさんという人から食事の誘いがあり、メッセージのやり取りをしたところ、ナユタさんもどうやらオスカーを知っているらしいからナユタさんを交えて会食できないかなとさっちゃんに返信してみた。
有難いことにさっちゃんは快諾してくれた。神様、仏様、さっちゃん様さまである。
ナユタさんに場所を指定すると、すぐに快諾のレスポンスがきた。
空いた日曜はどうしようかなと迷ったところ、マイミクでスティービー・ワンダーの格好でライブや絵本の読み聞かせをされているMr.スティービーさんが日曜日に那覇でライブをされると知り、思いきって行くことに決めた。
かくしてスケジュールはすべて埋まったのであった。
居酒屋ちゃぼに到着。引き戸を開けると、元コンディショングリーンのギタリストで店主のサーミーさんの威勢のいい声が厨房から聞こえた。
私は「予約していたコサイです」と一礼し、予約席に着き、ムオリさんたちを待った。
ムオリさんたちが来たのはそれから30分後だった。
今回の参加はムオリさん、新垣さん、チーコさん親娘と少ないものの、ムオリさんがいてくださったお陰で楽しい飲み会となった。
新垣さんはmixiでのやり取り同様ドラクエやげんしけんの話をしてくださり、私たちはドラクエ5の天空の花嫁をビアンカにするかフローラにするか、ドラクエ6は傑作か駄作か議論して、ムオリさんにツッコミを入れられた。
チーコさんは最近傾倒しているR&Bの話題をされ、ムオリさんは暇ができるとバスケットボールを楽しまれているそうで私の腹肉をつつくと「運動しないと色々片寄るよー」とからかわれ、私は反撃にとムオリさんの目の前で拳をふるった。
しかし、ムオリさんさまさまである。たまに辛辣な発言もあるものの、この方は俯瞰の視点を持ちつつムードメーカーに徹しているよなと新垣さんや私の発言を不快にならない匙加減でまぜっ返すムオリさんを見ながらそう思った。
チーコさんから「正男さんたちやキヨマサに会ったの?」と尋ねられ、私が話すと、チーコさんは「本当に嬉しそう、彼らが好きなんだねえ」と目を細められた。新垣さんには笑いながら「まいきー、鼻の下伸びまくり」と肘でつつかれたが。
料理はお勧めのメニューを適当に見繕うことにした。マサコさんのブログによるとタレ焼きてびちという隠しメニューが美味しいらしくそれもオーダー。
ムオリさんたちはお刺身、魚のマース煮、焼き魚といった魚料理の方が気に入られたようでそちらを食べ、私はタレ焼きてびちが気に入り、夢中で食べていたらムオリさんから共食いとからかわれた。もちろん、チョップで撃退したが。
前回同様食べ、飲み、話し、笑った。
お土産とチョコレートを手渡すと喜ばれたのもほっとした。午後23時になり、飲み会はお開き、チーコさん親娘は迎えに来られた旦那様の車にて、私とムオリさんは新垣さんの車に乗った。
新垣さんは、「まいきーを連れていきたい店があるけれどどう?」と誘われ、私とムオリさんは新垣さんの車で中の町にある小さなバーへ。
そのバー、“Enfant de la lune”は、80年代、金武でロックバンドをされていたロコさんという女性がお友達と共同経営されているバーだった。ロコさんの名前や音楽活動はイハさんやムオリさんを通して知り、ロコさんもネットやmixiを通してだが私を知っておられるそうだ。
どんな人だろう?粗相のないようにしなきゃという不安と、ロコさんの分に余分にお土産を持参すべきだったという後悔でいっぱいだった。
深夜23時過ぎ、中の町の夜は始まったばかりだというのに“Enfant de la lune”は静かで、店内には気だるげなシャンソンとロコさんが燻らせる紫煙が流れていた。
私はロコさんに一礼すると、ロコさんは私を一瞥するや、しゃがれ声で「あなたがムオリが言ってたアイランドが好きな内地の子?」と煙草を吹き付けつつ尋ねられた。いきなりこれかよ。
ムオリさんと新垣さんの友達だからと耐えたものの、第一印象は「この人嫌い」だった。元々自分でも嫌になるくらい人の好き嫌いが激しい私だが、初対面の人を一瞬で嫌いになるのは稀だ。ロコさんと私は絶対に仲良くなれないなとすぐに悟り、ロコさんもそう思ったのかあまり私には話しかけず、ムオリさんや新垣さんと身近な話で盛り上がっていた。
ひとまずグレープフルーツジュースを飲みながら店内を見回した。薄暗い照明でもわかるシンプルながらも凝った内装、微かに流れるエディット・ピアフはいいなと思うものの、ロコさんの態度が苦手だなと思い、単独ではこの店には二度と行かないだろうなと悟った。
完全なアウェイ状態で私はひたすらグレープフルーツジュースを飲み、おかわりして売上に貢献することに専念するしかなかった。
1時間して店を出ることにした。代金をロコさんに支払うとすると新垣さんが遮り、ジュース代を支払ってくださった。恐縮である。新垣さんにお願いし、ゲート通りでおろしてもらい、ムオリさん、新垣さんと握手をして別れたものの、ムオリさんが私に何か言いたそうな表情をしていたのが気になった。ロコさんが苦手というのが露骨に顔に出ていたから、それに対しての注意かな?と思いつつ、後でメールするとムオリさんにジェスチャーした。
新垣さんの車に手を振り、しばらくゲート通りで夜遊びすることに決めた。
0時を過ぎており、オーシャンは既に閉まっていた。JETや“Jack Nastys”に行く気力もない。疲れた体に“7th Heaven Koza”でスラッシュメタルを聴くのは逆効果かなと迷った末に、移転した“Good Times”に行くことにした。移転してから荒くれアメリカ兵の客層から地元の人メインの客層に変わったこの店は以前程の活気がなく静かだった。私はナイトキャップ代わりにカルアミルクを注文し、一息で飲むとまたお代わりし、100円払ってカラオケで唄って2日目のコザの夜を終えることにした。
唄うのはThe Whoの“My generation”。不快感を振り払うようにがなって唄い、気を紛らせるしかなかった。
こうして、やや後味の悪いコザの夜は更けていった……。

(オキナワンロックドリフターvol.78へ続く……)
(文責・コサイミキ)

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