月よあなたにを読んでみた

ちと、胸の奥にひっかかるものがあり、その小骨のようなひっかかりを取りたくて、最近は古本屋やヤフオク!で沖縄を舞台にした小説を貪るように買い込んでます。
ついでにと、部屋の掃除をしていると本が何冊か見つかりました。 2015年、8 8Rock dayの日に、昼間のコザをうろいて見つけた古本屋で買った本でした。




ボーダーインク刊大城亜子著「月よあなたに」です。大城さんは1980年生まれ。今は本業である観光業勤務の傍ら、劇団FECに所属し、すいんちゅまーまーという芸名で活躍されています。
この本の前に、99年から09年まで刊行された沖縄音楽情報誌月刊Handsで08年7月から休刊号である09年5月号にて大城さんが連載されていた小説「ナツコ」を先に読んでました。
小説では、挿し絵代わりに写真が挿入されており、元ヘブンズヘンプのボーカルのナツコさんがミヤケサクラコさんの写真の中でナツコを演じられていてそれ目当てに読んでました。
戦後の桜坂を舞台にジャズシンガーとして生きる戦災孤児の少女、ナツコの人生と恋という題材は悪くないのに、時代交渉の無視感の著しさ(昭和20年代~30年代にポールダンサーはいないだろ!音大生が17歳?飛び級?)と小道具として使われる音楽の薄さになんかコレジャナイ感に苛まれて首をかしげてしまう、そんな小説でした。
今回手に取った「月よあなたに」もそんな感じかなと思い、ページをめくりました。
内容は、戦後のコザの街で家族を失い、妹を養うために春をひさぐ少女ユサと妻帯者である新聞記者の栄治の激しい恋と生涯。
部分的にはっ!と惹かれる表現はあります。冒頭、ユサの娘の美和子がユサの自殺を知る場面、栄治からはじめてもらったプレゼントである赤いマニキュアをそっと丁寧に塗る描写、栄治と、栄治の間にできた息子を栄治の妻に奪われ、自暴自棄になった時に現れた純朴さを具現化したような病弱な青年、幸雄のユサへの愚直な愛と彼との穏やかな日々等。なのに、全体的には欠点ばかりが目立ちます。
個人的には栄治に全く魅力を感じないのがなんとも。なんでこんな男のために命がけになるのか?ユサってダメンズ好き?と突っ込んでしまう始末。
生きるために体を売り、がむしゃらに働いてきたユサが栄治に温かい言葉をかけられて惚れ込んだのは、さながらヒヨコの刷り込みのように見えて、悲しくなります。ユサ、目を覚ませ!
さらに、栄治との間にできた息子がバイク事故で亡くなり、それからのユサの破綻が救いようがなく、そのとばっちりを受けた娘の美和子と美佐子に心底同情し、ユサよりもユサに翻弄された挙げ句に捨てられた幸雄の憔悴ぶりに涙し、もし手元に石があれば、「このバカ女が!」と、ユサめがけて投げたくなる衝動にかられました。
簡潔にいえば、所々のパーツはいいのに、全体がよくない絵を見ているような作品。
恋に生きてきたといえば聞こえはいいのですが、その恋のためになぎ倒され、踏みにじられた人のことを案じ、ユサに激しい怒りを覚えてしまうのは私が偏屈かつ枯れているからなのでしょうか?
素材や所々の味付けは悪くないし好きなのにな、ただ残念としか言いようがないなと思いながら本を閉じました。


文責・コサイミキ


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