オキナワンロックドリフターvol.44

ワイアードさんからきたメールは、私の自業自得とはいえかなり胃にくるものだった。

まいきーさんへ
貴方のライブレポを読ませていただけました。
前から思っていましたが貴方さあ、なんか勘違いしていませんか?あなたが口に合わないものを不味いと標榜して、どれだけ紫のメンバーに迷惑をかけているかわかっているんですか。
的外れな考えをさも正論のように振りかざして悦に入っていますが私たちから見れば痛々しい勘違いにしか見えません。貴方の言動は正直なのではなくただ幼いだけです。もう24歳ですよね?少しはその振る舞いを正してはどうでしょうか!
それにオフ会での身勝手な行動が目に余ります。そう思っているのは俺だけならまだしも複数名からそんな声があがっています。はっきり言いますね。あんた浮いているよ。
それにあなたのサイト自体が自分に酔いしれた悲劇のヒロイン気取りで失笑ものです。何様のつもりですか?
仲間の輪を乱す貴方とはもう関わりたくもありません。しかし、あなたにもいいところは多少ありますので今までの行動や言動を猛省し、大人らしい振る舞いを身につけたらまた付き合いを再考いたしますが。
ワイアード

また、あんた呼ばわりか。
人格否定されるのは物心ついた時から少なくとも年に1回はあった。小学校時代は日常茶飯事で努力すれば努力する程詰られて円形脱毛症になるくらいだった。
今はもう慣れてすらいる。しかし、つい1ヶ月前まで掲示板でやり取りしていた人からのきつい人格否定は堪えた。
どうすればいいのだろう。
ひとまず、悩み悩みがら仕事が終わってから家に戻るとライブレポを修正した。しかし、修正すればする程私の手足が足指から少しずつもがれていく感覚になり、体が痛くて何度も泣いた。
そして加筆訂正版ライブレポをアップロードし、掲示板で反省文をしたためた。
書いては見たものの、腑に落ちなさだけが募っていった。
翌日、仕事から終わるとメールが複数きていた。
最初はチビさんのマネージャーさんからだった。

修正版読ませて頂きました。貴女にとってこの修正版が不本意なのはわかりますが、貴女自身を守るためでもあるのです。悪く思わないでください。

次に8 8以来沈黙していたコウさんからだった。

レポの修正版と掲示板での謝罪文、読んだよ。俺はまい坊のこと嫌いじゃないけれどもう少し周りを見れたらいいね!ほとぼりがさめたらまた掲示板に書き込みにいらっしゃいよ。

コウさんの言葉には多少は救われたものの、マネーペニー女史とワイアードさんからのメールにやはり違和感しかわかなかった。

ミキさんへ
ライブレポの修正版読みました。そう、それでいいのです。貴女にとって不本意でしょうが私たちはバンドの名誉を守る役目があります。そして、今の貴女とはあまり関わりたくはありませんが、貴女が分別をわきまえた大人になったらまた飲みにいきましょう。待ってます。
マネーペニーより

コサイさんへ
ライブレポと謝罪文を読ませていただけました。そこまで思い詰めなくてもほとぼりがさめたらまた掲示板にきていいですから。ね?
ワイアード

とどめのワイアードさんからのた取り繕うようなメールから私の中で、私がしおらしくしたままワイアードさんたちと関わった場合の未来予想図が見えた。 お面みたいな笑顔を貼り付けて歩く彼らの一歩後を芋虫のようについていき、自分の意見を言えずストレスが溜まり、また爆発するかじくじく病んでいくそんな未来。

人間関係の円滑化ではベストな選択肢なのだろうが、元来の我の強さが頭をもたげてしまい、自分らしく生きられないのは死ぬのと一緒だという気持ちがむくむくとわいてしまった。
謝罪文から数日後、私がしたことは『橋を焼く』ことだった。
橋を焼くというのは、“Burn the bridge”という英語表現の直訳で、渡りきった橋を焼くように後戻りできない状態にすることなのだが、『アスパーガール』という発達障害を持つ女性当事者とその親御さん向けの本によると、 負の感情の爆発から完膚なきまでに 叩き壊すように人間関係を裁ち切ることを意味する言葉である。
まず、私のしたことはオキナワンロックのコンテンツの削除だった。
次に8 8に参加されたメンバーとマネーペニー女史の電話番号とメールアドレスの削除。
今思えば、奇襲攻撃をかけるバーサーカーさながらに攻撃的にザクザクと人間関係を叩き切っていった。
以来、ワイアードさんたちを筆頭に8 8参加者からメールは全くこなくなり、私は「なかったこと」にされた。今でこそ私自身もそう思うが向こうからすれば私の行動は身勝手かつ無責任に思えたのだろう。当然だ。
そして、城間兄弟には長い手紙をしたためた。サイト休止とその理由を何度も何度も書き直しながらしたためた。俊雄さんへの手紙には謝罪を、正男さんへの手紙には約束の反故への落胆を入れて。
情けないなあ。7年前に再結成ドキュメントを見た瞬間、「この人たちを助けなきゃ、この人たちを守らないと」と思っていたのに。
ごめんなさい。城間兄弟。
手紙を書き終え、ポストに入れると焼いてしまった橋を向こう岸から眺めるような気分になった。
以来、気持ちが不安定になり、頓服の量は格段に増えた。
ワイアードさんたちには申し訳ないし、そういうところが疎まれた原因のひとつなのだが、城間兄弟を見捨てたという罪悪感でいっぱいになり、寝ても浅い眠りばかりで体力が回復せず、仕事が終わって家に帰るとぐったり横たわるしかなかった。
日課同然のサイトの更新もオキナワンロックコンテンツの休止を境にすることなく、オキナワンロック専用の掲示板も休止したのでサイトは閑古鳥。
休みの日は頓服もらうための通院以外は寝ながら本を読むくらいになった私の日常。残った常連さんが私のそんな状態を心配してかメールをくださり、特にパティさんからちょこちょこメールがきた。

アホアホまいきーへ
元気してる?メールするの遅れたけれど修正前のライブレポ読んだよ。あんたにしてはかなり甘口で書いていたね。すぐにわかった。
けれどね、あんたの言うことは確かに正論ではあるけれどやっぱり向こうにはきつかったと思うよ。そこは反省してゆっくり休んだらまたサイト再開しな。アホアホまいきー!
パティより

やはりアホアホまいきーはデフォルトなのかと力なく笑いながらもパティさんの優しさがとてもありがたかった。
パティさんと後で電話で話したところ、フランさんが心配しているという。フランさんのシャーリー・マクレーンを思わせる容姿と儚げな笑顔を思い出して胸がきゅっとなった。
しかし、無気力が私に覆い被さった状態が続き、リカバリーしてサイトの再開をするには約2ヶ月かかった。

海鼠のようにぐったりしていた私がサイトを再開したのは2つのきっかけだった。
ひとつは以前関わったジャンルの知人との再会と喧嘩別れ。
もうひとつはその後の紫メンバーとの人間関係を暗示しているような不思議な夢だった。

(オキナワンロックドリフターvol.45へ続く)

文責・コサイミキ

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