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右向け右!

古い3階建てのビル。1階は入り口と駐車場。
入り口には扉などなく、白い階段が2階まで続いている。
2階には四角く黒い持ち手のついた、ガラス張りのドア。
ドアは茶色いスモークフィルムが貼られ、それは所々剥げている。

ドアを開ける。
カランカランと上部に取り付けられたカウベルが鳴る。
受付には愛想の悪いお兄ちゃん。
私たちはいつも、ドキドキしながら「スタジオ空いてますか?」と問う。

防音の分厚いドアの向こうは、私たちだけの世界。
ここから2時間は、好きな音を鳴らし好きな曲を奏でる。
愛想の悪いお兄ちゃんも、スタジオを追い出されて舌打ちしていた先輩も、練習に行くというといい顔しない親の顔も、全て忘れて音楽にのめり込む。

Keep on Rock'n Roll !

音楽だけがこの社会への反抗だった高校生時代。

大人の言いなりになんかなるか!
易きに流されてたまるか!
敷かれたレールなんてくそ食らえ!
右向け右で同じ方向を見るもんか!!

高校を卒業すると同時に、メンバーはバラバラになった。

いまでは懐かしく思い出すだけ。
就職して、結婚して、子育てして、「普通は」なんて言葉を恥ずかしげも無く口にするおばちゃんになってしまった。

「おうさまのまえで みぎむけーみぎ!」といわれて
あさっての方を向く勇気はすっかり捨ててしまった。

それでも、心の芯の部分に、あの頃のことがある。

私は ロックンローラーだったことがある。

『おうさまのまえで
 みぎむけーみぎ!』
柏原佳世子  KADOKAWA






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