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「欲しいものは、つくる」というスタンダード:りすのメジャーのお話

りすのメジャーを、急につくりたくなりました。

発端はフェリシモの通販カタログに載っていたりすのメジャーがかわいかったこと。「これ欲しい!」と思ったのだけど、その瞬間、わが家の”心の師匠”、坂口恭平さんの「欲しいものは、つくるー」という声がどこからか。。。

私は最初、えー、つくるのは大変だよーと思ったのですが、相方は「こんなふうにすればいいんだよ」とノリノリでラフスケッチを描き始めました。(私は相方の描く絵がどんな絵も大好物。このなんともいえない味わいが、なんともいえないです)。

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△相方による、りすのメジャーのラフスケッチ。

それで、なんだかつくってみたい気持ちになってきました。。。

■まずはメジャーのリサーチから

軽く構想を考えてググってみると、メジャーを布でくるんで「マカロン形」にしてカスタマイズするのが結構流行っていましたた。なるほど、と思う。。。

でもマカロンじゃなくて、りすがいいので、さらに調べていったら、フランスのアンティークの「うさぎのメジャー」を発見。ぶっとびました。

材質は真鍮とセルロイド。ものすごく凝ったつくりのうさぎのメジャー。どんな人がどんな気持ちで、誰のために、これを作ったんだろう? かわいいというのとも違うけど💦インパクトのあるアイテムです。

フランスやドイツのアンティークのメジャーには、このほかもすごいものがいっぱいあった。「象牙製 舌だし男テープメジャー」「磁器製 猫の頭テープメジャー」とか。すごいです。。

フランス製の木の入れ物に入ったメジャーも見つかって、これもまた素敵な発想だなと思いました。

最初のりすのメジャーも、うさぎのメジャーも、木の容器のメジャーも、みんなメジャー自体はやわらかなテープ(グラスファイバー製のテープ)でした。

自分のりすのメジャーは、どうせならグリーンウッドワークの小物づくりで使えたほうが嬉しいので、少し硬さのある、金属テープのほうがいいような気がしてきました。

■りす本体は何でつくろう?

本体のりすは、かまぼこの板でつくろうと考えました。かまぼこ板なら平面が出ているから2つのパーツがピタッと合う、というのと、ちょうど今手元にあるから、という理由で。

なぜだかわからないけど、りすのメジャーがあまりに欲しすぎて。。。グリーンウッドワーカーなのに生木からつくろうとは考えずに、今すぐつくれるほうへと考えが走ったのでした!

かまぼこ板2枚を貼り合わせてりすの形に削ればいいと思い、試しにかまぼこ板で木彫りしている人がいるかな?とググってみたら、まさにその2枚貼りのかまぼこ板から木彫りのうさぎを作っている人を発見。これはいける、と確信しました。

鈴廣のかまぼこの板のサイズに合わせて、下絵を描きました。手元にかまぼこ板が1枚しかないので、その1枚を半切りにしてつくろうと思いました。

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△かまぼこ板のサイズに合わせて、りすをデザイン。

そしてさきほどリサーチした金属メジャーのなかで、このかまぼこ板半分サイズのりすに格納できるのは、「ミニメジャー」という長さ1メートルまで測れるメジャーだと、そこまで突き止めて、ひとまずこの夜は寝ました。

■やっぱりグリーンウッドワークで

翌日、駅前の100円ショップで「ミニメジャー」を買いました。そして帰ってきたら、玄関に置いていたサクラの枝が目に入りました。知人の庭師さんが半年前に剪定したのをくださったもの。大きめのスプーンをつくったあとの余りでした。

だいぶん乾燥が進んでしまって、そして菌も入っているみたいだったので、これでりすの本体をつくろうかなと思い立ち、短めに切ってから、斧で半割りにしてみた。

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いい感じのスポルティッド(菌の模様が入った)材になってました。

板でなく、枝からりすをつくれば、すでに両サイドに曲面ができているからたくさん削らなくてもいいし、この木の色味と模様はりすに似合いそう。。。というわけで、このサクラの半割りにりすの型紙を当てて、墨付け。

ミニメジャーの入る位置もてきとうに決めて、中の空洞部分を刳り。。。

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次に片っぽずつ、りすの耳やしっぽ、手足を削りました。まずは斧で粗くはつて、あとはストレートナイフで。

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△片側のパーツの下削り完了。

思ったよりかわいくできました!

■メジャーが出る場所はどこがいいのかな

ここまでがかわいくできたのでうれしくなって、途中経過をフェイスブックに投稿したら、木工友から「これって巻き取りする時にリスが走ってくるみたいになるんですか?」とのコメントが。

そんなこと考えてなかったのでおもしろくなって、試しに足からメジャーが出る場合をやってみました。

これも楽しい。。。と思いましたが、当初の構想は、りすの手元からメジャーを出して、メジャーの先にくるみをつけておいて、巻き取るとりすの手元にくるみが入るようにすることだったので、やっぱりその路線で進めました。

■くるみを装着

くるみも削ってつくろうかと思ってましたが、以前友達がくれたオニグルミがとってあったので見てみると、わりと小さめのくるみがありました(オニグルミはもともと普通のくるみよりも小ぶりです)。

割って、中身を取り出して、中身はせっかくなのでりすの表面仕上げに、つぶして塗ってみた。

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中身を取り出したくるみの殻を、メジャーの先端に接着剤でとりつけました。そして待つこと24時間。。。

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■組み立てへ

りす本体は、1つめにつくった側よりも、2つめにつくる側は大きめに仕上げておきました。両側を合わせて、輪郭がそろうように、大きめのほうを削っていきました。

枝からつくったので、理論上、乾燥が進むと収縮によってりすの顔やお尻にギャップができてくるはずですが、サクラの枝は室内でひと夏越してかなり乾燥が進んでいたみたいなので、収縮はほぼしないかもという気も。。もしギャップができてきたら、芯に近い当たりを削り落として調整すればいいので、今は左右がぴったり合った状態にしておきます。

くるみ付きのメジャーを中に仕込んで、一応完成😊

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あとはりす本体の表面をもうすこし、仕上げ用のナイフできれいにしたいです。

ても「欲しい!」と思ったプラスチック製のりすのメジャーよりも、さらにかわいいメジャーになって、とても幸せな気分です。

■使うときは

使うときは測りたいものに対してメジャーの端をなるべく低く保てるように、りすをひっくり返してつかいます。

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引き出したメジャーは、そのままステイするようになっています。

巻き取りたいときは、メジャーの角度をりすの足元寄りに変えると、自動で巻き取られていきます。

1メートルまでしか測れないですが、机の上に置いておいてもかわいいし、ちょっと何かを測りたいときに便利です。宅急便の箱のサイズ確認に、今日さっそく使えました😊

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ミニメジャーだけは新しく買ってきましたが、あとは家にあったものでできました。

道具は木工用の斧、木工用のストレートナイフ&フックナイフ(スプーンのさじ面を彫るときのナイフ)、のこぎり、接着剤でした。

■りすを削ってみて、わかったこと

木彫りのどうぶつは初めてつくりましたが、なんともいえない愉しさがありました。

枝から削ると、枝にすでに丸みがあるので、そんなにたくさん削る必要もないし、予想以上に手軽にできました。

ただ、削る場所によって、逆目にならない方向に削っていくには、ナイフさばきをいろいろに変えないといけなくて、「ここはどうすればいけるか?」を考えながらナイフを使うのは、一種のパズルみたいでした。

今までよく使ってきたナイフグリップではどうにもならない場所があって、そこで初めて、前に本で見たけどよくわからなかった「親指関節グリップ」(ヴィッレ・スンクヴィストさんが紹介してくださってたグリップの1つ)が腑に落ちました。

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△ヴィッレ・スンクヴィストさんの本『Swedish Carving Techniques』で紹介されている「親指関節グリップ」(「缶切り削り」に似ています)。

このグリップすごい便利だし、ここはこれしかない、と思った。。

そのとき改めて、数々のナイフグリップを考案して後進に伝えてきたヴィッレさんが、最初につくっていたのは木彫りの馬たちだったこと、その過程で必要に迫られていろんなナイフグリップを覚えていったと語っておられたことを思い出しました。

「親指関節グリップ」はスプーンを削っているだけなら絶対必要なわけではないグリップかと思います。でも両手&体&刃物だけで小さな木彫りのどうぶつをつくるなら、知っていると便利。てこの原理で削るので、効率がいいです。

作業台などに固定して削る方法もあるかと思いますが。。。手に持って削ると、いろんな方向から適宜眺めながら、全体のバランスを見ながら、ここはもうちょっとこうかな、と削り進めていけるので、楽しいです。

手の中の材にりすがだんだん現れてくるのは、自分で削っているのにもかかわらず、新鮮な驚きでした。

■「欲しいものは、つくる」はグローバルスタンダードかも

わが家の”心の師匠”の「欲しいものは、つくる」という言葉から、りすのメジャーづくりが始まったわけでしたが、ちょうどメジャーづくりを始めて3日めのこと、グリーンウッドワークを最初に教わった”リアル師匠”のマイク・アボットさんが、ラジオ番組を共有してくださっていました。

BBCの番組で、タイトルはそのものずばり、「みんながモノを買うのをやめて、つくり始めたらどうなるかな?」。

みんなが「買う」を減らして「つくる」を増やしたら、世界はどんなふうになるだろう? 消費主義によって、身の回りのモノとの関係性は歪んできてしまった? モノがどうやってつくられているかがわかると、私たちの暮らしはどう変わるだろう?

暮らしの中で買って、使って、捨てているモノについて問いを投げかけている、「ものづくりをする人」「修理する人」たちをフィーチャーした番組でした。

その中にイギリスのグリーンウッドワーカー、バーン・ザ・スプーンさんも登場していました。

今イギリスでは「ものをつくる人(maker)」がホットなようで。。。「職人(craftsman)」のようにつくったものを売って生活の糧にするのでなく、makerたちはモノのつくり方をみんなと共有しているのが特徴なんだそうです。

買うよりも自分でつくってみる、自分で直してみる、という体験をみんなに差しだすことで、モノをつくることの奥深さと、こうやってできているんだという理解を通じて、身の回りのモノのと関係性を見直してもらうことにつなげていってるんだそう。

私自身も、木削りでスプーンやスツールなどをつくるようになって、身の回りの日用品のなにげないデザインの中に、どれだけの工夫と熟慮と時間が込められているかがわかるようになって、暮らしに奥行きが出たし、職人さんがどれだけすごいことをしているかが実感できるようになりました。

身の回りのモノへのリテラシーが上がると同時に、なんというか、モノの前でもう無力ではなくなっていくというか。自分の手でつくったり直したりすることで、自分のもとに力を取り戻せる感覚も確かにあります。

今回のりすのメジャーは、メジャーの部分は買ってきたパーツなので、買わずに全部ゼロからつくるのとは違いますが💦でもスピリットは一緒かな、と思いました。

大変そうだなーと一瞬は思うかもしれないけれど、やってみると意外とつくれちゃう。しかも買うよりももっと気に入ったものができあがっちゃう。しかもつくってるあいだじゅう、楽しい。。。

りすのメジャーは、ほんとそれ、でした。

makerたちが増えていくと、世界はどんなふうになるのかな?と楽しく想像しています。

みんながいつでも何から何まで自分でつくるわけにはもちろんいかないわけなので、ひいてはプロの職人さんたちの尊厳が高まることにつながっていくはず、とも思うのです。

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ぐり と グリーンウッドワーク:https://guritogreen.com/



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