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音は一つの「繰り返し」で、波だった。

音は一つの「繰り返し」で、波だった。鼓膜が揺れるのを感じる。音を聞くということが鼓膜が揺れることであることをかつてないほど意識していた。鼓膜が揺れているのを感じていた。音が空気の振動であるということがわかった。音は抽象的な経験ではもはやなく、具体的な手触りを伴う何かだった。形のある波だった。僕は音の波に包まれているのを感じた。聞いているのではなかった。むしろ「ただ、そこにいる」という感覚。音が領土を示していた。領土の中に僕はいて、振動する空間を体いっぱいに感じていた。音は耳で感じるだけではないということをはじめて知った。鼓膜が触覚を持ち、空気に触れていた。手を伸ばしていた。鼓膜は空気を直接触れることができる器官だった。「空気に触れる」それが耳の機能だった。

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