次女4歳、長女5歳進捗(強欲)

次女と長女が揉めていた。

次女も長女も、お祖父ちゃんと買い物に行きたい、と言っていて、長女の方はお祖父ちゃんと「2人で」買い物に行きたいのだと言ってゴネている。長女としては、次女が邪魔なのだ。

次女の方は3人で買い物に行きたいので長女に向かって説得を試みるのだが、長女の方は全く話を聞こうとしない。当のお祖父ちゃんは、困ったなぁとか言いながらまんざらでもなさそうな様子。我が父ながらクソ役に立たん。女に弱いのである。

長女の「私が聞きたくもない話を聞く義務などない」という態度にまず私がキレて理由を問いただすと、「次女が来るとお世話が大変で、お祖父ちゃんが買うものを忘れちゃうから」と説明した。私は次に「なぜ、長女はそれが嫌なのか?」と質問した。すると、答えられないようであった。「理由は言えないけど、それが嫌だということだね?」と確認すると、長女から肯定の返答。

すると、横から次女が「次女ちゃん良いこと考えた」という提案。提案1は、「3人で一緒に行くっていうのはどう?」というもの。これは長女により却下された。次の提案2は、「次女ちゃんは我慢してお留守番する、っていうのはどう?」というもの。

次女は自分の利益より調和を優先するところがあり、4歳にしてこういう提案ができる切れ物だ。実際なかなかの人格者でもあるのだが、存外政治にも長けていて、自分の発言がその場の権力者にどう響くか、ということをよく理解している。次女は非常に柔軟で、買い物に行くという短期的なメリットを手放す代わりに、大人から「偉い」という評価を引き出し、優位性を獲得するようなしたたかさを持ち合わせている。

次女による非の打ち所がない提案2により交渉はすんなり妥結するかと思われたのだが、長女の強欲は私の予想を遥かに上回っていた。

長女は少し考えたあとで提案2を受け入れたものの、何かすっきりしない表情で逡巡しており、やがて口を開いてこう言った。

「次女ちゃんが外に出たら、車も通るし、危ないかな、と思って」

すごい!凄まじい強欲である。長女は2人で買い物に行くという目的も果たしつつ、道徳的優位性も手放したくなかったのだ。確かに、次女の巧みな政治によって「長女はワガママを通し次女はそれを受け入れた偉い子」という国際世論が醸成されつつあったことは事実だ。長女はそれが許せなかったのである。そこで、次女を連れて行きたくないのは心配だからなのだ、ということを突然言い出したのだ。こいつ、できる!

長女の発言からの数秒間、私の思考は高速で巡り、発言の意図を理解するとともに内心舌を巻いていた。それを表情には出さずに、私は長女の発言を即座に却下した。「それは嘘だろ!さっきと全然言ってること違うじゃねえか。思ってもねえことを口にするなよ」

長女は泣きながら自室に帰って行った。泣いてはいたが、お祖父ちゃんと買い物に行く準備を進めていた。私は泣きながら上着を着る長女に、「2人で買い物に行きたい、それは実現したんだから、良い子は次女に譲ってやれ。」と言った。長女は怒っていた。激怒していた。邪智暴虐の父を必ず取り除かねばならぬ、という感じになっていた。おっかねえ。なんでやねん。

まさか5歳からこんな高度なことをやっているとは想像もしていなかった。私にしてやれるのは嘘を嘘だと指摘することくらいだが、さほど意味があるとも思えぬ。長女には修羅の道が待っているだろう。しかし、父として君が自立した人間になることを絶対に諦めはせぬ。現在の感情と現実を事後的に整合させるための叙述、それを即座に作り出す業病。自分自身が嘘をついたと意識することすらない、最も巧みな嘘。治してやろうじゃねえか。

父は、大変楽しくなって参りましたよ。絶対に教育してやるからな。お父さんの男女平等は本物なんだってことを思い知らせてやる。

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