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『聲』

あるデュオの物語


モデルとなった片耳にカラスムギ。

「恵麻先輩、恵麻先輩❗」
はっと我にかえる恵麻。
「あぁ…ごめんごめん。えっと…」
「先輩、最近ボーッとしてること多いですよ❗花粉症がひどいんですか?」
「あぁ、そうそう。花粉症って、集中力なくすよね」
「やっぱり~、ちゃんとお医者さんから処方された薬の方がいいですよ❗
会議始まっちゃうから急ぎましょう」
「はいはい、わかったわかった。すぐに行くから先に行ってて。」
「頼みますよ~」
ボーッとしてたのは、花粉症のせいではない。
春は、どうしても考えてしまうのだ…
そう、何とかならなかったのかと…。

「真梨子先生、真梨子先生?」
「あっ、はい?」
「どうしたんですか、ボーッとして?」
「あぁ、ちょっと曲の構成をね。皆さんの発表会、もうすぐでしょ?」
「先生~、ちゃんと考えてくれてたんですね❗最近、何か考え事してるようだったから心配してたんですよ❗」
「春は新しい生徒さんも入ってくるから考え事が多くなるんですよ、心配しなくても大丈夫です。」
「はい、わかりました。じゃあ先生、次回終わったら発表会の構成決めましょう❗」
「はい、では次回の終了後に」
今、真梨子が考えていたのは曲の構成ではなく
5年前の春のことであった…。

20○●年3月25日 『カラスムギを
胸に抱いて、』(愛称 カラムネ、)活動休止❗
今から5年前の出来事であった。

川島恵麻(活動名 えま)現在は某飲料メーカーの企画部に所属。販売展開などを企画するチームで活躍中。
自身は法学部卒だが、音楽からも法学からも違う世界に入り今に至る。
渡部真梨子(活動名 まりこ)現在は音大卒を生かして音楽教室でピアノを教えている。
一時期、音楽から離れて飲食店でアルバイトをしていたが心の整理がつき音楽の道に戻る。
なお、教室の生徒たちは彼女が『カラムネ、』のまりこ であることは気づいていない。

「先輩、帰りご飯いきません?ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんですよ~」
「ごめ~ん、今日は先約が入っているんだ。来週にしてくれる。来週なら全然空いてるから」
「え~っ、先輩…デートですか?」
「違う違う、ちょっと変な噂流さないでよ❗」
「はーい、じゃあ来週お願いしま~す、お疲れ様でした~」
(今日はダメなんだ、3月25日はね)
「さっ、帰ろう」
恵麻は歩きながら5年前のことを思い返していた。
仲違いした訳でもない、意見の相違もなかった。音楽性もあった。
では、なぜ…?

「さてと、帰るとしますか」
「あっ、真梨子先生❗」
「安田さん、どうしました?」
「真梨子先生の家、□■デパートの方ですよね?あそこにストリートピアノあるのご存じですか?」
「あっ、知ってます。私もあそこで弾いたことありますもん」
「へーっ、先生も。いつくらい?」
「えっと…いつだったかな~?
って、それより?」
「あぁ、デパートの方に届け物をしてほしくて。私、ちょっと急ぎで家に帰らなきゃならなくなったんで。お願いできます?」
「構いませんよ、久しぶりに見てみたいし」
「では、これお願いします」
(あそこのピアノでデビュー前に腕を磨いていましたなんて言えないよね)
真梨子も歩きながら考えていた。
何で活動休止になったんだろうと…。

高校最後の文化祭で恵麻は歌を歌いたいと思っていた。
でも一人でステージに立つ度胸はなく、誰か一緒に立ってくれる人を探していた。
ある日、音楽室からピアノの演奏が聴こえてきた。
(あっ、この曲…好きな曲)
気づいたら音楽室のドアを開けていた。
ピアノを弾いていたのは真梨子。
彼女を見た瞬間、確かにある『聲』が聞こえた
(この子しかいない❗)
「文化祭で一緒に歌わない?」
『カラスムギを胸に抱いて、』結成の瞬間である。

「□■デパートで買い物でもしていきますか」
恵麻はデパ地下で今日だけは贅沢しようと買い物にきていた。
1階入り口から入るとピアノの音色が聞こえてきた。
(あっ、この曲聴いたことある)
恵麻はピアノの方へ向かった。
そしてそこに真梨子の姿が。

真梨子もまた曲に聴きいっていた。
演奏者 仲本桜 曲名『水□のオーケストラ』

「真梨子❗」
真梨子が振り返ると、そこには恵麻の姿が。

その時、恵麻はまたあの『聲』が聞こえた。
(さあ、また歌う時よ❗)
「真梨子~、とりあえず…お茶しない?」
「ちょっとだけ待って❗今、最後の曲を弾くみたいだから」

「……、では最後の曲を。私の好きなアーティスト カラスムギを胸に抱いて、 の『二重世界で光る夜と眠る朝』聴いてください」

「こんな偶然ある?」
「ないない、絶対ない❗もう私、運命感じたわ」
「恵麻は相変わらず単純だからな~」
「でもね、確かに運命感じたの。だってさ…」
「『聲』が聞こえた?」
「えっ、えっ⁉️何で知ってるの?」
「何でって…私も聞こえたし」
「はいっ?」
「だーかーらっ、私も聞こえたの。(目一杯歌いなさい❗)って」
(二人、顔を見合わせる)
「はははっ」
「あははははっ」
「私たち、何で活動休止したんだっけ?」
「何でだっけ?」
「まあ…細かいことはいんじゃない?」
「そうだね」
細かいことではないと思いますが、二人にとっては些細なことらしいです。
カラムネ、のファンにいわせると、そこが魅力ということを付け加えておきます。

それから数ヶ月が過ぎ…
7月某日、『カラスムギを胸に抱いて、』の活動再開が発表された。
新曲のタイトルはリセットの意味も込めて『白紙』という曲がリリースされた。

続く…かも

※登場する人物等、全て架空の設定であります。
なお曲名は実在する曲名ですが、あくまでも曲名から筆者がイメージしたフィクションであり実際の歌詞の内容とは異なることを注記しておきます。
※当物語は『片耳にカラスムギ。』の曲名を題材にいたしました。
※次回は違うアーティストさんの曲名を題材にした物語を制作する予定です。

#作 #超短編小説風 #片耳にカラスムギ



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