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音楽を聴きながらブランコに乗る。

ブランコをこぐ。それが私のストレス発散方法だった。

仕事で疲れた。でも、なんかモヤモヤする。
そんな夜は、近所の神社にあるブランコを思いっきり漕いだ。

武蔵浦和駅から伸びる、車通りの多い通り沿い。そこに神社はあった。
そこには桜の木があって、その下にブランコが2つ。とても小さな神社だったので、遊具はそれぐらいしかなかったような気がする。

桜の時期に乗ると、足先が桜の花にぐっっと近づく。それが嬉しくて、何度も何度もこいだ。
当時の私は26歳。離婚をしたばかりの母と二人暮らしをしていた。

駅から家に帰る途中、なんとなくまだ帰りたくなくて、その日も神社に立ち寄った。時刻は21時前後だったと思う。

耳にはイヤホン。iPodからONE OK ROCKの曲が流れてくる。当時めちゃくちゃハマってて、声と歌詞が好きすぎて何度も何度も聴いた。
通勤の時電車の中で聴いてると、『今日も頑張るぞ!』って思えた。音楽を聴くと、耳からエネルギーが入ってくる。それが全身に行き渡り、私は充電される。

ブランコのお供にもONE OK ROCKを聴いた。9mmや、ELLEGARDEN、アジカンも聴いてたけど、当時はONE OK ROCKを一番よく聴いていた。

音楽を聴きながら、勢いよくブランコを漕ぐ女。しかも夜に。はたからみれば間違いなくヤバイ奴だろう。私もそれは認識してた。ただ、通報されはしないだろうと思ってたし、ブランコが楽しすぎてハイになってた。

今私は無敵だー!音楽を聴いてれば元気だし、ブランコに乗ると気分がいい。邪魔する人もいない。

ところが、その日はいつもと違った。
ブランコでブイブイ言わせてる私の元に、男性2人が近づいてきたのだ。歳は多分二十歳すぎかな?スーツ姿なので、私と同じ仕事帰りだろう。

(‥ん?これ、まずいやつ??)

とか思うものの、ブランコの勢いはそのまま。
視界の隅に二人を入れつつも、目線は合わせない。だって、怖いじゃん!関わりたくないよー!

来ないでくれ〜!という私の願いは届かず、二人組のうち一人が、私の隣に座った。

つまり、ブランコに乗った。


おおう。スーツでブランコ乗る人初めて見たぜ。大人になっても、ブランコ乗る人私だけじゃないんだなぁ。

と、やけに冷静に分析しつつも、鼓動は早くなる。逃げるべき?逃げるべきなのか??
でも、心とは裏腹に、私は全力でブランコをこいでしまう。楽しくってやめられない。

そんな私が面白かったようで、隣の彼も全力でブランコをこいでいる。 
彼は連れの男性と何か話しながら、楽しそうにブランコに乗っている。私には話しかけない。うん、美人じゃなくてよかった!←

なんとなく、この人は大丈夫だ。と思った私は、隣の彼に負けないように、体の動きに集中する。ブランコで人に負けたくないという謎のプライドがあるからだ。

二人の大人が、全力でブランコこいでいる姿はかなりシュールだったろう。
でも、これは真剣勝負なのだ。名前も知らない彼と、私の。

決着をつける術もないし、会話もしないので、勝敗はわからぬまま、彼はブランコを降りた。そして、連れと楽しそうに話しながら帰って行った。


そんな彼の背中に『ありがとう、楽しかったよ』と小さく呟く。

一人で無心にこぐブランコは最高だけど、たまには誰かと一緒にこぐのもいいもんだな。

そう感じることができた、春の夜のお話でした。

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