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「ムットーニのからくり文学館」

2021/03/17 @世田谷文学館

人形劇をしている友達を誘って、からくり人形劇に行く。ひさびさに会えて嬉しい。

世田谷文学館へは以前「ヒグチユウコ展」で訪れた。特設展のほかに、ちいさな図書館があり、これまでの展示で取り上げた作家たちの本が並んでいる。ヒグチさんの絵本もちゃんとある。

ムットーニという作家は初めて知った。文学作品を元にからくりを作り、上演プランを立てて朗読まで手がける。多才。からくり、面白い。

夏目漱石『夢十夜』「第七夜」。読み返さねばと思った。たぶんいま読めば分かる気がする。黒い波までの無限の落下を、からくりで見せるのが巧い。
中島敦「山月記」。李徴の語りが省かれていたので残念だ。虎のからくりも、座った位置が悪くて見えなかった…。
芥川龍之介「蜘蛛の糸」。紹介文にはこうある。「蜘蛛の糸を登りきったら、彼は極楽に入れただろうか。」連れに言われて気づいたが、糸をよじ登る罪人は皆スーツを来ており、サラリーマンのようだ。ムットーニのオリジナル表現か、極楽と奈落の中間である糸の道は、真っ暗闇だという。ほんとうは、どこまで行っても極楽などなく、無限の上昇を続けるこの過程こそが地獄のようではないか。説話を元にした小説を元にして新たな作品が生み出されていて面白かった。
萩原朔太郎「題のない歌」。一番見ていて楽しかったのはこれだ。所狭しと並ぶボトルやグラス。ウヰスキーを煽る腕の繊細な動き。朗読がはじまると、酒場から追憶の波止場へと、鮮やかかつダイナミックな場面転換が見られる。
そして村上春樹「眠り」。正直これを見るまでは人形劇を侮っていた。以前、演劇をしている後輩が、村上春樹「鏡」を上演したいと言っていた。舞台上に大きな鏡を置くのは難しく、置けたとしても【鏡像が実像と違う動きをする】部分はそのまま表現できないと悩んでいた。映像を使うにしても、役者は映像と寸分違わぬ動きを再現しなければならない。ムットーニのこの作品にも鏡がある。【鏡像が実像と違う動きをする】ことはないとたかを括っていたのだが、見事にだまされた。鏡の奥にもう一つ人形が仕込んであったのだ。
演劇より人形劇、人形劇よりからくり人形劇は、動きに制約が多く、その範囲内で楽しむものと勝手に思い込んでいた。名演技をしたからくり人形たちに謝りたい。

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