私が陸上競技観戦にハマるまで

実家が箱根駅伝のルートの近所にあった。小学生の頃は父親と一緒に国道1号線まで足を運び、新聞屋からもらった旗を振って応援し、帰宅して母親に「私たちテレビに映ってた!?」と聞くのが毎年1月2日と3日の恒例行事だった。よく分かってなかったけど対称性が好きな子供だったので、紫っぽい赤で胸にWと書いてある大学と、黒っぽい紺色で胸にTと書いてある大学を勝手にライバル関係だと思い込んで応援していた。中学生くらいになるとみっちり観戦はせずともなんとなく強豪大学の名前は把握できるようになり、ラジオを聴く父親に「今年はどこが速いの?」と訊くような触れ方になった。山神といえば柏原竜二で、そこに設楽兄弟の加わった東洋大学が最強であるという認識であった。

高校を卒業して北海道の大学に進学し、以降自宅にテレビを置いておらず、年末年始は帰省の時にしかできない墓参りなどを優先するようになり、大学駅伝界がどうなっているのか全く把握しなくなった。ニュースで青山学院大学が優勝したと聞いて驚愕した覚えはある。私が子供の頃なんてシード権に引っ掛かるか否かくらいの大学で、優勝争いをしているところなんて見たことがなかったからだ。時代は変わるもんだなあとふんわり思った、それきりだった。

配属された研究室の先輩が箱根駅伝のファンだったことを、配属して数年経って知った。ご出身は関東どころか本州でもないそうだから、なぜ出会う機会があったのか本当に謎である。しかも毎年の選手のタイムと区間ごとの推移をご自分でエクセルでまとめて考察するガチぶりである。この先輩と駅伝の話をした後に、懐かしくなってYouTubeで柏原選手の4年分の山越えをまとめた動画を見た。

箱根駅伝から離れている間に、私はすくすくと強キャラ好きに育っていた。優秀な周囲を軽々と抜き去り、悠々と置いていく、目を見張るような、尋常でない強さを見せつけてくる、そういう圧倒的な存在が本当に好きだ。

当然ながら心を奪われた。まさか自分が幼い頃から親しんできたものに、ここまで私にハマるものがあったなんて…という衝撃も感じつつ、これをきっかけにYouTubeで箱根駅伝の動画を見漁った。

すると、YouTubeのおすすめにニューイヤー駅伝の動画が出現するようになった。


これらの動画をアップしているYouTubeチャンネルこそ、世界陸上競技選手権大会、通称世界陸上を独占放送するTBSが陸上競技のみにフォーカスし、放映権を持つあらゆる大会の映像をアップしまくっているTBS陸上ちゃんねるだったのだ。

この時点で2023年の年始〜2月くらいだったと思う。2022年オレゴン大会のハイライト動画やダイジェスト動画が目につきはじめるのにそう時間はかからなかった。タイミングも完璧だった。

気が狂ったように世界陸上の実況動画を見始めた。作業用BGMを求めていたので動画時間の長い長距離トラック走動画を中心に見始めたが、すぐに1500m走や400mハードル、マイルリレー、そしてフィールド競技にも夢中になった。

この2本の動画でウガンダのジョシュア・チェプテゲイ選手の大ファンになってしまった。2017年の大会ではレースをコントロールしつつも最後の最後でファラーに敗れた20歳の青年が、2022年には終始レースを引っ張り最後まで先頭を守り切る王者の風格を漂わせているのがアツい。世界記録保持者でありつつファラーが去った後一度も王座を譲らない、速さと強さを兼ね備えた最強のランナーであるところが好きだ。ラスト100mのスパート時の脚の伸び方も若干ファラーに似ている気がする。

あとドラミングが世界一サマになる男なところも好きだ。チェプテゲイ選手は選手紹介時や表彰式などでドラミングを披露することが多い。ウガンダは野生のマウンテンゴリラが生息する国立公園が有名なので、そこにちなんだパフォーマンスなのだと思う。良すぎる。


男子1500mで一番好きな選手はケニアのティモシー・チェルイヨト選手。もう何も言うことはない。かっこよすぎるだろ!!!!!!!!!!!!あとこの動画の再生数が他と比べてそろそろ2桁に届くくらい多く再生されてるのが面白い。こんなに再生回数多いならもっとチェルイヨト選手の名前も有名になっていいのにな…。チェルイヨト選手はこれ以降2022年オレゴン大会では6位、2023年ブダペスト大会では準決勝落ちとなかなか結果が出てないので、パリ五輪には復活してほしい。そういえば最近男子1500ケニア代表にもう一人チェルイヨト選手いるよね?毎回「チェルイヨト頑張ってる…!……別のチェルイヨトだ…」てなるんだが。チェルイヨトってケニアではよくいる苗字なのかな。田中とか斎藤みたいな。

男子1500mは優勝する人がころころ変わるところが面白いところだと思う。そして優勝候補と言われ続けつつまだ世界陸上1500では金メダルを獲ったことないヤコブ・インゲブリクセン選手、さぞ悔しかろう……。でも私は次大会もチェルイヨト(ティモシーの方)を応援してるんで!!!!ヤコブくんに優勝されちゃうと困るんですけどね!!!!!!!!


ハードル走というものに興味を持つきっかけになったのがこの動画。正確に言えばそれまでの大会とのレベルの差に驚くこの動画のコメント欄。男子400mハードルの世界記録は1992年にケビン・ヤングが出した46秒78以降破られることはなかった。世界陸上やオリンピックでも47秒台で優勝できるのが当たり前だった。2021年に、ついに時は動いた。7月にノルウェーのカルステン・ワーホルム選手が世界記録を29年ぶりに破ったことは皮切りにすぎなかった。8月3日の東京五輪決勝は、世界記録が驚異の45秒台へと突入し、世界歴代2位、3位が更新される伝説のレースとなった。その世界歴代トップ3の記録を持つ選手が再び激突したのが、この世界陸上オレゴン大会の決勝。金メダルを獲ったのは、東京五輪で3位だったブラジルのアリソン・ドス・サントス選手。東京五輪で打ち立てた自己ベストをさらに更新し、大会新記録を更新した。東京五輪で2位だったアメリカのライ・ベンジャミン選手はここでも銀メダル。男子400mハードルの世界は一変し、もはや46秒台に乗らなければメダルを取ることは難しい時代になった。…みたいなことは、コメント欄を読んでWikipediaの「400メートルハードル」の項目https://ja.wikipedia.org/wiki/400%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AB を調べて初めて知ったことだった。

こんなことって現実でマジであるんだ。スポーツ漫画のレベル100みたいなことじゃない?30年間破られなかった世界記録より速く走れる人間が同じ時代に突然3人現れたんだよ?1人の強者がゴリゴリ更新していくんじゃなくて、複数、しかも人種も国も大陸も違う選手が同時によ?物語より現実の方がよっぽど面白くね?????こんなプロット絶対書けないもんな。人間の頭で思いつけることには限界がある…。今一番アツい競技の一つは間違いなく男子400mハードルだと思う。


フィールド競技観戦に本格的にのめり込んだきっかけがこの動画だった気がする。跳ぶまでの緊張と跳躍が成功した瞬間の爆発があまりに気持ち良すぎて頭がおかしくなるかと思った。あとバーシムの不調が治った瞬間イタリアのジャンマルコ・タンベリ選手が抱きつくシーンも好き。

棒高跳びってなんでこんなことができるようになるのか全くわからない競技第3位じゃない?1位はスキーのジャンプ、2位は体操全般。こうなるまでの練習の過程で失敗したら命の危険ない?意味がわからないのだが…その意味のわからないところが好き。スウェーデンのアーマンド・デュプランティス選手はもちろん言うまでもなく凄いが、その陰で虎視眈々と実力を伸ばしアジア人初の6m越えを果たしたアーネスト・ジョン・オビエナ選手を私はめちゃくちゃ推している。デュプランティス一強に見えるけど実はオビエナはしっかり彼のライバルとして食いついていると思う。


こんな感じでTBS陸上ちゃんねるの動画を見まくり、泉谷駿介選手のDL初出場や北口榛花選手の日本記録更新などを経て、満を持しての世界陸上ブダペスト2023に帰省のタイミングを合わせ、毎夜実家のテレビにかじりついた。世界陸上の特集が組まれた月刊陸上競技2023年10月号も買ったし、古本で2022年と2019年の世界陸上特集が組まれた月刊陸上競技も買った。月刊陸上競技は日本選手だけでなく外国人選手のインタビューや記録の変遷も丁寧に追ってくれるので本当にありがたく、以降毎月購読している。

現在一番ソワソワしているのは12月3日のバレンシアマラソン。世界陸上男子10000mで3連覇中のチェプテゲイ選手のマラソンデビューの日である。正直チェプテゲイ選手にはもっとトラックで走っていて欲しいし、次の世界陸上東京大会でもトラックを走る姿を見たいという感情があるのだが、彼がマラソンを走る姿も見てみたいという感情もあり、ここ2ヶ月ほどずっと落ち着かない気持ちで日々を過ごしている。早くチェプテゲイ選手の次のレースが見たくて仕方ない。パリ五輪も待ちきれない!


最後に、東洋大学の復権を願っている。

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