文学研究として可能なことを一つずつ積み上げる

日本国際文化学会の年報が完成した。これから順次会員へと発送され、書店で注文できるようになる。

7月に近畿大学で全国大会を開催した。ここですべてをかけるつもりで「個別」と「普遍」を議論するシンポジウムを企画した。本誌には巻頭特集として、その議論の内容がすべて収められている。

そもそも国際文化学への接近は、2010年代の国際情勢が後押しとなった。リベラルが善とされ、グローバリゼーションによる開かれた世界が肯定されていた中で、自国第一主義が勃発し、「ナショナル」という枠組みが新たな意味を持つことになった。その時より一貫し、「個別(=国)」と「普遍(=国を超えるもの)」を考察している。むろん僕のアプローチは文学であり、作家という「個」の精神を研究対象とする。国際政治を議論する専門性は備わっていないが、自分は「国際社会に対峙する個」に他ならない。文学作品は異文化に直面する個の証言として、国際文化学の研究対象になり得ると考えている。その議論を突き詰め、仲間を巻き込み、敬愛する先生に基調講演をお願いし、学会の場で議論を仕掛けたのが昨年のシンポジウムだった。

今の世界情勢を前に、文学を読んで生きている自分が語れることは、相変わらず文学についてである。だが、それはこの世界を前にした我々一人ひとりの精神へと繋がっていく。昨年の議論ゆえ、我々はロシアのことも、ウクライナのことも語っていない。だが文学をめぐる議論、そして仲間たちの歴史や思想を軸として「個別」と「普遍」を論じた試みは、今だからこそ多くの人に読んでもらいたい。

僕の考察は研究対象を少しだけ変え、今年もまた続いていく。相変わらず僕はロシアを語らず、ウクライナを語らず、国際政治を語らない。文学を通じて個の立場から「個別」と「普遍」を語ることが、この時代を切り開くために自分ができることだと考えている。

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