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古い酒、新しい皮袋

息子が「逃走中」に夢中になっている。以前のテレビ放送を見て心を奪われたようで、ニンテンドースイッチのソフトを買い、大人顔負けの技術で進んでいっている。

「逃走中」は確かに面白い。そして(もう終わってしまったのだろうか)「戦闘中」という姉妹番組もあった。ともに良くできた番組だが、中身は至ってシンプルだ。言ってみれば「おにごっこ」と「ドッジボール」である。その単純な遊びに「ファンタジー性」を加味し、フィクションとリアルを混交させることで新しさを醸し出している。

このように「誰もが知る単純なもの」を「新しい枠組み」に入れたものは、しばしば高い人気を獲得する。僕はこれを「古い酒を新しい皮袋に入れる」と比喩している。これは僕のオリジナルではなく、古今のSFをメタの構造に入れ込んだ『ハイペリオン』の批評の言葉だ。「従来の枠組み」の中で新しいものを作り出そうとする試みは、あまりにも多くの挑戦で埋め尽くされており、参戦するのが難しい。それゆえ僕は意識的に「古い酒を新しい皮袋に入れる」ことを選択してしまう。

文学を読み、語ることは、あまりにも長いあいだに渡って続けられてきたことだ。今よりも少し若かった頃、プルーストを読み、ボードレールとの関係を論じた。そしてその研究はあまりにも「ど真ん中すぎる」と言われた。だけど自分が読み、語りたいのはこれだった。どうしても真ん中に直球を投げてしまう。それゆえに文学研究という枠組みを脱するしかなかった。

教育という「皮袋」の中に自分のプルースト読書を入れてみようと思ったのは最近のことだ。それは今のところはうまくいっている。しかしオンライン授業の困難さは、皮袋は気を抜くと古くなることを教えてくれる。今の授業を入れ直すことのできる皮袋を探すために、学生との対話が続いていく。

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