EP.25 そして許されぬことはない
えーと、もう一度いいですか?
「君はいま、魂の状態で、ここは君がいた地球から離れた夢の世界のようなところ」
・・・・・・・・・あー、えーっと、で?
「ボクは君の魂とお話しして、ふさわしいものかを試験するためにやってきたんだ」
・・・あのー・・・お話が突然オカルトになって正直全く全然さっぱりついていけないのですが。
「まぁ、この話も信じる信じないは君次第だけど」
またそれですか。
「いやあ、それ以外に言うことないんだよね」
・・・魂って、つまり、あの、死んでるってことですか?
「あー、それはボクにはなんとも」
え?!
「一度死んで転生する直前なのかもしれないし。ただ眠って夢を見てるだけなのかもしれない。リストの中にいたのが君で、その担当がたまたまボクだったってだけだよ。どちらにせよ、君は目覚める手前にいる魂ってことしかわからない」
でも・・・なにも思い出せないのは・・・
「生きてても死んでても、ここに来る魂は、それまでの人生を忘れることになっているんだ。ありのままの君とお話しするためにね。だから、いま自分が何者なのか分からないってのは当たり前の話なわけ。これまでの君の発言に、私だの僕だのという一人称がないのもそういうこと。口調だって男とも女とも取れるし」
あぁ・・・なるほど。
あの、それで、ふさわしい魂かって話は・・・
「さて、ではこれより、卒業試験を始めるよ」
卒業、試験?
「言っただろう? 君という魂がふさわしいかを見極めるためにボクは話したんだって。どれだけお勉強できたか試させてもらおうじゃん」
そんな、意地の悪そうな顔をして・・・
「それではまず、牡羊座は?」
エレメントは火で、活動宮。
例えるなら赤ちゃん。
純真で、無垢で、自分のことを認めてもらいたい。少しそそっかしいけど、それが魅力。
「じゃあ牡牛座は?」
エレメントは地で、不動宮。
ハイハイを始めた子供。
のんびり屋さんでマイペース。安心できる場所にいたくて、それを全身で味わえて、穏やかさをまとってる。
「では双子座は?」
風と柔軟宮。
立って歩き始めた子供。
色んなものに興味があって、時に周囲がびっくりするような発見をする。いつも軽やかでのびのびとしてる。
「ん、蟹座」
水の活動宮。
立って歩いて、世界を認識し始めた子供。
自分が守りたいと思ったものは絶対に守る。その殻の中に大切なものを入れて愛情という水をあげる。
「うん、獅子座は?」
火の不動宮。
おしゃれを覚え始めた中学生かな。
目立つのも特別扱いされるのも大好き。でも、だからといって偉そうにしたいんじゃなくて、自分の輝きで人を照らしたい。
「乙女座は?」
地の柔軟宮。
自分の行く末を考え始めた高校生。
ロマンと現実が両立できる人。とても繊細で傷つくこともあるけど、でも答えを出すことからは絶対に逃げない。
「天秤座」
風と活動宮。
世界と対峙し始めた大人。
全体のバランスを見て、調和を取ろうとする。正しい間違いではなく、美しさで物事を整えていく。
「蠍座ー」
水と不動宮。
一生添い遂げることを決めた婚約者。
何かと溶け合うような関係を望み、1度そうしたら裏切らない。
「射手座」
火と柔軟宮。
絶えず何かを追い求めていく冒険家。
自由を愛し知識を愛し、風を切って世界へ飛び込んでいく。
山羊座は地と活動宮。
古城を受け継いでいく野心家。
責任感があり、それでいて純粋な感覚を持ち、自分の身の回りを守っていく。
水瓶座は風と不動宮。
途方もない世界を描く理想家。
誰もが当たり前だと思っている常識を軽々と飛び越えて、その向こうへ飛び立つ。
そして、魚座は水と柔軟宮。
純白の澄み渡った魂。
境界を越え、ただあるがままを見つめ、支配することもされることもない。
「ばっちりじゃん。これなら何も言うことはないね」
あの、ちょっと、今感じたことを話して良いですか?
「なんだい?」
・・・・・・・・・これまでの話を信じます。
もちろん、本当は嘘なのかも知れない。
けれど、信じます。
「ふうん、興味深いね。・・・その胸の内を聞いても良いかい?」
・・・まず、最初のオカルトのような話。魂とかそういう話。
これが嘘か本当かは分からない。
「あぁ、そうだね」
自分がミナヅキさんに騙されているだけなのか、ふさわしい魂、とか、本当のところは分からない。
「そうだね」
でも、今までの話を全て、全て信じるのなら、
地球には、さっき言ったような人たちがたくさんいるんですよね?
「そうなるね」
そして、さっき言ったのは太陽星座と言われるものだけの話。
月星座や他の惑星の星座も含むと、例えば同じ牡羊座でも、色んな牡羊座がいるんですよね?
「そりゃそうさ。突撃ばかりの牡羊座、怖がりの牡羊座、考え込む牡羊座、色んなのがいる。もちろん、牡羊座だけじゃない」
なら、信じます。
地球には、世界には数えきれないくらい素敵な人たちがいるんだって。
「素敵なだけじゃないかも知れないよ?君に意地悪するヤツ、邪魔をするヤツ、否定するヤツ、危害を与えるヤツだっているかもしれない」
それは、たしかに、ちょっと困る。
・・・・・・・・・でも
「でも?」
優しい人、暖かい人だって、同じくらい存在するんじゃないですか?
「・・・・・・・・・うん。全くもってその通りだ」
なら、僕は/私は、世界は無限大の可能性に満ちているという思いを選びます。
そのために、信じます。
「ふふっ、もう何も言うことはないね・・・・・良いよ。なれば、扉を開けよう」
一瞬。
ミナヅキさんがそう言うと、これまでの風景が一変した。
講堂のようだった光景は、暗い、漆黒の、しかし点の光で溢れる光景に変わった。
「ここは誰もが見上げた青空の向こう、そこに輝くは生命の灯火。あの青い、丸い光が見えるかい? このまま、まっすぐ進んで。そうすると、地球だ。時にどこへ進んでいるのか、このままで良いのか迷うかもしれないけれど、星の光に従って進むんだ。着くべき所に着くさ」
どの光に従えば?・・・と言ったら、自分で決めろって言うんでしょうね?
「ふっ、物覚えがいいね」
・・・あの、ミナヅキさんは、結局、何者なんですか?
「さあ? ただの怪しい星詠み師かもしれないし、ただの意地悪な試験官かもしれないし、ただのおしゃべり好きな人間かもね」
これからも、ずっとここで?
「さあ? どうだろうね?」
・・・とても、とても楽しかったです。本当にありがとうございました。
「御礼を言われるようなことは何もしてないんだけど・・・ま、元気でね。風邪引かないようにね」
・・・はい。また、いつか。いつの日か。
そう言って僕は/私は進みだした。
「生まれ変わったら・・・また会おうじゃないか」
ミナヅキさんが、最後にそう言った意味を、聞き返そうと振り返ろうとしたけれど、その時にはもう、辺りは一面、漆黒に包まれていた。
歩んでいるのか滑っているのか、不思議な感覚。
・・・これから、どんなことが待っているのだろうか。
いや、きっとそれは、自分で決められるんだ。
どんな道を歩いていくのか、
何を見ていくのか、
全部自分で決められるんだ。
何をしよう。
何を見よう。
何を聞こう。
何を嗅ごう。
何を食べよう。
何に触れよう。
そう、思っているうちに、ふと思い出した。
Nihil verum, omnia licita.
あの場所の扉に刻まれていた言葉。今なら意味が分かる。
この世に真実はなく、許されぬことはない。
・・・そうか。そうだったんだ
途端に足下の方へ吸い込まれる感覚がした。
あぁ、いよいよだ。
そう思って、ふいに上を見上げた。
漆黒の空間と、無数の星と・・・幾筋かの流星が見えた。
――――--------
「新入生は講堂に集合!」
目の前で光が弾けた。あまりの眩しさに、思わず目を閉じる。
次に瞼を上げたときには、大きな門の前に立っていた。
門の先には立派な白い校舎。
整備された道の上を、同じ制服を着たたくさんの学生たちが門をくぐっていく。
ここは・・・ああ。そうだ、自分は、これから・・・
「こら、そこの新入生! ぼーっと突っ立ってないで、これから寮分けの入学式なんだから、急いで!」
こちらに向かって聞こえてくる声には、なんだか聞き覚えがあった。
思わず振り返ってみると、そこに立っていたのは、一人の女性だった。
どこかで会ったことがあるだろうか、思い出そうとして・・・何も出てこない。
「どうしたんだい? もしかして緊張してる? 今からそんな調子だと、この先持たないぞっ」
女性はこちらに近づいてきて、明るく笑った。
「ボクはミナヅキ、この学園の学園長さ。早速だが、 入学おめでとう!」
鐘の音があたりに鳴り響いた。
Fin,
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?