EP.0「覚醒」〜星詠みの物語〜
目の前で光が弾けた。あまりの眩しさに、思わず目を閉じる。
次に瞼を上げたときには、一枚の扉の前に立っていた。
その扉には「Nihil verum, omnia licita.」という言葉が刻まれていた。
あたりを見回してみても、扉以外には何もない。
手元にさえ何もなく、財布やスマホすらない。
ここは、どこだろうか。
なぜ、ここにいるのだろうか。
今まで何をしていたのだろうか。
浮いては沈んでいく疑問、けれど、何故だか目の前の扉は自分を呼んでいるような気がして・・・
気づけば、取っ手を掴み、扉を開けていた。
「やあ、よく来たね」
扉の向こうに立っていたのは、一人の女性だった。
全身をすっぽりと覆うローブのようなものを着ている。
髪は片側が水色で、もう片側がピンクという奇抜なスタイルだ。
辺りをうかがってみたが、彼女以外には誰もいないようだった。
あの、あなたは一体・・・
「ボク? ボクの名前は、ミナヅキだよ! ミナヅキさんでも、ミナヅキくんでも、ミナヅキちゃんでも、君の好きなように呼んでいいからね」
えっと、ミナヅキ、さん・・・?
「さあ!まずはお入りよ。中は広くて暖かいからさ〜」
笑顔で手招くミナヅキさんに導かれるままに、中に一歩足を踏み入れてみる。
彼女の言う通り、そこはとても広かった。
白を基調とした立派な内装に、高い天井、正面の奥には舞台のようにせりだした空間があり、そこに向いた椅子がいくつも列を為してずらっと並んでいて・・・まるで講堂のようなところだと思った。
ここはいったい・・・
「おおっと、 聞きたいことはたくさんあるだろうけれど、まずは座って座って!」
話を逸らすようにミナヅキさんにぐいぐい背中を押されて歩を進め、促されるがままに中央のあたりの一席に腰を下ろす。
ミナヅキさんも、まるで当然のように隣の席に座り、リラックスした様子でこちらに向き直った。
「焦らない焦らな~い。今からそんな調子だと、この先持たないぞっ」
そんなことを言われても・・・
あまりに突然のことばかりで、戸惑いばかりが増していく。
それに、この先持たないって、一体なんのことだか・・・
「うーん・・・どう説明したらいいかなあ。まあ、率直に言わせてもらうとね、これから君には、星詠みについての話を聞いてもらうことになってるんだ。星座の話、惑星の話、宇宙の話、色々と。つまり、長丁場になるってことさ!」
・・・・・・ちょっと待って。
星詠みって・・・何故、いきなりそうなるのだろうか。
「わかるわかる。理由が気になるよねえ・・・そうだなあ、ボクの『見立て』だとそういうことになっている、今はそれが理由としか言いようがないんだ」
見立てって・・・
「今の時点で、理由を詳しく話しても分かんないだろうし、もちろん、聞き流してもらってもOKだよ。ただ、それでもボクは話し続ける。いつまでも、どこまでも、『その時』が来るまで語り続ける。そういうことになっているんだ」
ミナヅキさんはそう言って含み笑いをしながら、しかしその瞳の奥には・・・何か不思議な意志が宿っているような気がした。
「あと、一応聞いておくけどさ。今すぐに帰らないといけない用事ってある? というか君、自分の名前、わかるのかな?」
それは・・・・・・・・・あれ? 出てこない。
どうしてだろう、口を開いても、自分の、自分だけが持つはずの名前が出てこない。
「生年月日は? 出身地、親、兄弟、友達の名前は? ここにはどうやってきたの? ここに来る前は何してた? なんでもいいから思い出せることは?」
・・・・・・・・・。
どうしてだろう。
たしかにあった気がするのに、やはり、出てこない。
「それなら、ここでゆっくりしていくといいよ。その内、何か思い出せるかもしれないし、ね」
そう言って、ミナヅキさんはまた笑う。
まるで、人を食ったような人、という感じの笑い方だ。
「じゃあ、まずは星詠みの話をするにあたって、いきなり星座だの惑星だの言われても分かんないだろうし。まずは、星詠み、つまり星占いとは何かという話をしようか」
話がどんどんと進んでいく。
そのスピードと強引さに、困惑しているけれど…少しだけ、少しだけ話を聞いてみようと思い始めている自分もいた。
それにしても、星座、惑星、宇宙・・・なんだか、ずいぶんスケールのでかい話だ。
これから一体、どんな話が聞けるというのだろうか?
次回EP.1「星占いってなに?」
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