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◆4月◆ パチスロの未来を憂う

 我が家に娘が誕生したとき、自分は父と一つの約束をした。正確には「約束をした」と言うよりも「否応なしに約束させられた」と表現した方が正しいのだけれど、その約束の内容は「少なくとも年に二回は娘(つまり自分の父にとっては孫)を大分の実家に連れて帰って成長を見せること」だった。

 父の気持ちは痛いほど良くわかる。さして裕福な家庭でもないのに、無理をして大学まで行かせた息子が勝手に仕事を辞めて東京に出て行ったのだ。その経緯については拙著『枠上人生~パチスロ生活収支帳』に詳しいのでここでは割愛するが、何もかも捨てて故郷を後にした自分に対して父は期待を裏切られたように感じていたと思う。しかも、当時の自分はすでに三十路も半ばに近く、おそらくはこのまま跡継ぎもなく家が絶えると思ったはずだ。

 そんな状況で、ほとんど諦めていた初孫が誕生したのである。自分にとっての父は頑固で融通のきかない恐い人だったが、宮参りの際に孫を見に上京してきた父が顔をくしゃくしゃにして喜んでいる姿は、かつての父からは想像もできないものだった。これぞまさに「目に入れても痛くない」というやつなのだろう。自分はこれまで、父のこんな姿を見たことがなかった。

【4月3日(月) 晴れ・強風】

 今年も父との約束を果たす時期が訪れた。一般的に里帰りは盆または年の暮れというのが相場だが、そうした時期の航空運賃は信じられないくらい高いため、最近ではいわゆる閑散期、具体的には4月や10月の割引運賃が適用される時期を見計らって里帰りするのが我が家の恒例行事となっている。

 そんなわけで、スケジュールを調整してついさっきガイドの原稿書きは終わったが、手配した飛行機のチケットは明日の朝8時15分の便なので、とりあえず今日は何もすることがない。もちろん、自分ももう若くないのだから今日は明日に備えて自宅でゆっくりと休養するのがベストなのだろうが、徹夜明けでウトウトしている時にイベントを知らせるホールからのメールが届いたなら、何となく元気になってしまうから自分の体質は不思議である。

 そして娘を保育園に送り出した後、向かった先はいつものN店だった。今日のメールは「全機種・全シマに設定6を大量投入」という非常に嘘くさい内容なのだが、そうであるにもかかわらず心を動かされたのは、追記で「初ビッグ後にクレオフしたら設定6」と書かれていたからに他ならない。実にありがちだが、N店がクレオフイベントを行うのは初めてだし、だったらそれなりに期待できるんじゃないか? 初ビッグでクレオフすれば良し、クレジットが落ちなければ家に帰って明日の準備をすればいい。そう考えて会員優先入場の最後尾で入店すると、イベント狙いの客でごった返す北斗や銭形のシマとは対照的に、出玉性能面でやや劣る機種のシマは閑散としたもの。そんな中で選んだのは『鬼武者3』である。

 もちろん、これには理由がある。もしも北斗や銭形のクレオフ台に当った場合には何が何でも打ち切らねばならなくなるが、明日のことを考えると少なくとも夕方にはヤメる必要がある。それなら欲をかかず、鬼武者あたりでまったりと勝負するのが良いだろう。

 そんなわけで、馬鹿の一つ覚え(設定上げ狙い)で前日に最もビッグ回数の少ない表カドを押さえたのだが、一歩下がって液晶の動きを一望すると、隣の台だけデモ画面のスクロールが微妙にズレているのがわかる。単なる個体差か、それとも設定変更時に発生する現象なのか正確なところは知らないが、気になる以上は打ってみるのが良いだろう。1Gも回さずに台移動するのは少しばかり気が引けるが、下皿に置いたタバコを隣に移して打ち始めると、投資3Kでバケを放出した。もしや、これはリセットか? だとしたらこの台も前日に沈み込んでいるし、設定上げの可能性が大である。そう考えて嬉々として続行すると、次はBET百鬼でビッグを放出し、そのビッグ中に「キラリ~ン!」という心地よい効果音と共に液晶の左端にカマー星人が出現した。

 ラッキー! これにて32G以内のビッグの連チャンが確定である。鬼武者に限らず大量獲得タイプはとにかく初期投資が嵩みがちだから、少ない投資である程度の持ちコインが出来ると以後の展開が本当に楽になる。いや、ゾーン抜けでヤメても結構な浮きになることだし、クレオフしなければ勝負を切り上げてもいいかな…。そんな自分勝手な考えを思いきり台に見透かされたのか、ストップボタンをネジりまくって最終JACを消化したが、残念ながらクレジットは落ちず。やっぱ、そう上手くコトが運ぶはずもないか。

 ところが、気を取り直してBETボタンを押したのに何故だか全く反応しない。不思議に思って台上の呼び出しボタンで店員さんを呼んだところ、やって来た店員さんは何事もなかったかのように手動でリセットして去っていったのだ。まさか手動になっているとは気づかなかったけれど、いつからこの店はこんな面倒くさいことをするようになったんだ?

 この時は、てっきりゴト対策か何かで店の全台が手動リセットになったと思ったのだが、気を取り直して打ち始めた自分の台の上に「金」と書かれた札がぶっすりと刺さったではないか!

 わけがわからず「これは何なの?」と店員さんに訊ねると、意外にも「初ビッグ終了後にクレオフした台は設定6確定です」との返答。てゆーか、クレオフといえば普通はビッグ後にクレジットが落ちることを言うんじゃないんですか? 素朴な疑問を感じたが、もちろん文句を言うわけにもいかず、とりあえずこれで夕方までのまったり勝負を続けることが確定した。だが、いざ帰るべき時間が来ると今度は設定6を捨てるのが惜しくなるから、自分は本当に貧乏性である。結局はそのまま閉店近くまでブン回し、帰宅したのは午前様になろうかという頃だった。

 もちろん、妻と娘はとうの昔に寝ていたが、あまりにも遅い帰宅に腹を立てたのかドアのフックがかかっていた。

本日の収支
プラス16万5百円

【4月18日(火) 晴れ】

 里帰りも無事に終わり、再び東京に戻ってきた自分を待っていたのは原稿ラッシュだった。それはそうだ、一週間も仕事を放り出した以上は必然的にその間のツケが回ってくる。当然のことながらパチスロを打つような時間は全く取れず、それからの一週間はほとんど仕事部屋にカンヅメ状態だった。

 そんなタイトな進行が、何とか一段落したのが今日の明け方である。連日の徹夜に疲れて本気で眠い。しかし、明日からはまた次の仕事が待っているわけで、どう考えてもパチスロを打てるのは今日しかないから困りものだ。

 さて、どうしよう。このまま心ゆくまで長寝するのもアリだけど、それではあまりにも非生産的である。だったらここ数日間に溜まりまくったストレスを発散させるために、今日は久々に朝イチからパチスロを打ちに行った方がよほど生産的だ…という理論で完全武装した自分は、燃えるゴミの袋を両手に提げて家を出た。妻から「今日も遅くなったら家に入れないからね」というエールを受けた手前もあるが、先日の後始末が気分的にかなりこたえたので、今日だけは早めに勝負を切り上げようと思う。ならば、5号機を打つのが正解だろうということで、向かった先は某繁華街のM店だった。

 狙いは全国デビューを飾ったばかりの『ボンバーマンビクトリー』。パチスロ必勝ガイドの記事を読んでどうしても打ちたくなったのだが、インターネットで設置店を検索しても2~3台しか導入していない店がほとんどなのに、M店はなぜか2シマ10台も導入している。これだけあれば、台取りに苦労することもなかろうというわけだ。ところが、開店と同時にボンバーマンのシマを目指して走るも、すでに全台の下皿にタバコやらケータイやらが置かれていたからビックリである。朝イチに全台が埋まるということは、5号機によほど力を入れている店ということなのか?

 しかし、その考えはどうやら大きな見当違いだったようである。しばらく待っていると、何と次々に先客がヤメていくではないか。自分は真っ先に空いた台を確保して打ち始めたのだが、周囲の状況を見る限り大半の客が「リプパンハズシ」を行っていない。それどころか、店員さんを呼び止めて「この台の天井はいくつなの?」と訊ねている年配客までもが居る。しかも、店内アナウンスを聞くかぎりでは、今日がボンバーマンの新装初日らしい。つまりアレですか? 皆さん、4号機と勘違いして打っているってことなのね。

 笑い話ではない。現在の「5号機」を取り巻く環境は、まだこの程度のレベルなのである。とりあえずボンバーマンのゲーム性は堪能したけれど、もしかしてパチスロの未来はさほど明るくもないんじゃないか…と、老婆心ながら一抹の不安がよぎる一日だった。

本日の収支
マイナス6千5百円

4月のトータル収支
プラス13万7千円


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