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Mercedes Benzが生き残りを賭ける中国市場

ここ最近、ダイムラー社・ケレニウス社長のインタビューなどの記事を様々なメディアで見る事ができます。その中でも日経新聞にあった「EVのソフトウェア部分を中国のAIやソフトウェア技術に依存していく」という内容に興味を持ちました。

「ドイツに高級自動車産業あり」をBMW等と共に世界に示し続けたMercedes Benz、乗用車を全てEVにすべく動いていますが、2021年に北京にEV車両向け開発センターを設立しエンジニアを1,000人規模で抱えました。中国は強制的な脱ガソリン車によるEV化を推進していますので、世界最大の人口を持つ同国はEV市場としても非常に大きな可能性を持っています。ダイムラーとしても、Mercedes Benzを実質的に中国製とする事で中国市場でのプレゼンスを確保していきたいと思っているようにも感じます。

しかしEVで使われるソフトウェア、いわゆる車の頭脳になってくるわけですが、どうしてその頭脳まで中国のソフトウェアに依存しなければいけないのかという思いがあります。それはある意味でドイツ車としての矜持を放棄するようなものだと自動車大国日本の国籍を持つ1人として感じるわけですが、同社にとってはその矜持よりももっと重要な理由が中国にあるのだろうと思います。勿論中国のソフトウェア開発、AI開発の能力の高さは世界トップレベルでそれを使いたいと考えるのは間違い無いと思うのですが、それ以外で私が考える理由の1つは同社の中国依存率の高さです。同紙によると現在のMercedes Benzの中国売上比率は36%(Audiは43%)あり近年急速にその依存度を上げています。中国富裕層の数は世界的に見ても群を抜いていますので同社の高級車は彼らのニーズを満たせる逸品です。経済的に豊かで無い国でMercedes Benzを多く販売しようと思ってもそれは簡単ではないという事を考えますと、同社の販売戦略上どうしても中国に依存せざるを得ないという環境にあるのは彼らの現実だと思っています。

そして中国は2035年にガソリン車撤廃を掲げています。中国における次世代車としてEVがその中心になっていくと言われており、既に中国のEV市場には中国の国産車、米テスラ社等のライバルが勢いを増してきています。Mercedes Benzにとってはこのような現在進行形の危機がある事から、ドイツ車である事以上に中国で売れなければ会社自体の存続の危機に瀕するという点でMercedes Benzの中国化を加速させる理由(焦りとも言うのでしょうか)になっているのだろうと思っています。

少し話題が変わりますが、なぜ日本のトヨタはMercedes Benzのように完全EVへ即座に向かわないのか、それは昨今豊田社長が各地で言葉を述べられている内容の他にMercedes Benzとは異なる市場環境、ポジショニングの部分があると思います。

トヨタにおける中国比率は2020年で20%以下とMercedes Benzほど高くはありません。勿論大きな市場として捉えているとは思いますが、トヨタの場合はMercedes Benzと異なり「緩衝帯」があります。Mercedes Benzのターゲットは富裕層という限定的なマーケットで世界中に広く分布しているターゲット層ではありません。一方でトヨタの場合は富裕層から低所得者層までを抑えられる全世代型のマーケットで、そのマーケットは世界中に散らばっています。その為、中国マーケットを大事にしつつもMercedes Benzほど中国に依存しすぎる必要性は高くはない、中国リスクに対する緩衝帯を世界中で持っている事も強みだと思われます。それに対して、繰り返しになりますがMercedes Benzは富裕層中心のターゲティングである点から世界一の富裕層を持つ中国から「絶対に逃げられない」という状況にあると察します。

ではこのままMercedes BenzはEV化し、ダイムラーは中国万歳のEV企業になるのかといえばそうでもないと考えています。その鍵になるのが「e fuel」です。e fuelプロジェクトというものが欧州自動車メーカーを中心に続けられており、このプロジェクトには水素燃料も含まれています。水素といえばトヨタが力を入れ、水素による自動車社会を目指すと掲げているあの水素になるのですが、表向きは全面EV化のような看板を掲げているダイムラーや欧州企業はしっかりとEV以外の道も模索をしているしたたかさも持っています。世界がEV時代になると述べられカーボンニュートラルの旗頭として推進したい日本の政治家と、その一方的な流れに警鐘を鳴らしたい日本の自動車業界の問答が最近ありましたが、カーボンニュートラルへの思いを抱く政治家の気持ちもわかりますが、世界の自動車メーカーの動きを見ますと、日本の自動車業界側が広く戦略を持ちたい気持ちもよくわかります。カーボンニュートラルと自動車産業の戦略は同じ箱の中だけで議論する事は難しいのだろうと私は思っています。

ちなみに、ダイムラーのケレニウス社長は最近トラック事業を本体から切り離した事について、商用車では水素技術を推進するとインタビューで述べています。彼曰く「水素は1日1,000km近く走行するトラック向き」との事で、EV以外の次世代車への可能性もしっかりと残しています。

今後、日本において大切な事はEV万歳だけで進むのでなく、日本の自動車メーカーの技術革新と共に、世界の自動車産業の趨勢を見極められる政治家の登場、日本の自動車産業を世界の頂点に維持できるような国家政策等が必要だと思っています。そして完全EVにしないと世界の中での日本の自動車産業は終わるかのような一部政界における論調についても是正していく必要があるだろうと思っています。その点については元F1レーサーの山本左近さんも今回の衆院選で国会議員になりましたので、国家としての自動車産業の議論がより深化していく事を期待したいと思いますし、大の車好きの1人として、これからも日系自動車メーカーを応援し続けていこうと思っています。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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