kissへのプレリュード
送ってくれるはずの車は、一歩エントランスを出た隙に後姿を遠ざけた。そう、姿を黙認しつつ、無情にも走り出したのだ。
(またやった・・・)
そう、初めてじゃない。小走りに追いかけるわたしの滑稽な姿に、運転席の彼がほくそ笑んでいるのが目に浮かぶようだ。もちろんそのまま走り出していくわけではないことも知ってる。困惑するこちらの姿を見て楽しんでいるのだ。
案の定、数キロ先で車のお尻は赤く光って止まった。そしてカチカチと点灯する両えくぼが、これまた惨めさ加減を増幅させる笑顔にすら見