サンクコストという名の呪縛

人間の心理を紐解く上でサンクコストという概念は無視できない。

サンクコスト(もしくは埋没費用)とは、過去に投資したものの既に回収出来なくなった費用のことを指す。

興味深いのはそれまでに掛けたサンクコストによって、現在ないし未来の意思決定が左右されてしまうということ。簡単に言えば「もったいない」という心理が働いて正常な判断が出来なくなってしまう。

サンクコストの影響は社会の至る所で見受けられる。

投資家の場合であれば、明らかに下降トレンドである銘柄に対し「この株は長期間保有し続けてきたんだから今後絶対に伸びる」と、その時点における損失を認めることが出来ず無駄に株を保有し続ける、という態度がまさにそれに当たる。

判断のプロである投資家でさえ、この心理的影響から逃れることは出来ない。一流の投資家であればそれも織り込み済みだろうが。

男女関係も例外ではない。これまで散々パートナーに尽くしてきた女性は「尽くす」という精神的なコストを掛けてしまっているため、パートナーと縁を切ることが出来ない。内心では「別れたい」と感じていても、掛けた費用を惜しんで別れを切り出せないどころか、その後も熱心に尽くし続けてしまう。それが行くところまで行くと今度はDVと呼ばれ始める。

水商売やアイドルに至っては、とにかく客に対してサンクコストを掛けるように仕向ける。こういった業界は人間の心理に対する造詣が深く、中でもサンクコストを巧妙に利用して金を巻き上げようとする傾向が強い。見た所、上位のプレーヤーほどこの技術を使って大金を稼いでいる印象がある。意識的か無意識的かは知らない。おそらく前者だろう。

ソーシャルゲームも同じ要領だ。何としてもユーザーに課金してもらえるように工夫を施し、サンクコストを掛けさせた上でユーザーがゲームから離脱できないような仕組みを構築する。

こうやって見てみると、経済活動の何割かはサンクコストによって回っていると判断しても構わないかもしれない。

サンクコストは時として人間の判断を縛る呪いにもなるわけだが、仕掛ける側にとっては客を捕まえて逃さない縄の役割を果たしているのかもしれない。なかなか収斂味があるな、と。

まんまと引っかからないように用心したいものだ。

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