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ベルバディーの幻想~南インド、歌声に誘われ

 「着きましたよ。ベルバディーです」
 チャーター車でうたた寝に身を任せていたから、僕らは運転手の声に目を覚ました。
 運転手が車を路肩に寄せて、サイドブレーキを引いた。物音一つしない村に、車のドアを閉める音が響いた。
 未舗装のほこりっぽい道に面して、そのヒンドゥー寺院はあった。
 入り口では、日本の神社のこま犬みたいに、一対のゾウが前脚の膝を折り僕たちを出迎えてくれていた。ゾウと言っても石像だが、ほんの先ほどまでその辺を歩いていたような感じがした。
 僕らはこれまで訪れた寺院と同じように、裸足になって堂内に入った。

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