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Fake,Face 17

 近所の眼科で検査を受け、眼球そのものには異常がなかったが、ヨシオの顔は右半分がガーゼで覆われた。そこにマスクをするとミイラ男が帽子をかぶっているような風体となった。すれ違う下校の小学生たちから、ざわめきが消えた。
 さらに輪をかけてヨシオは体調を崩した。居酒屋でつまんだ生ものに当たったのか、腹をこわして行きつけの内科にも通い、鎮痛剤などの薬によってうつらうつらしながら家では寝室でラジオを聴いて過ごした。

 ときどき窓を開けてモズやコジュケイのさえずりに耳を澄ませた。コゲラのギーギーという声にジョウビタキの甲高いソプラノが混じり、市街地にも秋の終わりを告げていた。
 植え込みのアジサイは葉を落とし、もう冬芽を硬く太らせている。
 旅客機が重いエンジン音を引っ張って、澄んだ空気を震わせた。ヨシオは首をひねって左眼で機影を追った。
 暮れていく空遠く、短い飛行機雲があった。それは西日に照らされてナイフのように輝いていた。

 痛みが引いて、ヨシオは腹を決めて洗面所の鏡に向き合った。
 照明をつけ、ガーゼを外した。
 鏡の中に、右眼窩に赤黒い打身を残した男がいた。
 ワタナベヨシオがヨシオを見て少しほほ笑んだ。

(おわり)

シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!