突然の密会(内科医律vol13)
週明けの月曜日の夜
いつもの様に律は通常業務を終えて当直帯の勤務に入っていた。紹介状の返事、保険の書類などの事務仕事を片付けたり、新たな学びのための本や動画視聴などをしているとあっと言う間に21時近くなっていた。
週末の疲れがあるのか、眠気をいつもよりも感じていたため律は早めに当直室に移動することにした。
医局から真っ直ぐ続く廊下は既に暗く、人の気配は消えていた。その一番奥に当直室がある。灯りを付けると綺麗にベッドメイキングされた真っ白なシーツが周囲の暗闇とのコントラストで眩しく見えた。
まだ肌寒い3月で、一日中人が活動がなかった冷えきった部屋の空気を感じた律はコンタクトを外し、メガネをかけて当直用の軽装に着替えてロッカーに上着を取りに行くために当直室を出た。
するとさっきまで人の気配のなかったロッカーから物音が聞こえる。
病院での仕事を15年以上続けている律でもさすがに「ビクッ」としたが、しばらくするとロッカーの奥から人の気配がした。
「あら、先生、当直ですか?お疲れさまです」
ベージュのコートに真っ白なマフラーを巻いた姿の皆藤紗那がそこには立っていた。
律「お疲れさまです、こんな時間に物音がしたのでビックリしましたよ、残業ですか?」
皆「あ、お化けだと思いましたか?w」
「そうなんです、年度末でいろいろ事務は忙しくなる
時期なんです、てか先生って普段はメガネなんですね?」
律「あー、完全にスイッチオフな姿を見られてしまいました、お恥ずかしい・・・」
皆「あー、特別な人しか見れない貴重なお姿だったんですね?見ちゃった!得した気分ですw」
皆「当直室ってここにあったんですね、医局はたまにお邪魔するのですが知りませんでした」
律は瞳から聞いていたあのクリスマスイヴの夜の事を思い出していた。誰が書いたのか不明のメモ書き。
そしてそれをそのタイミングで律の机に置けた唯一のアリバイがある皆藤紗那が今目の前にいる。
しかしまさかの不意打ちとも言えるタイミングで完全オフな姿を晒してしまった今、それを問いただすことなど到底律には出来なかった。
皆「へぇ、なんか意外と綺麗なお部屋なんですねぇ?」
皆藤紗那はそんな律の心中も知らずに興味津々に当直室の中を覗き込んでいる。
皆「当直の日は先生お一人なんですか?」
律「そうですね?これから朝までは私が管理者代理みたいなもんです、あとは夜勤者が上の病棟にいるくらいですね」
皆「じゃあこの真っ暗なフロアに一人じゃないですか!寂しくないです?てか怖くないですか?w」
律「もう慣れましたけど、さっきはざわつきましたよw」
皆「あ、そうでしたね、ごめんなさいw
毎週月曜がお泊まりなんですね?
じゃあ来週は何か用意して差入れしますね、当直頑
張ってくださいね!」
皆藤紗那は不敵な笑みを浮かべて律にそう言うとコートのボタンを閉め直して玄関へと歩き始めた。
律「遅いのでお気をつけて」
律はそう言うと、玄関へ向かう廊下の角を曲がる時にチラッとこちらを見て会釈する皆藤紗那を見送った。
込み上げていた眠気もいつの間にか消えていた。
to be continued
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