Chapter.02 Autumn
【第2章 2020秋】
2020.October
3.
26歳になった。
金木犀の香りが、帰り道至る所で香って、ああ、1年で一番そわそわする大好きな季節がきたなと思う。秋生まれでよかったな。
行きつけのお店の仲間たちがお祝いをしてくれた。全く予期していなかったし、社会人になってから人に祝ってもらえることって少なくなったからすごく嬉しくて、わたしも大切な人たちの誕生日はもっと大事にしなくてはと思った。今年はもっと人生を豊かにしていきたい。
11.
なんだかまたこういうことで自分が劣っていると思ってしまうのだ。相手が誰であろうと、自分が劣っている理由を探してしまっているのかもしれない。これだから私には無理なのだと納得させようとしているのかもしれない。いつになったらこんな自分をやめられるのだろうか。
私の見た目が醜くなければこんな風に思わずに、
誰にも申し訳ないなんて思わずに生きれたのだろうか。一つづつ変えていく努力はしても、元から持っているものを少しづつ変えていっているつもりでも、自分が好きな自分でいても、結局全て第三者が介入した瞬間に一瞬で崩れ落ちる。根本的に自信なんてないんだ。
いいなーって思う男の子がいる。でもきっとわたしは自信を持つこともできずにこのままこの気持ちを溶かしてしまう。もう恋愛がこわい。本気になるのがこわいからきっとこの気持ちをなかったことにする。
16.
仕事中にインスタのDMの通知。
何故だかなんとなく、今日連絡が来る気がしていたが本当に連絡がきた。
仕事終わりに男の子と会う予定があるってこんなに浮き足立つのかと思いながら渋谷の街をスキップしそうな勢い。駅に向かって人混みの間をすり抜ける。好きな人ができそう。26歳の秋。
18.
今日、ご飯に行く。これはデートと言って良いのかな。自分とご飯に行きたいと思ってもらえること自体がもう嬉しい。良い人のふりをするわけでもなく、自然体で楽しい時間になればいいなって、ある程度緊張してる。恋愛ってわからない。幾つになっても正解なんて分からないんだろうな。
この人は、わたしが一番好きな自分を、そのままのわたしを肯定してくれている気がする。決して期待はしてはいけない。まずは相手のこと、もっと知れたらいい。
19.
これを骨抜きというのだろうか。
素のままの自分を肯定してくれる男の子がこの世に存在するなんて。こんなの始まる前から失うのが怖すぎる。つま先から頭のてっぺんまでわたしの全てを褒めてくれた人が今までの人生でいただろうか。
21.
おでんを食べて、
多摩川沿いでごろごろしながら
時間を忘れて話していたら、
終電を逃したので歩いて帰った。
星ひとつ見えなくても
草の上に転がったら気持ちよかった。
ちょっと寒いくらいの夜の空気は
澄んでいて心地よくて、
電車は何本も過ぎていくけれど
それを横目に、自分たちの時間は
ずっとここにある気がした。
この時間が永遠に続いたらいいと思った。
彼は本当に優しい。
煙草を吸いながら
好きなものの話を夢中でする
顔を眺めてたら、
わたしは彼のことを
手に入れたくなってしまった。
26.
恋人ができた。
マジョリティじゃなくても、多くに認められなくても。それでもこのわたしを最高だと言ってくれるただ1人を大切にしよう。
2020.November
1.
ぼろぼろと崩れる音がする。
わたしは本当に弱い。
感覚がスリルを選ぼうとする。馬鹿みたいだ。
5.
優しくて、柔らかくて、猫みたいな人。
自由に生きてほしいし、この先も幸せに生きていってほしいと願っているよ。すごく好きだったことは事実で、この人にもらったものはたくさんだけど、わたしは着実に進んでいるのだと実感できてよかった。
ちゃんと向き合えてよかった。もうわたし、苦しまなくていいんだ。きっともう、今日が一生のお別れで、わたしはもう解放されたんだね。
恋人が駅まで迎えにきてくれて、煮込みハンバーグを作っていてくれた。
ぼんやり映画を観て、互いの好きなアーティストのMVを観て、たわいもない話を沢山して、ただただ時間がゆるく溶けていくのが心地よくて、ああこれが幸せってやつか。帰り道、暗がりの中、2人で多摩川沿いをアイス食べながらスキップして、こんな時間がわたしはずっと欲しかったんだね。恋人が当たり前だよと言ってしてくれることは全然当たり前なんかじゃなくて、わたしはずっとこの感謝できる気持ちを大切にしなきゃだめで、わたしは彼の何倍も彼のことを大事にしなければならない。
24.
3年ぶりに弟に会えた。
変わってしまったこと、変わらないままなこと。
27.
早朝の電車に乗りたくて、徹夜するって言ったら
恋人が朝まで電話に付き合ってくれた。
28.
無力感を感じる。デザイナー向いてない。
わたしにはできない。
つづく
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