#08「『イカゲーム』から見えてくる韓国の貧困と宗教」(1/4)(音声/文字両対応)

#08~#11の4連続エピソードでは、某雑誌編集者の「池田さん」をお招きし、『イカゲーム』を発端に、現代映画作家の最高峰『ポン・ジュノ』の諸作品を取り上げていきます。

本エピソードでは前段部として、『イカゲーム』に内包されている社会への問題意識を考察しています。

以下、音声の一部文字起こしです。

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1. 『イカゲーム』で描かれる、堅牢な社会システムからの脱却

深「『イカゲーム』は、韓国社会における格差問題や、日本でもたびたび口にされた新自由主義的な価値観に対していかに一石を投じるか、というテーマを”デスゲーム”というある種固定ジャンル化した形式で見せていく、そういったところがフレッシュだなと。」
池「明確に”上層階級”と”下層階級”でキャラが分けられているという形式と、下層の中にもさまざまな人が居る、またその下層同士でも争いが起こり得るという問題意識に関しては、今回特集するポンジュノと共通するところがあるかなと感じました。」

深「ポンジュノ映画でも頻繁に民主化運動・デモなどのモチーフが登場しますが、それは彼が大学時代に学生運動に参加していたことが関係しているようです。ちなみに80年代の軍事政権による弾圧を描いた『タクシー運転手 約束は海を超えて』という映画では、これからの話題でも頻繁に登場する稀代の名俳優ソン・ガンホが熱演を繰り広げています。」
池「今の話を聞いて思ったのは、ポンジュノが韓国における経済格差の問題を包含させながら、きちんとエンターテイメント作品として成立させてきた、そしてそれが興行・批評的にも評価されてきたという土台があった上での『イカゲーム』の制作にも繋がったのかな、と。」

深「『イカゲーム』と同じくNetflixで配信されている『D.P. -脱走兵追跡官-』というドラマでは、韓国の兵役における脱走兵を取り締まる捜査官を描いていました。ある種タブーとされてきたような、兵役制度に根付く問題、例えば組織幹部の腐敗であったり、内部で起こるいじめの問題であったりを克明に描いた傑作で、こちらも固定化しきったシステムに対する不信感、反発という点で『イカゲーム』と共鳴するところがあるんじゃないかと思うので、ぜひチェックしてみてください。」

2. 韓国の経済史と、キリスト教の関係性

深「韓国におけるキリスト教の立ち位置という面で『イカゲーム』を捉えても面白いかなと。朝鮮戦争後の高度経済成長期において、いわゆるプロテスタンティズム的な精神(世俗内禁欲と勤労精神を向上させる)がそれを後押した格好もあった一方で、軍事政権からの脱却を図った80年代以降、資本主義・新自由主義への反発が強まる中で、同時にアメリカ的=キリスト教的な考え方にも不信が強まっていったという背景があるんですね。『イカゲーム』でもグローバル企業による大量解雇の煽りを受けた主人公が、冒頭でゲームの誘いを宗教の勧誘だと勘違いして嫌がるシーンがあります。」
池「なるほど。韓国におけるキリスト教の立ち位置的なものを描いた作品って他にあったりしますか?」
深「イ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』と、ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』。この2作は映画のフォルムこそ正反対と言ってもいいと思いますが、どちらも重厚な傑作なのでぜひ見て欲しいです。


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