#05「”効率性重視”の社会で読書はどう活きる?ー2021年秋の課題図書(1/3)」(音声/文字両対応)

#05~#07の3連続エピソードでは、東京都文京区千駄木に在る「往来堂書店」の現役書店員として活躍する「高橋さん」をお招きし、2021年に発売された注目の新刊について語り合います。

本エピソードは前段部として、読書に関する様々な雑感(「本を読む楽しさとは?」「独立系書店のプレゼンスが高まっている?」「出版不況について思うことは?」「内容の要約に対する危機感?」)をシェアしています。

次回以降のエピソードでは、それぞれ1冊ずつ持ち寄った課題図書にフォーカスしています。ぜひそちらもお聞きください。

以下、音声の一部文字起こしです。

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1. 独立系書店の現状と課題とは?

深「あくまで第三者から見た話ですが、ジュンク堂のような大手書店チェーンに対して、最近よりローカルな独立系書店のプレゼンスが高まっているような気がしています。小泉今日子さんがホストを務める『ホントのコイズミさん』というPodcastでは、実際に小泉さんが現地に出向き、店主の方などから話を聞くということもされています。
書店員として、そういった独立系書店の注目が増しているという実感はありますか?」


高「SNSによって個々の発信力も高まって、個々の書店の特色が見えやすくなったのは良い方向だと感じつつも、現状マーケットの規模感でいうと大手チェーンの存在がまだまだ強いので、注目の集まり具合と実際の数値に開きがあるのかな?とは感じますね。」
深「なるほど。今のお話を聞いて経営方針などにも大手書店とで差異があるのかなと感じたのですが、やはり独立系は本のセレクトがメインという認識で合ってますか?」
高「大まかに言えばそうですね。大型書店の強みはその圧倒的な在庫量と網羅性に在って、独立系の小型書店は”少ないスペースにどれだけの文脈を放り込めるか”というところを熟慮しているイメージがあります。また自費出版のものなど、大手ではなかなか取り扱わない書籍を取引できたりする強みはあるかもしれないです。」

深「普段から本を読まないし、そもそも何を読んだらいいのか分からない、という人はどういった書店に向かうのがオススメでしょう?」
高「難しい質問ですね(笑)。大きい書店をブラブラしていれば自分の好きな棚に出会うこともあるし、かといって選択肢がありすぎると逆に選ぶ本を迷ってしまうこともあるだろうし。独立系書店についても、普段本を読まれない方にとっては敷居が高いイメージがあるのかなと。少しでも多くの方に間口を広く、というのは個人的に抱えている課題でもあります。」
深「確かに。何か自分の興味がある領域などがあれば、SNS等でそれに特化した書店を見つけることができるかもしれないので、色々な場所を調べたり、実際に巡ったりするのも楽しいですね。」

2. 巷で叫ばれる「出版不況問題」について

深「よく言われる”出版不況”という言葉についてはどうですか?以前芥川賞作家の羽田圭介さんがこの件に関して『経済全体で見るとどの業種も不況なのに、出版業界だけが名指しされるのには違和感がある』と言っていて、確かにそれもそうだなと思ったのですが。」
高「一理ありますね(笑)。個人的には生まれた頃から既に出版不況の時代に突入していたので、そこまで身に迫るような危機感は持ち合わせていないのですが、好きな本屋が閉店してしまったりする時はやはり凹みますね...。」

深「音楽業界では90年代後半からCD売上の不振が叫ばれていたのですが、定額音源配信サービスの普及(日本でも2015年にApple Musicが上陸)したことで、利益率がどれだけ伸びたのかは抜きにしても、音楽がより幅広く、またリーガルな形で聴かれるようになったことには起因したのかなと。最近では電子書籍やオーディオブックなど様々な読書のパターンが用意されていますが、ストリーミングサービスのように時代のゲームチェンジャーとなるものは出版業界において出現すると思いますか?」
高「ちょっと話が逸れてしまうかもしれないんですけど、基本的に『紙』『電子』『オーディオ』で味わう読書体験ってそれぞれ代替不能なものであると思うんですね。電子であれば持ち運びも楽で場所を取らないけど、物理的にページをめくってこそ染み出る味わいが紙にはある。またフィットネスジムで泳ぎながら夏目漱石『坊っちゃん』のオーディオブックを聞いているという常連さんもいらっしゃったように(笑)、様々なケースに合わせて読書を楽しめる、その際に選択肢が複数在ることはとても健全だと思います。ただどれが音楽におけるストリーミングのように覇権を握るのか、また新たなサービスが登場するのか、については正直見通しがついていないです。雑誌に関してはサブスクリプションが浸透している感覚はありますが。」
深「電子書籍は定額で読み放題なども有ると思うのですが、紙の書籍に関しては無いですよね?」
高「再販制度によって出版社が定価を決定するので、現段階ではなかなか難しいのかなと。ただ独自にセレクトした本を月に何冊か送付する、といった定額サービスを行なっている書店もあるにはありますね。京都にある「CAVA Books」では店主の方自らがセレクトした海外文学を毎月一冊送付する試み(2021年10月時点では既に加入受付終了)をしていて、面白いなと思います。」

高「普段紙の本に付箋を貼るという習慣がある人は、なかなか電子書籍に対応しづらいのかな、と思ってました。付箋に類する機能って電子書籍にも有ったりするんですかね?」
深「Kindleだと一応ありますね。文字を長押しすると”ハイライト”というメニューが選べて、その部分がグレーアウトされる。それによって後で読み返した時にも見つけやすい、みたいな。」
「そうそう、読んでて笑っちゃうのが、ある特定の部分に『◯◯人がハイライトしています』みたいな表示が出ること(笑)、中古で買った本に以前の購入者の線が引いてあるみたいな。そう言った唐突なメタ視点は実用書とか読んでいる時には興味深いんですが、小説だと没入感を阻害された気持ちになることもしばしばあります(笑)。」
高「なるほど。個人的には本の重要なパートをデータによって決められてしまう感じがして、ちょっと抵抗ありますね。最近Twitterで炎上した図解の件(本の内容をスライド3-4枚に要約した画像ツイート)も含め、求められる効率さや、それに伴う思想の画一化に関しては抗っていきたい気持ちがあります。」
深「要約した内容を読んで手軽に情報を取得する、という流れに対する危機感は僕にもあります。その要約を公開した人の恣意的な視点に、それを見た人の恣意的な視点も加わってしまう”二重にフィルターをかけた状態”は、誤読とか誤情報の拡散にも繋がる恐れもありますし。」

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