#06「『マチズモを削り取れ』、加藤浩次ばりに”当たり前じゃねえからな!”と叫ぶことー2021年秋の課題図書(2/3)」(音声/文字両対応)

#05~#07の3連続エピソードでは、東京都文京区千駄木に在る「往来堂書店」の現役書店員として活躍する「高橋さん」をお招きし、2021年に発売された注目の新刊について語り合います。

本エピソードは高橋さんの推薦図書である、武田砂鉄著『マチズモを削り取れ』(集英社)をテーマに、日々の様々な雑感(「至る所にマチズモが存在している?」「辛いニュースとメンタルのバランスをどう保つ?」「”結婚”と”社会的信用”がイコールになっていることへの違和感」)をシェアしていきます。

以下、音声の一部文字起こしです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高「武田砂鉄さんの『マチズモを削り取れ』は今年の7月に発売された新刊なのですが、武田さんが抱く、私たちの暮らしに根付くマチズモ(男性優位主義)に対する違和感を書き綴っている内容になっています。男性として見落としがちな視点というか、自分の暮らしがある種マチズモに守られていることを改めて気付かされることにも繋がりました。」
深「そうですね。自分自身が意識せずに行なってしまっていたことに批判的な視点を向け、”当たり前”とされているものに疑問を抱くということは健全な姿勢であると思うので、注意喚起をしてくれるという意味でもこの本の価値はすごく高いと思います。」
「当たり前に使っている言葉の中にも『よく考えたらおかしいな』というものがたくさんありますよね。この本の中にも出てくる『女子マネージャー』とか、『女子アナウンサー』とか、その場において女性は特異な存在である、ということが暗に示されている一例というか。」

深「オリンピック関連のニュースではかなりマチズモ的な側面が浮き彫りになったかなと。森喜朗氏が辞任に追い込まれた発言から、張本勲氏の女性ボクシング選手に対するコメントなど。個人的にモヤっとしたのが、森喜朗氏のニュースを取り上げた『バイキング』にておぎやはぎの小木博明氏が『今や女性の方が(男性よりも)超えている』という旨の発言をしたこと。この本でも取り上げられているような労働環境の差異など、社会の仕組みにこびりつく不平等の問題をすっ飛ばしたコメントをされていたのが…。まあその後の『女性はピラニア』という発言は言うまでもなく論外なんですが。」
高「個別、身の回りの事象を一般化して語るのは、議論をする上で話が進まない一つの原因にもなるので気をつけたいですね。」
深「今だに日本のSNS、特にTwitter上では『フェミニスト』という存在が揶揄の対象になっているところもあり、そういうのを見るとやはりハッシュタグ・アクティビズムの限界を感じてしまうというか、『物事の全てはグラデーションである』という共通理解がないと、議論自体に価値が無い気もしてしまうんですよね…。ただもちろん実際に活動されている方にはリスペクトもありますし、それを見て調べてみよう、と思い立つ方が連鎖的に増えていくという点ではすごく価値の大きいことでもあると思うんですけどね。」
高「どこから矢が飛んでくるか分からない、そんな中で活動されている方はどれほどの心労を抱えているのだろうと日々考えています。自分のメンタルとの折り合いも考えながら、不特定多数に向けて発信していくということは非常に難しいし、根気の要ることでもありますよね。」

深「実体験と紐付けると、いわゆる”体育会系”的なノリに子供時代から馴染めなかった自分としては、『何かを犠牲にする』ことが美徳とされる社会のおかしさにも、ある種マチズモが潜んでいたんだな、ということに気づきました。」
高「学校のルールや会社の規則なども、いわゆる”意見の強い人”に合わせて形成されるという点から考えても、そもそも何か発信する機会が与えられていない人は耐え忍ぶほかない、というところが何ともやるせないし、理不尽だと感じます。」
「そう言ったマチズモに支配されている空間を耐えてきた人が、逆に下の代にそれを強いる側に転じる可能性も往々にしてある。連鎖構造のようなものをいかにして断ち切るか、そこが今後の課題になってくると思っています。」
深「クォーター制に対する反論としてよく挙げられる”能力主義”の言説も、自分たちが当たり前のように享受しているシステムに則った上でのものでもあると思うので、構造の中に潜む”おかしさ”を改めて議論していく必要がありますね。」

深「本などのメディアを通して、自身の無自覚な行動による抑圧に目を向け、他者を傷つけるような姿勢を改めることができるという作用はあると思うのですが、あまりに重く捉え過ぎてしまうと、今度は自分のストレス増加にも繋がってしまう恐れがある。マチズモに限らず、色々なニュース・情報を目にした時に、いかにそれを内面化しすぎずに自分ごととして捉えていくか、そういったバランスが現代では非常に難しいと思います。」
高「自分も結構一つ一つの報道に感情移入してしまうため気が滅入りそうになりながらも、考えることは止めたくないというジレンマに縛られることがよくあります。そういう時は報道内容とは別の事象に関する本を読んだりして、なるべく一つの物事に思考を集中させないようにしてますね。」
深「僕も同意です。自分の生活における豊かさ・楽しさを追求することを疎かにせず、ただ今の暮らしがどんな搾取構造の上で成り立っているのかを意識こと、またそれを当たり前と思わないようにしながら生きています。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?