カネコさんの話

ふと思い出したので書いておく。
記憶の片隅から掘り起こしているので、多少の脚色や記憶違いはあると思う。

高校の同級生にカネコさんという女の子がいた。
当時の女子は、程度の差はあれ、スカートを巻いて短くしたり、ルーズソックスを履いていたが、カネコさんは規定の長さのスカートにくるぶし丈のソックスを履いているような子だった。

僕の通っていた高校は、いわゆる県内有数の進学校というやつだったのだけど、僕らはどちらかというと出来の悪いやんちゃなグループ(進学校でそういうポジションとるのがいちばん中途半端でダサいということに後々気づくことになる)に属していたため、優等生で大人しいカネコさんとは直接話したことはなかった。

ある日の放課後、いつもの出来の悪い面々と教室で過ごしていると、誰かが教卓の中からホチキス止めの冊子を見つけてきた。

表紙には「etude」と書いてあり、文芸部の作品集のようだった。
文化祭シーズンだったので、部員が編集して発表したのだろう。

僕たちはそれを面白半分に音読したり品評したりする遊びを思いついた。
おそらく文化系のオタクをバカにしてやろうという趣旨があったと思うし、今思うと本当に最低だった。

実際、そのほとんどが、中二病をこじらせたようなポエムや創作で、こそばゆい内容だったのだが、ひとつのエッセイに目が止まった。

内容は覚えていないけど、他愛のない家族のことや日常のことなのに、とにかく語彙力が豊富で表現力に富んでいて、みずみずしくて魅力的な文章だった。
創作は比べるものではないけど、読書量と知識に裏付けされたレベルの差を感じた。

そのエッセイの作者がカネコさんだった。

その場にいたみんなが、“本物”に「ガツン」とやられてしまった。

心の何処かで下に見てた存在が圧倒的に格上だったことに気付かされたし、その才能とセンスに嫉妬混じりの尊敬の気持ちすら抱いた。

その後も仲間内で文芸部の作品集を読み漁り、カネコワールドにどっぷりと浸かっていた。
家に持って帰ったら母親も読んで大絶賛していた。

でも、結局、僕たちはカネコさんに感想もファンであることも伝えられなかった。
僕たちのような者が、カネコさんの創作活動に関与してはいけないという思いもあったと思う。

カネコさんが高校卒業後にどんな進路を選んだかも分からないし、今何をしているのかも分からない。

当時、仲のよかった友達のことも、付き合っていた女の子のことも思い出すことはほぼないのに、一言も話したことのないカネコさんのことはたまに思い出す。

「どこかで面白い文章書いてないかな。」

僕が下手くそなりに文章を書こうと思うのも、他の人の書いた文章に触れたいと思うのも、カネコさんの影響が少なからずあるんだと思う。

カネコさん、もしこのnote見たら有料note書いてください。
僕は買いますし、今回はちゃんと感想を伝えます。

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