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くせ地蔵

むかしむかし、この島国の西の果ての小さな村

になしんという娘がおりました。美しく優しい

娘でしたがなしんにはサボり癖がございまして

決して直すことができませんでした。

そんな娘を心配した両親は、なしんを嫁に出す

ことにしました。夫に尽くそうとするうちにサ

ボり癖が直ると考えたのです。

ところが、なしんが嫁に行ってしばらくすると

なしんは夫と別れて両親のもとに戻ってきたの

です。なしんは洗濯を途中でほったらかしたり

食事はいつも米2合を炊くだけだったというの

です。そんななしんに夫は愛想を尽かしたので

した。なしんはどうしてもこの癖を直すことが

できないと言い、大好きな夫にも見捨てられ、

わんわん泣きました。

可哀想に思った両親はたくさんのお供え物を持

って家の裏のお地蔵様にお願いに行きました。

「娘がどうか、どうか村いちばん幸せな夫婦に

 なれますように。」

難題を持ちかけられて困ったのがこの地蔵。

「どれだけでも縁を結んでやることは簡単だが

あの娘の癖を好いてやれる男はいるだろうか」

お供えをもらっている以上、願いを聞いてやろ

うと、地蔵は重い重い腰をあげて村中の男を

見定めに行きました。

両親が地蔵のところに行った日からしばらくし

て、娘に再婚の話が持ちかけられたのです。

同じ村に住むゴン太朗という男です。

娘はもう笑うことも、泣くこともできなくなっ

てしまっていたので、両親は急いでゴン太朗に

嫁がせました。

なしんは変わらずサボっていました。洗濯はほ

ぼせず、米2合すらも炊かない日もありました。

しかしゴン太朗は不満を口にするどころか

いつもなしんに「ありがとう」と言うのです。

実はこのゴン太朗、仕事以外は大のなまけもの

でじゃまくさがり屋だったのです。

ある日、なしんがめずらしく米を炊きました。

しかしごん太郎は食べずにこう言いました。

「米を炊いてくれてありがとう。でも今日は口

を動かして食べることがじゃまくさいんだ。」

あまりのゴン太朗のじゃまくさがりに、なしん

は大笑いしました。涙がでるほど笑ったのです

なしんはゴン太朗のおかげで笑えるようになり

ました。

2人は村いちばん幸せな夫婦となり、

願いを叶えたお地蔵様はふたりに因んで

くせ地蔵と呼ばれるようになったといいま

す。

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