【ショートショート】『愛にカニばさみ』
仁香がここを去ってもう二年が過ぎた。
目の前に広がる水面は、オホーツク海に面した大きな湖だ。
湖に落ちる夕日を仁香と一緒に見たあの日々が、人生最良の日々であったと今は思っている自分がつまらなく思えた。
本当につまらない人間に成下がってしまったのか。
「僕はもうここにはいたくない」
ある日突然、僕っ子になった仁香は吐き捨てるように言ったのだ。
自分は、何のために此処にいてこの夕日を今日もまた眺めているのか。
仁香は突然、花の都に出て行ってしまった。
今や彼女が気