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短編小説まとめ

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短編と掌編をまとめました。
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2022年12月の記事一覧

【短編】『スラローマーは人工降雪機の夢を見るか?(金)』

        《前半》 校庭から、ウオーミングアップを終えた部員たちが、トラックを走り始めた声が聴こえてくる。 僕は、数Ⅲの問題集から目を上げ、窓を見つめた。 此処から見えるのはどんよりとした銀鼠の空、そして、ほとんど裸同然の銀杏の枝先。 ただ、一番手前、僕に近い銀杏のてっぺんにある、数枚の黄金の葉が突然目に入って来た。 時折吹く風に、今にも負けて、散ってしまいそうな黄金の葉。 何だか僕みたいだな、と思う。 「僕がここにいる間は、がんばってくれよ」 ふと、黄金の葉

【ショートショート】『Getcha back』

すっかり涼しくなった夕暮れ時の縁側に二人で下駄を履いて座っている。 焼酎ロックが旨い。 「ねえ、私がお嫁に行った時、どう思った?」 「え、もう忘れたよ」 遠くの虫の音が心地よい。 「ねえ、私に振られた時、どう思った?」 「泣きたかったよ。泣く気力さえあったらね」 視線は亡き母の下駄を履く彼女の爪先のまま。 「あの時はそうするしかなかったの」 「もう今更だけどね」 別れてから別々に結婚した。でも今はバツイチ同士並んで座る。 「あたし気づいたの」 「へえ、何に?」

【ショートショート】『クリスマスカラス』

ドアチャイムが鳴った。スコープを覗く。マスクをしていても横顔でもすぐに君だとわかった。 「やあ」 ドアを開けるとドクターマーチンのブーツからレザージャケット、キャップで覆われた頭のてっぺんまでブラックな君がいた。 「メリークリスマス」 二コリともせず君はいった。 やっとその夜がクリスマスイブであることに気が付く。 「相変わらず真っ黒なんだね。こんな日も」 「カラスの勝手でしょ」 キャップのバイザーに少し残っていた雪が融けて水滴になる。 「寒いから入れてよ」 「や