トリニティ総合学園の法制度に関する一考察


序文

まず、何よりも与吉氏にお礼したいと思います。
与吉氏の魅力的な論考が私を刺激し、また私に本論執筆の勇気を与えてくれました。

与吉氏のキヴォトス独自の法理論の存在の示唆及びその内容の推測はとても魅力的な議論でした。
特に、遡及的二重モラルラックという結論は興味深いものです。
また、倫理学に関する概略の部分も、多くの示唆を得ました。
ここでは、トリニティがコモン・ローを採用しているのでないかという仮説を提唱し、その帰結について論じます。

3月20日追記
なお本論は、与吉氏の上記議論に多くを負っております。
まず、ブルーアーカイブを法的視点から分析するという方法は与吉氏によるものです。
また議論の前提として、キヴォトスにおける退学刑の重み、キヴォトスにおける「人殺し」の罪のいわゆる構成要件が殺意の所持又は死に至らしめることであること、トリニティが手続きを重視していること、よって法に則って審問会を開会したこと、ミカの罪科が傷害罪等のいわゆる生命・身体に対する罪であって内乱罪・大逆罪ではないことなどを踏まえております。
この点、記載を失念しておりましたこと、痛恨事であります。

トリニティがコモン・ローだったら?

聖園ミカがなぜ退学になりかけたのかについての自説を述べたいと思います。トリニティのモデルはイギリスです。そうです。コモン・ローの話です。(ちなみに、日本の刑法はドイツ刑法を継受しており、韓国刑法は植民地だった都合日本刑法を継受しています。)

そもそも、ミカは本来退学処分になるとされているのですが、これはよく考えるとおかしな話です。
およそ現代の先進国においては刑事裁判には被告人の出席が必要です。ミカが出席しないなら、実力行使して裁判所に出席させるのが現代における適正手続です。ミカが出席しないなら、有罪になったり、刑を科されるはずがないのです。(桐島聡やカルロス・ゴーンはこの典型例です)

この点を踏まえると、そもそもトリニティの審問会が現代的刑事手続法に則っていると言い難いです。別の手続、具体的にはコモン・ローに則っていると考えるべきではないでしょうか。

トリニティがコモン・ロー世界だとすると、ミカが欠席裁判で退学刑を受けることが無理なく説明できます。

まず、日本と比べて相当緩い基準で起訴するのが慣例です。そこで、ミカはmurderの未遂で起訴されます。文句があるなら抗弁しろということです。

更に、現代先進国(イギリス・アメリカを含む)と異なり、刑事手続からの逃走は単なる罪ではなくて、アウトローとなります。原義のアウトローは最も重い刑の一つです。ルターが処された帝国アハト刑と同根の刑です。
アウトローは、逮捕する際に殺害が許されます。(フロイド事件もこの法文化が背景にあります)また、その罪についての抗弁が不可能になります。ホッブズがリヴァイアサン26章で「大法律家」に語らせている通り、無実であったとしても有罪になるのです。

つまり、「聖園ミカは審問会において正確に事実を認識され、適正な経緯を経て審判されその限りにおいてのみ罪を償うべきである。」という与吉氏の前提の意味が日本とコモン・ロー世界では全く異なります。日本では正確な事実認識が重要ですが、コモン・ローでは適正な経緯(due process)が問題です。裁判に欠席すると不戦敗になる一方、司法取引も両者の合意であるが故に正当化されるのがコモン・ローです。

そのため、審問会を欠席するというミカの行動は、凄まじい意味を持つことになります。ミカは殺人未遂で有罪となります(!)。退学が相応の罪となるでしょう。

もちろん、ブルアカ本文中にコモン・ローの話が見当たらないことはこの説の大きな欠点と言えるでしょう。
しかし、先述した通り、トリニティが現代先進国的刑事手続を完全に採用しているわけではないことは明らかであり、また、傍証ながら、ミカの刑が停学を飛び越して奉仕活動まで減刑されることも、欠席と出席で適用される罪科が異なるということを示唆しているのではないでしょうか。
以上の点から、トリニティの審問会がコモン・ローを採用しているということは十分妥当性のある主張であると考えます。

3月20日追記
また、アズサがミカの関与について尋問されている時、ヒフミが「アズサちゃんは人殺しではありません」と擁護したことを説明できないという欠点も指摘しておく必要があるでしょう。

3月20日追記

与吉氏に上掲Noteの補遺にて本Noteを紹介して頂きました。

いうまでもなく与吉氏は本論の主題について最初に法的考察を行なった方であり、本Noteはその議論の前提のほとんどを氏の『【ブルアカ倫理】キヴォトスの倫理・正義における「道徳的な運」について(エデン条約からあまねく奇跡の始発点へ)』に負っております。この点、記載を失念しておりました。序論に追記し、この場を借りてお詫びいたします。

その与吉氏に本論を読んでいただくのみならず、「必読のNote」、「(ブルーアーカイブに関する議論の)理想型」、「素晴らしいNote」との賞賛をいただいたことは望外の喜びであります。

更に与吉氏は紹介のみならず本論を発展させて論じてくださいました。重ねて感謝申し上げます。

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