昭和二十八年度 社会教育の現状(文部省社会教育局)


1 沿革 わが国におけるPTA活動発展の跡

 終戦後わが国における教育は、民主主義の基盤に立って行われ現在に至っていることは、改めて、説くまでもない。この変革期に於て、昭和二十一年三月アメリカ教育使節団の報告書中に、わが国教育の民主化のために、PTA活動を行うよう勧奨があったので、五月より文部省とCIE においてその研究に着手した。
 その結果、従来の学校後援会に対する反省がなされると共に、次第にPTAに対する理解が深められ、その後各地ではPTA結成の機運が盛り上って来て、現在設置数の大部分は、この時期に結成されたが、内容的に見ると必ずしもPTAの本質を理解した上での結成でなく、その多くは、唯看板の塗りかえにすぎなかったため、文部省においては、PTAの健全な発展を促進する方法を研究審議し、その運営活動に必要な参考資料の作成を考え、民間有識者を加えた、父母と先生の会委員会を設置し、その目的達成に努力した。又、PTAの研究熱が漸次高まってくると共に、在来の無批判的な運営から来るいろいろな問題についての解決を計る意味から中央において研究協議会が開かれた。
 これと同時に、全国各地で、県郡市町村単位の連絡協議会による自主的な研究集会が開催され、PTAの趣旨の普及徹底並びに指導者養成のために、一段の努力を傾けた。さらにこれと並行して、PTAの連絡組織の問題が各地方において取上げられ、過去三ケ年に亙る幾多の経緯を経て、昭和二十七年十月我国最大の成人組織を持つ、日本父母と先生全国協議会が誕生し、一層PTA活動の伸展を助長し、現在に至っている。

2 現状

(1) 独立後におけるPTAの一般的な現状
 独立後、所謂逆コースの風潮に刺戟されて、PTA運動は、アメリカより来たものであるから、これを日本的なものに改めなければならないという声を聞く。事実、占領政策の影響下に於て、わが国にPTA運動が生れたが、教育民主化のためには、アメリカのものであろうと、よいものであればその本質を見極めつつ活動を続けていくならば、必ずや真に日本独特のPTAが生れてくるものと思う。終戦後各地に於て、急速にPTAの結成を見たが、個々のPTAの現状を見ると、必ずしも、その本質を理解せず、名実これに伴わざるうらみがあった。この虚に乗じ、平和発効を一契機として、占領時代のものは何でも捨ててしまい、在来の学校後援会的な型態を是認する風潮が起って来た。しかし、その反面、一層PTA本来の目的に合致した活動を活発に行っているPTAが多くあることも注目されねばならない。
 かように考えてくる時、PTAの進むべき道は唯一つ、(1)PTAの本質を理解すること、(2)現実に生きること、(3)絶えずその本質に根ざした活動に続けていくこと、換言すれば、その地域社会の実情に応じて、PTAの本質を目ざして民主的に、自主的に教育的に、活動を続けていくところに日本独特のPTAとしてのあり方が生まれてくるものと思う。
 次にこれを内容的に検討して見よう。
(2) 内容的に見た現状
昭和二十七年三月文部省において、全国PTAの団体数及び会員数の調査を実施したが、これによると、全国国公私立の幼小中高校の会員数は千五百九万六千九百十七人で、団体数は三万五千九百五十七となっている。これをアメリカにおPTAのそれと比較するとき、会員数において約二・五倍となっており、僅か年にして量的に見ると、その極限にまで一挙に発展したものといえよう。しかし、これをアメリカPTA発展の五十年の歴史と比較して見ると、PTAが自由入会精神を基調する民主的団体であることを考えるとき、日本の発展は、正に仏つくつて魂入れざる団体であるといわざるを得ない。むしろ、今後のあり方としては、日本のPTAが、真剣に民主的、教育的なPTAの本質を見つめ「児童の福祉」という根本的な使命を自覚して、一層その量的な発展にふさわしい活動にその努力を払わなければならない。(3) PTAに対する関心度
 上にのべた如く、我国PTAは一応外面的にはその極限まで発展しているようであるが、果して内面的成長がこれに伴なっているであろうか。以下、個々の問題につき、資料に基いて検討したいと思う。

3 問題点

(1) 選挙
 民主団体としての根本原則の―つは、会員が平等の権利と義務とを持つことである。勿論、各会員はそれぞれ独自の能力と関心とを持っている。この個人差を充分に尊重して、いわゆる適材適所の方針に基いて活動することが極めて大切である。この見地よりして、PTAにおける役員の選挙に当っては、あくまで総会の席上における直接選挙が最も妥当公正な方法であると思う。しるかに、各地の実情はどうか。総会の席上、無記名投票を行い多数決で決定するものは、東京都においては小学校二六%、中学校二二%、石川三八%、熊本八四%であり、他の府県では、実数が来ていないため明確な判断は下せないが、推薦その他所謂非民主的な方法をとるところが相当高率を占めているものと思われる。なお役員の資格として、大部分は在籍児童の父母と先生に限っている模様であるが、一部には今尚その地域の有力者を名誉職的な役員としておいており、いろいろな問題を包蔵している。以上の事実より見て、現在のPTAの指向するところのものは、民主化の度合が、その途を達成するために未だ遠いとの感を深くする。役員の直接公選の方法は、民主的団体として取るべき唯一の方法で、時間的、手続き上の煩雑とか、感情的対立とかいうような理由で他の方法と妥協してはならない。これは、ひいては公明選挙を期する民主日本の礎を固くする一助ともなるのである。なお最近、役員たるの資格に関して、男女の性別に捉われず、父母、教師を問わず、更にまた、在籍児童生徒の父母たると否との別なく、真に適任者であり、会員でさえあれば差支えないのではないかという意見を耳にする。これは、民主団体の建前上尤もなことであって、役員たるの資格を規約の上で制約せず、その時その時の全員の投票によって決してゆく方が、より民主的であることは論をまたない。然しこのことについは、徒らに理想のみに走って現実を忘れるとこれはボスに利用されるおそれが多分にあると思われるので、今の段階では、充分慎重でなければならないと思う。
(2) 自由入会
 我国のPTA運動は、発足当初より僅か六ケ年の今日、会員数干五百万という最大の成人組織となっていることは先にのべたとおりである。然しPTAが個人の自覚に基く真に自由加入を精神とする民主的団体であるならば、この会員数より見て、日本の現状を考える時、如何なる理由があるにせよ、純粋な民主団体と呼ぶことには一寸疑念を持たざるるを得ない。
 即ち、入会に当り、一応申込書をとっていると報告されているところは、
 殆ど全部のPTAで実施している(静岡・鳥取•岡山・鹿児島・京都市・名古屋市)五〇%位実施している(愛知)二〇%位実施している(東京・広島)となっており、他、地方の資料がないため明確な断定は期し難いが、実施しているところは、極く一部であり、又その大部分は形式的なものであるというのが一般的な趨勢ではなかろうか。
 PTAの入会に当り、その本質を理解せず、唯、機械的に無自覚に入会するため、役員又は一部会員のためのPTA、あるいは寄附PTAになり下ってしまうのである。故に、入会前に入会後の心構えを涵養することが、PTA活動を活発にし、真に民主的団体としての行き方が示されてくるものと思う。そして、今後とるべき方法としては、PTAの趣旨を、特に就学前の児童教育と並行して、その父母たちに徹底させ、あるいは機関誌を通じて、あるいは部落集会を通じて、あくまで自由加入の精神を培養させなければならない。このことは、会員意識の昴揚ならびに会員たるの責任感強化の要諦である。
(3) 集会
 PTAという団体を構成し、この目的に沿った活動をするためには、その時の事情に応じた集会を開き、会員一人一人の意見を取入れて行われねばならない。しかし、集会を如何にして開くのか、又何故開かねばならないか等の目的、方法及び必然性について、未だよくその趣旨が徹底していないように見受けられ、真に上記の目的に適応した集会を行わない単位PTAが数多くあることに注意しなければならない。
 一例として、昨年九月東京都教育庁調査課で実施したPTA調査について見ると下記のようになっている。
(表略)

集会の運営状況
なお、本来の目的を果していない理由として
一、 PもTも時間的余裕をもたない。
二、 会員の関心が薄い。
三、 会務や事業の手続きが煩雑で非能率的である。
四、 一部役員が公の会で合議することを好まない。
等があげられている。
 又、本年一月大阪市教委において実施したPTA会員関心調査の中間報告によれば、下記のような結果となっている。
(表略)
 さらに、昨年五月山口県教委に於て実施した出席状況に関する調査に依れば、下記のようになっている。
(表略)
 出席奨励の対策として考慮されているものを、同じ山口県の調査によって拾ってみると、(表略)
 となり、以上の資料に基いて一応結論ともたるべき対策についてのべると、
 第一に、PTAに対する関心を増すこと。
 第二に、父母も教師も、その多くは時間的余裕がないので、最も適当な日時を考えるべきであり、これに関連して極力時間の励行に努めること。
 第三に、適当なレクリエーションを入れて、会の運営を和やかにすること。
 第四に、これには抹梢的なことであるが、普段着で気軽に出席できる会にすること、等であろう。
 最後に、会員一人一人の意見を聞く調査を行い、それに基いて最も適当な時期と方法を考えて会を運営すべきと思う。
 なお、父母と先生の会分科審議会においても、以上の点に留意して、集会の開き方について、審議していたが、一応その結論に達したので、近く、参考資料として発刊する予定である。
(4) 会費
 PTAの運営は、その大部分を会費によって行われねばならない。
 現在、全国における調査の結果は大体次頁の図のようになっている。
 更に、別の資料に基いた全国平均は次のとおりである。
(表略)
 従来、地方財政の逼迫に伴って、これら会費の相当部分が公費援助、あるいは教師の生活費補助のために支出され、PTA本来の活動に大きな障碍となり、活動自体が非常に歪められた形となっていた。学校の維持経営につき、必要な経費を出し、又、教員に対し適正な給与を与えることは、国又は地方公共団体がその責任に任じなければならない。
 この意味においてPTAが公費を援助することは決して望ましい事でなく、あくまで児童の福祉のために支出されるべきであるという原則を維持しなければならない。
 なお、会費の徴集方法であるが、従来は、父母——児童——教師——会計というコースを多くとっていたが、児童に対する影響、さらには教師の事務量の増加等を併せ考えるとき、地域(部落)あるいは会員委員の活動により、その正当な方法がとられるべきであり、最近では、漸次この方法に改まって来たことは注目すべきであると思う。
(5) 各種活動
PTAの活動には、会員相互の教育、運営事務、会員の融和の三要素が互に相関連し合って動いていくところに正しいあり方が生れると思う。その中、運営事務に関しては、役員あるいは、委員の行う仕事であるが、後二者については、当然全会員が協力の下に推進していくべきであろう。活動は集会と表裏一体の関係にあり、当面する問題につき、あるいは全会員が、あるいは、小グループに分れて研究するとかいろいろの方法がある。しかしこの場合、徒らに派手な行事を目的とするものでなく、地道な実践活動により、PTAを守り育てていくことが肝要である。なおこの活動をより活発にする場合、会員の関心、趣味、希望等に留意して、実質的な効果のある活動を行うべきだと思う。

4 PTAの当面する問題

(1) PTAと選挙
 昨年十月実施された教育委員の選挙においては、PTA関係者が相当数立候補し且つ当選したが、これはPTAの教育に対する熱意と発言権が、高まったことを意味すると同時に、政治的進出を示すものであるが、今後PTAの政治活動はその性格上、影響するところが大なので、文部省においては、昨年十二月二十六日付文社社第五一七号を以って局長より、各都道府県に対し通達を出し、PTAを含めたすべての社会教育関係団体と教育委員会との関係について、一応の規正を加えたが、これは、どこまでも参考的指針であって、PTAとして今後具体的に如何なる方向に進むべきかは、それぞれ良識ある判断にまつべきであろう。
(2) 義務教育学校職員法案に対するPTAとしての動き——特にPTA会員としての教師の立場について——
 先の国会において義務教育学校職員法案の審議に当り、この法案に対する教員組合の反対運動が各地で行われ、PTAに対しても、積極的な働きかけがあった。凡そ教師は、PTA会員としての教員、教職員組合員としての教師、さらには、教育公務員としてのそれぞれの立場があり、これらはすべてその範囲内で活動すべきである。しかるに、同法案反対に当っては、教員組合として取るべき方針を、PTAに押しつけ、政治運動に迄、発展させようという事例がないとは言えなかったが、これは、PTAの本質にかんがみて、もっと慎重を期すべきであったと思う。
(3) 完全就学の問題(長欠児・混血児等)に対するPTAとしてのあり方
 昭和二十七年実施した文部省統計課調査によれば、長欠児の全国情況は下記のとおりである。

小学校
男 〇・七九%
女 〇・八四%
計 九二、二七五人
中学校
男 二・九九%
女 二・四六%
計 一五六、五六二人
昭和二十六・四=一〇 文部省調査

東京都においては
小学校 〇・六%
中学校 二・八%

 長欠児の問題は、極めて深刻な社会問題であり、これが根本的解決は、国力の回復、道義の確立、社会保障の完成等国民生活の安定の上に立った諸施策が行われねばならぬが、PTAとしては、差当って、親の無理解に対する対策確立のため地域を通じて両親教育を強力に行うことによって解決をはかるべきである。
 なお、本年初めて入学した混血児童の問題についても、去る月文部省初等教育課より、混血児の就学について指導上留意すべき点」という指導書が出されたが、その中において、偏見の是正、親の持つ不安感の除去等について、PTAとして協力すべきことを強調している。以上の問題について、父母と先生の会分科審議会においては、これが実施方策について、審議中であり、近く参考資料として発刊する予定である。
(4) 規約改正の問題
 現在、各単位PTAの規約の多くは、昭和二十三年十月、文部省において作成された参考規約に準拠したものであった。爾来、五カ年を閲した今日、それによる運営が必ずしもその実情に沿わず、地方においても改正の声が多く文部省にも照会があるので、昨年一一月以来その改正案について検討中であるが、六カ年のPTA活動の体験を生かして、従来の「他から与えられた規約」から「自からつくり、自から実行の責を負う規約」とすることに重点をおき根本精神を変えることなく、原案を成中である。なお、改正参考規約は、今月既にPTAの自主的全国組織ができている際なので、日本PTAの承認を得て、日本PTAの名において、発表され配布されるよう望んでいる。

5 今後の問題

 今後、PTAが内面的な充実を計る上に考うべき問題について簡単にのべたい。
(1) 教師の理解と協力
 将来、日本のPTAが発展すると否とは、教師の理解と協力如何にかかっているといっても差支えない。この意味から、今後益々、その本質理解のための啓蒙が必要であり、特に、教員養成大学における、PTAに関する講座の設置が望まれる。(社会教育関係団体指導者の項参照)
(2) 経理
 終戦後の荒廃した学校施設の整備充実にPTAの果たした役割は大きかった。しかし現在に至るも、その方面に重点がおかれていることは、日本の現状より見て止むを得ないが、PTAの活動は、あくまで本来の目的に沿うことが原則であるので、今後、経理面においても、その線に沿って、次のような措置をとるべきである。これは、ひとりPTAの健全な発達を促すばかりでなく、教育財政確立の基礎をつくるものである。
 なお、この措置としては、次の如き方法が考えられると思う。
  PTAにおける会計経理の方法について
a PTAの予算において、PTA本来の目的のためのものと、公費援助のためのものと明確に区分すること。
b 学校経費に関する予算については、その適正化をはかる意味において、地方教育委員会とPTA連絡協議会とが協議して、毎年その基準を作成すること。
c 予算は、総会において審議決定すること。
d PTA本来の目的のための支出と、公費援助のため支出を区分した会計報告を行うとともに、それに関する会計監査を確実に行うこと。
(3) 本質の確保と民主的運営の徹底
 PTAの運営は、あくまで全会員の総意を反映して行うべきであり、役員のためのあるいは一部会員のみのPTAとなってはならない。そのために、会員には、本質に対する啓蒙を行うと共に、自由入会精神を徹底させることにより、その本質の確保に努力しなければならない。なお、今後、各方面より、政治的な触手がのばされるものと思うが、事政治問題に関しては、あくまでその中立性・純粋性を維持することが大切であろう。
(4) 成人教育の振興
 PTA活動の根底をなすものは、父母、教師が対等の立場に立って、相互教育、自己教育を行うことであり、そのため、各種集会を通じて活潑な成人教育を行うべきであろう。
(5) 連絡組織の整備と他団体との協力
PTAがその本質に基いて活動する場合、単に―つのPTAとして行うのみならず、その地域の他のPTA、婦人会及び青年団と連絡し、さらには県全体、引いては全国的な連絡組織をもって活動することが望ましい。この見地より、昨年十月結成された日本父母と先生全国協議会は、今後地方協議会を通じて各単位PTAと直結した活動を行うのみならず、国際的なつながりを持って「児童の福祉増進」という根本命題について真剣に努力してゆかねばならない。これが引いては、世界平和へ最短コースであると思う。なお、昨年十一月アメリカのミシガン大学においてPTA国際会議が開かれた。しかしこの会議には、諸種の事情より、日本よりは、代表の参加はなかったが、本年四月フィリピンのマニラ市におけるPTA世界会議には現日本父母と先生全国協議会会長西本啓氏が参加されることは非常に喜ばしいことであり、これが今後日本のPTA運動に大きな影響を与えられるであろうことを期待している。



PTA史研究会『日本PTA史』2004, 日本図書センター pp.469-82


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