社会教育の展望 一九五四年の現状(文部省社会教育局)


1 わが国PTA 五カ年の歩み

 顧れば、終戦後の社会の混乱と疲弊に加えるに、国民道義のたい廃した中から、ひたすら子どもを幸福にすることを目的としたPTA運動が起って以来、早くも約七カ年になるが、この間わが国における教育の各般にわたる民主的発展のため、また当初から多くの困難が予想されていた六、三、三、教育制度の確立のため協力を惜しまず、それがPTA 活動の基礎となって年とともに健全な発展をとげるようになったことは、誠に喜ばしいことであるが、ここに再び発展の跡をふりかえり、今後の伸展の参考にしたい。
 終戦後、政治、経済、社会機構の各方面にわたる民主化がなされ、国を挙げての一大変革を余儀なくされていた当時、教育面においてもやはり、その域外にあることができなかった。
 昭和二十一年来朝した、アメリカ教育使節団は教育の各分野にわたり、その民主的発展を助長するための改革意見が表明されたが、その中において、教育は学校だけにかぎらず、家庭、地域社会も協力して行われなければならず、そのためにPTA活動を行うことが望ましい旨の勧奨がなされたので、文部省においては、同年秋頃より、CIE と協力してその研究にたずさわった。その結果、従来置かれていた学校後援会または保護者会のあり方に対して深刻な反省がなされるとともに、次第にPTAに対する理解認識が深まり、結成機運が盛り上って来た。現在設置されたPTA の大部分は、この時期に結成されたものであるが、内容的に見ると必ずしもPTA の真の目的を理解した上での結成でなく、その多くは、単に看板のぬりかえにすぎなかったため、文部省においては、PTA 運動の健全に育成する方法を研究調査および審議し、その運営活動に必要な参考資料の作成を考えて、昭和二十二年十月、民間人、学識経験者を加えた父母と先生の会委員会を設置し、その目的達成に努力した。又一方各地においてPTA の研究熱が高まってくるにつれて、従来の学校後援会的色彩を払拭し、真のPTA の目的に合致した運営活動を促進する観点から中央において幾たびか研究協議会が開催されると共に地方でも県郡市町村単位の連絡組織による自主的な研究集会が催され、PTA の趣旨の啓蒙および指導者養成に力をつくした。さらにこれに並行してPTA の連絡組織を強化してこれを全国的なつながりにまで発展させようとすることについて各地にその動きが見られ、過去三ヵ年にわたる経緯を経て、昭和二十七年わが国最大の成人組織をもつ日本父母と先生全国協議会が結成され、一層PTA 運動の発展を助長し、現在に至っている。
 さて、次にPTA 運動の育成発展につき、国、都道府県および民間においてそれぞれの立場よりいかなる動きを示しているかのべよう。

(1) 国の施策
  (イ) 父母と先生の会分科審議会
 前述の如く、昭和二十二年以降各地において急激にPTA が結成せられたのであるが、この事態に対処する意味から同年十月父母と先生の会委会が発足したが、その後この委員会は、同二十四年発展的解消を行ない、文部省設置法に基<社会教育審議会の一分科審議会として新発足して今日に至っている。叙上の委員会および分科審議会は、正しいPTA の趣旨、その組織運営および活動に関する理解啓蒙に対してPTA 参考規約、啓蒙資料の作成等各方面にわたる努力を続けてきたが、これはPTA 活動の普及徹底に大いにあづかって力があった。この間においては専ら、参考資料の作成に重点がおかれた。昭和二十六年独立を一契機として、わが国のPTA 運動も従来どおりの活動を行うべきか、または新しい日本的性格を加味したPTA となるべきかという転換期に立ち、各単位PTA でも、それぞれの立場でまじめに考え、また悩んでいた。この時に当り、審議会では、

a PTA における民主的発展の根底となるものは各種の集会活動にあると考え、特に学校を基盤とする学校(学年)集会ならびに地域社会を基盤とする部落(地域)集会活動の基本的なあり方につき、各地に行われた資料に基いて検討を加えた結果、一応結論を得たので近く参考資料として発刊する予定である。
b PTA の目的は、子どもを幸福にするために父母と先生が相互教育、自己教育を行うことにより一層よい父母、一層よい先生となるように努めることであるが、この目的をより効果的ならしめるためには、両親教育が活ぱつに行われなければならない。従って現在各種各様の方法で行われている両親教育に対し、それを実施する場合の参考プログラムの作成を考え、これについて審議を重ねていたが、これまた近い中に資料として刊行を予定している。
c いうまでもなく、PTA は、父母と先生の会であり、将来日本のPTA が発展するか否かは、一に教員の理解と努力いかんにかかっているといって過言ではない。しかるに現在PTA 活動では、必ずしもこれが全面的協力が得られず、ためにその健全な発展を阻害する場合も決して少くないので、この意味から今後教員に対してPTA の本質を理解せしめる措置が必要とされ、またこれを含めた社会教育振興の上から、一般教員に対して社会教育の認識と理解を得しめ、さらには、その活動に必要な指導と助言を与えしめるために、社会教育振興方策についての建議を昭和二十八年三月社会教育審議会を通じて文部大臣に建議したが、現在この建議を教育職員免許法改正に関する教育職員養成審議会においての、審議の参考資料として提出し、これが具体的な実施を強く要望している。なおこの建議内容は次のとおりである。

社会教育振興方策についての建議(抄)
 現下の我国の当面する社会教育の推進方策として最も喫緊なことは指導者の育成ということである。政府は社会教育法および教育公務員特例法の改正により、専門的教育職員として社会教育主事を設置したのであるが、この社会教育主事が社会教育行政の専門の機関として果す役割に期待される所は勿論大きいものがある。しかしながら社会教育は、その固有の行政面の整備拡充と併せて学校において、行われる教育活動と緊急な連けいを保つ必要がある。即ち学校の教職員が同時に社会教育の指導者として果す役割は絶対にこれを無視することができない。例を青年学級に徴してみても、その講師の大半は、小、中学校の教職員である。学校教育を担当する教職員に関しては、教育職員免許法により、必要な資格が定められているが、教職員に期待される右の役割の重大性にかんがみて、教職員は特に教職に関する専門的資格において社会教育に関する科目を修得する必要がある。然るに現行法の規定するところによれば、教育職員の普通免許状に必要な大学における最低修得単位の中には、社会教育に関する科目がふくまれていない。ただ免許法施行規則、第八条、第九条および第十条において、それぞれ校長、教育長および指導主事の普通免許状の授与をうける場合の教職に関する科目の単位についてそれぞれ、次の如き科目および単位の追加の必要を規定し、その中に社会教育を含めしめているにすぎない。
1 校長、教職に関する専門科目十五単位のほか、次の各号に掲げる科目について各号ごとにそれぞれ三単位以上
(1) 教育評価(精神検査を含む)学校教育の指導および管理(学校衛生を含む)
(2) 教育行政学(教育法規、学校財政および学校建築を含む
(3) 教育社会学および社会教育
2 教育長、教職に関する専門科目について修得した十単位のほか、次の各号それぞれ三単位以上
(1) 教育行政学
(2) 教育関係法規
(3) 教育財政学
(4) 教育社会学および社会教育
(5) 学校衛生および学校建築
3 指導王事、教職に関する専門科目について、一級普通免許状の場合は八単位、二級の場合は四単位のほか、次の第一号から第三号までをそれぞれ二単位以上、第四号を四単位以上
(1) 教育心理学および教科教育法
(2) 教育評価、学校行政法、識業指導
(3) 教育社会学および社会教育
(4) 指導主事の職務および指導実習
 従って現行法の規定するところでは右の校長、教育長、指導主事の三者についてのみ、社会教育の科目の履習が義務づけられているばかりで一般の教職には、それがないため学校の教職員で社会教育に基本的な認識と理解をもつものは殆どない現状にあるといえる。よって現行の教育臓員免許法施行規則の改正を行い、普通免許状に必要な科目と単位の中に社会教育を加え、学校の教職員が地域社会の社会教育活動の指導に当り得る識見と能力を養成する如く措置を講ずる必あるものと認める。よって次のとおり建議するものである。
建 議
(一) 学校の教職員に社会教育に関する知識と理解を得しめ必要に応じて実際活動の指導と助言の能力を得しめるために普通免許状の授与をうける必要な教職に関する専門科目および単位の中に、社会教育概論四単位以上を加えるよう教育職員免許法施行規則の改正を行うこと。
(第五条および第六条による幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教諭免許状に関する規定の改正)
(二) 校長、教育長、指導主事の普通免許状の授与をうける場合の教臓に関する科目および単位に関して教育社会学およ社会教育三単位以上、(ただし指導主事の場合は二単位以上)と規定されているものを、教育社会学と社会教育を分離せしめて社会教育行政及び社会教育財政三単位以上、ならびに社会教育各論三単位以上(但し指導主事の場合はそれぞれ二単位以上)と改正すること。
(第八条、第九条、第十条の改正)
添附資料
 教臓員の普通免許状の必修単位に社会教育を加えることの提案に伴い、その中でとくに両親教育及びPTA に関する履修課程を考慮する必要があると思われるからこれに関し次の如き資料を添附する。
  教員養成の課程に含める社会教育の内容の中に特に両親教育及びPTA に関する単位を認定することについて学校教育は児童生徒の父母及び一般に地域社会の人々の理解ある協力を得なければ、その目的を達成することができない。終戦後全国ほとんどすべては初等、中等の学校にPTA が結成され、学校教育の運営に貢献している。しかしながら多くのPTA 活動の現状PTA 本来の使命を果すまでに至っていない。一部のPTA 活動の中には、かえって学校の運営に障害を与える危険の徴候さえ感じられるものもある現状である。他方、一般社会の人々も、学校教育に対する関心や協力に欠けている。PTA 以外の学校教育を改善する上から、また一般に社会教育の振興を図る上から、特に学校教育の直接担当者に対し、社会教育の概論の中においてPTA 及ぴ両親教育について充分な理解をもたせ、もってPTA 及び一般の両親に対して、積極的に指導力を発揮させることは、現在喫緊の課題と痛感される。しかるに現在の教育養成の課程においては、一般の教員となるべきものに対して、PTA 、両親教育についての教育計画をもっていない。この点について第二次アメリカ教育使節団の「教育養成課程」として次のように勧告している部分がある。
  「教員養成のカリキュラム」
「日本における父母と先生の諸団体は、教員養成機関の奨励と援助とを必要とする。父母と先生の団体および両親教育における指導者を養成するためにいくつかの課程が設けられるべきである。」従って、大学における教員養成の必修コースの中で、PTA および両親教育に関して次の如き内容の教科課程の設定される必要があるものと認める。
  PTA 、両親教育の課程内容
PTA 、両親教育の課程として、次のような内容が含まれるべきであろう。
1 両親教育の目的
2 学校教育と両親教育との関係
3 両親教育の課程と指導の方法
4 PTA の目的方針
5 PTA の組織運営
6 PTA の活動計画
7 PTA と校長、教員との関係
8 グループ テクニック
9 内外諸国におけるPTA 、両親教育の発達

d 昭和二十七年十月に地方教育委員の選挙が行われたが、その立候補者および当選者の中に相当数のPTA 関係者が見られた。これはPTA の教育に対する関心とその発言権が高まったことを証明しているが、この傾向は将来いろいろな問題を含んでいるため、審議会では教育委員選挙とPTA の関係につき、審議を重ねたが、後日関係審議会でも検討が加えられ、同年十二月二十六日付で事務当局より、「社会教育関係団体と教育委員会」という通達として地方に配布され、一応の指針とされた。
e 現在、各単位PTA における規約の多くは、去る昭和二十三年十月、当時の父母と先生の会委員会が作成した参考規約に準拠したものであるが、現在この規約による運営が必ずしも実情に沿わず、地方からも改正要望の声が高まりつつある去る二十七年―一月以来、検討を加え、本年二月ようやく完成したので、事務当局より参考資料として配布した。
なお、これについては、後段にて詳しく述べたいと思っている。
f また現在深刻な社会問題となっている長期欠席児童•生徒の完全就学対策につき、PTA としての協力方法についても、多角的に検討を加えたいと思っているが、これについても後段にゆずる。
g その他
 (イ) 児童憲章の普及徹底の方法、高校および幼稚園PTA のあり方、就学前教育等審議事項となっており、これについても結論をだしたいと思っている。
 (ロ) 研究協議会
 昭和二十二年以来、各地においてPTA の結成が見られたのであるが、同年五月より、文部省および都道府県共催の第一回社会教育研究大会において初めてPTA の問題を議題にして研究審議が行われた。この時期においては、専ら、PTA の結成のためその趣旨の啓蒙伝達に重点がおかれたが、其後、各PTA の運営活動の面が充実して来るに従い、昭和二十五年まで、毎年PTA 全国研究協議会が開催され、PTA と教育財政の問題、PTA とボスの問題、連絡組織の問題等が、その都度議題とされ、在来の無批判的な運営に基因する問題に対し、幾多の反省がなされた。
 (ハ) 全国PTA 事務担当者研究協議会
独立を一契機としてわが国のPTA 運動は―つの岐路に立っている。この時に当り、PTA の指導育成ならびにサービスの任に当る国および各教育委員会の責務はいよいよ重大なものといわざるを得ない。この事情にかんがみて、PTA の本質および実態をは握し、更に当面する諸問題を検討して、健全なPTA 育成の方針について研究協議を行った。なおこの研究協議会の問題点として、
 a PTA 予算の立て方および経理の仕方
 b PTA 調査の様式
 c PTA におけるT の任務およぴあり方
 d 実験PTA のあり方
 e 連絡協議会のあり方
 f 成人教育の源泉としてのPTA
 g PTA 指導者の養成方法
 h PTA におけるP・R 活動
 i 企画委員会のあり方
 j 会員委員会のあり方
 k 集会のあり方
 l 就学前教育への協力
 m 校外補導の仕方
 n 活動にふさわしいレクリエーション
 o PTA と他の団体、施設、機関との関係および協力
 p PTA は関心のうすい会員に対する措置
 q PTA が学校に協力する限界
 r PTA 民主化の問題
 s 学校図書館充実への協力
 t PTA と情操教育および道徳教育
等の問点を五つの分科会に分けて討議を行い、結論としてPTA 全国調査表の―つの型の作成、PTA 会計簿記の様式作成、PTA 本来の活動のための会計と公費援助の会計とをはっきり分けて取り扱う方法の研究がなされた。
(2) 都道府県の施策
 従来PTA 活動の初期において、国では、度々研究協議会を開き、その本質の理解啓蒙に資したが、その後各地のPTA において、漸次この趣旨が理解されてくるにつれて地方においては、次第に運営活動の基礎ともなるべき幾多の研究集会がなされ、PTA スクール、PTA 研究協議会、PTA 役員研修会、実験PTA などの名目で、規約、成人教育、会計経理、校外補導などにつき、相互教育を行っている。なお教育委員会においても、これが研究助成、指導者養成のために県連絡協議会と協力している。また教育委員会自体としても、県下各PTA に対するサービスのために有益な資料を発刊している。
 特に注目に値すべきこととしては、東京都教育委員会で行われている成人学校において初めてPTA 研究科が取上げられ、PTA の本質の再認識および運営活動についての講座が設けられたことは、全国でまだその例をみないテストケースであるといえよう。
(3) 民間において
 国および各都道府県においてPTA の健全育成のため、当初より、その啓蒙に関する諸施策を実施していたが、一方民間においても、それぞれの立場でその発展に努力して来た。
 即ち、昭和二十三年五月、毎日新聞がPTA 世論調査を行い、PTA に対する世の関心、理解の問題を取り上げ、今後PTA 活動の取上げるべき問題を示唆した。
 又、同じ月、「教育技術連盟」主催のPTA 全国研究協議会が東京神田教育会館において開かれ、六月には、日本PTA 結成促進準備会議が明治大学で、さらには十一月に、東京教育大学PTA 研究会主催で、PTA 全国研究協議会が早稲田大学において開催された。これとともに、この年十月実施される教育委員選挙に処するPTA の態度の問題も、次第に世論の対象となった。
 一方、諸種の雑誌、新聞においても、あらゆる機会をとらえて、PTA に関する記事を掲載するとともに、PTA 活動を専門にあっかったものも現われ、PTA 関係者の理解認識深めるよすがともなった。さらにラジオにおいても、PTA 時間が設けられ、その運営、活動の各方面にわたり、あらゆる資料を基礎にした放送が行われ、これ又関係者の啓発に大いに裨益するところがあった。
PTA 運動が全国的に普及し、その趣旨が年とともに深く滲透していくにつれて、その地域社会の中だけの連絡組織の結成だけに止まらず、ひいてはこれを全国的規模にまで発展させようとする動きが昭和二十四年頃から問題とされていたが、これが地方毎にとり上げられ、郡市町村単位または都道府県単位の「PTA連合会」あるいは「PTA連絡協議会」なるものが各地に結成され、この年の間に約半数以上の都道府県において、この連絡組織の結成を見たのである。そのご、翌二十五年一一月初めて全国組織結成のための準備委員会が結成され、会則案の作成、単位PTAの啓蒙等につき努力を重ねて来たが、その三ヶ年に亘る運動がついに実を結び、昭和二十七年十月東京において全国PTA 会員代表者の参加により、結成大会が開かれ、ここに干五百万会員が斉しく待望していた日本父母と先生全国協議会が擁する民主的団体として、その栄ある第一歩をふみ出すことになった。その実質的になりつつあることはまことに力強く、かつ喜ばしい次第であり、文部省としても、今後その発展には協力したいと考えている。なお昨年八月第一回PTA 全国大会が宇治山田市において開かれ、研究部会では各地のPTAの代表者により、当面する問題につき熱心に討議された。
(4) 国際関係
 戦後におけるわが国教育の民主的発展を目ざして、当時の総司令部は、文部省と協力して、その活動の一貫ともなるべきPTA運動の発展を勧奨したが、その後PTA の本質的なあり方の実際的な指導のために、昭和二十三年七月、ローズ・カロン女史が来日され、約六カ月にわたり、その啓蒙につくされた。その後、わが国におけるPTA運動が、次第にその実質的なものになるにつれて、PTA 会員の代表者、即ち、昭和二十五年には日本のPTA を代表して徳永、二宮、山本三氏が、翌二十六年には、五大市の代表として、東京都の銭谷氏他四氏が、アメリカにおけるPTA の実際活動視察、ならびに同じく、同年、山下、筒井両氏が全米PTA 指導者講習会参加の旅に上られ、これらの人々のもたらされた新知識は、成長発展期にある日本のPTA 運動に一層の精彩を加えるに至った。
 その後、昭和二十七年十一月には、アメリカミシガン大学において、家庭、学校、社会における児童に関する国際会議が開かれ、わが国に対しても代表者の参加が要請されたが、諸種の事情により、参加ができず、関係資料のみを送付した。さらに昨年四月には、フィリッピン、マニラにおいては、PTA 世界会議が開催されたが、この会議には、現日本父母と先生全国協議会長である西本啓氏が参加され、日本におけるPTA 運動の現状を説明されるとともに、大いに国際親善に努められ、一方参加各国の教育事情およびPTA 運動に関する理解を深められることにより、日本におけるPTA 活動に大いに参考とされた。
 かくの如く、PTA 活動は、各単位PTA がその本質に基いて個々に活動するのみならず、近隣のPTA 、さらには全国的なつながりを持つのみならず、国際的なつながりをもって、「子どもの幸福のため」という根本理念について、協力して行かなければならない。これがつまるところ世界平和への捷径であると思う。

2 小学校PTA 参考規約について

 現在、単位PTA の会則の多くは、去る昭和二十三年十月ローズ・カロン女史の助言に基いて当時の父母と先生の会委員会が作成した参考規約に拠ったものであった。爾来約六ヶ年、その活動は目ざましく、わが国における教育面のみならず、社会の民主的発展に大いなる貢献を果したことは、今さらいうまでもないことである。しかしその基幹ともなるべき、現在の規約による運営が、当時の民主化の度合よりはるかに進歩を見せている今日、必ずしもその実情に沿わず、地方においてもこれが改正の声が多く、さらには一歩先んじて独自に改正され、それによって運営されている単位PTA もある上に、文部省に対しても、改正に関する照会もあったので、現父母と先生の会分科審議会においては、先の参考規約を作成した責任上、昭和二十七年十一月以来、その改正案について、鋭意検討中であったが、六年間のPTA 活動の体験を生かして従来の「他から与えられた規約」から自からつくり自から実行の責を負う規約とすることに重点をおき、一部の声であった規約の内容の簡素化は、運営上拡張解釈による自由裁量の余地を多くし、一方において役員専制の風を増し、他方会員の無責任なおまかせ主義の旧弊を助長する結果となるので、表現型式において平易な用語を使用すること、規約を本則と細則に分ける等の工夫を行って検討した結果、昨年六月一応改正原案の作成を見たので、これを地方に配布し、その卒直な意見希望を聞き、慎重に審議を加えて、去る二月小学校PTA 参考規約を作成した。この参考規約は、あくまで単位PTA に対し、今後規約改正の場合の参考とするのみならず、PTA に関する研究資料とするためのものであり、文部省としては牽もこれを強制する意志はない。

3 今後の問題点

(1) 会員に対する本質の啓蒙
 わが国におけるPTA は、発足当時より僅か七カ年の間に会員数千五百万を数え、少くも量的、外面的に見るならば、一挙にその発展の極限にまで達したといえよう。
 しかしここに日本のPTA の特殊性がある。これをアメリカPTA 発展の五〇年の歴史と比較して見るならば、PTA が自由入会精神を基調とする民主的団体であることを考えるとき、日本におけるこの異常ともいえるこの発展、膨張ぶりは、正に仏をつくつて、魂を入れざるものと同様であるといわざるを得ない。このために、単位PTA においても、新しくPTA 会員となる者が、PTA の真の目的はどこにあるのかを理解せず、唯機械的に無自覚に入会するため、さらには、殊にPTA が主として学校教育との関連において考えられる限り、本来の学校後援会的性格が何らかの形で払拭され切らずに現在に及んでいるということ、さらには、PTAは不要で学校後援会さえあれば充分だとする、論をなす者が現われている実情に至っては、この際もう一度、その本質に立返って反省して見る必要があろう。故に会員に対しては、絶えず、諸種の集会、あるいは機関誌を通じて、その本質の啓蒙のための活動を行うと同時に、就学前の児童教育と並行して、先ず以て入会の心構えを培って、民主団体の基本である自由入会の精神と会員としても責任感の育成に努力しなければならない。
(2) 成人教育の振興
 PTA 活動を行うに当っては、先ずその目的である児童の福祉および成人教育について、はっきりと理解していくことが必要であろう。とかく児童の福祉、就中、学校教育活動の援助的機能にのみ走り勝ちなPTA の多い状況を反省して、児童の福祉は広く、家庭、学校、社会の三つの生活環境の相互の有機的な関連の上に立って始めて真に有効であることを思い、PTAとしては、社会教育的立場より、児童の福祉をはかる団体であるということを確認する必要があろう。次には、現在の多くのPTA ではとかく忘れられ勝ちな成人教育ということをPTA の本来の使命の一つに是非加えるということである。従来は、親も教師も一応完成された人格形成者として子どもに対するという考え方であったが、真の子どもの幸福は、親も教師も自からの教育を行なうことによって、それを通して始めて実現されるものであるということを体認して成人教育こそPTA の本来の目的であるという点に深く思いをいたし、その振興には絶えず努力しなければならない。この意味において、会員が気持を
一つにして、先ず手近かなところから子どもの生活を豊かにし、この幸福にするような活動を行う必要があり、例えば、P とT が打ちとけて会合を持ち、子どもの保健衛生のことや、しつけのことや、他のいろいろな必要事項についての話し合う機会を多く持つようになれば、お互の教育効果が上がると同時にPTA 自体が真に会員に親しまれるものになってくるものと思う。
(3) 他団体、機関との協力
 PTA が、その本質に基いて活動を行う場合、あるいは、ある問題が起ったような場合、単に―つのPTA のみでその問題の解決に当るばかりでなく、その地域社会にあるPTA は勿論、婦人会、青少年団体、さらには、その地区における青少年問題協議会等の機関とか、その問題に関連性のある凡ての方面と密接に連絡をとって、地域課題の解決に努めなければならないと共に前述のようにPTA 活動においても、その源泉ともなるべき成人教育活動として行われる諸種の行事についても、でき得る限り、これら他の団体、機関の協力の下に行われることが一層よい効果を上げることができるものである。
(4) 完全就学
 完全就学の問題については、昨年度の社会教育の現状でもふれてあるが、その後父母と先生の会分科審議会において協議を行った結果、左記のような成案を得たので、将来参考資料として地方に配布することも考えているが、一応参考案として紹介しておきたい。
(資料略)



PTA史研究会『日本PTA史』2004, 日本図書センター pp.482-501


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