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「PTA問題」の背景

 「PTA問題」に関する取材を続けているジャーナリストの大塚玲子氏は、多くのPTAの現状を

「正直言って、今のPTAにはあまりかかわりたくない」というのが,多くの人の本音でしょう。

大塚玲子『PTAをけっこうラクにたのしくする本』2014, 太郎次郎社エディタス p.2

と指摘して、多くのPTAが抱えている問題の背景にある、以下の5つのポイントを挙げています。

○「義務なのにやらない人はズルいよね」 ―いやいやだから,つまらない
 〝義務だから〟感が強いため、「活動をやっていない人に対する不公平感」も生じます
○「去年もやったんだから,今年もやらなくちゃ」 ―「例年通りの活動」が目的化
 「例年どおりの活動をおこなうこと」が、目的とされがち
○「火曜午後2時に集まって下さい」 ―仕事が専業母にかたよりがち
 平日の日中だけに活動していたら、お勤めしている父親・母親が参加しづらいのは当然です。かといって専業母にばかりに頼っていたら、彼女たちの負担はましていくばかりです
○「PTAが忙しすぎて,ほかになんにもできない」―仕事の負担が大きい
 拘束時間がハンパではありません
○「どんな事情があっても,やりましょう」 ―みんな一律に参加せざるをえない

同書 pp.12-7

 ここではこの5つのポイントをお借りし、キーワード化して以下のように呼び、「PTA問題」の背景を整理してみたいと思います。

①〝義務だから〟感
②(例年どおりの活動による)無目的化
③専業主婦担い手モデル
④負担感
⑤強制感

 そして、これらの関係を図式化したものが図1です

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図1 :PTA問題の背景

「③専業主婦担い手モデル」の崩壊

 近年いわゆる「PTA問題」が「社会問題」として取り上げられるようになってきた大きな背景として、これまでPTA活動を事実上支えてきた「③専業主婦担い手モデル」が崩壊したことによる「担い手不足」があると考えられます。
 この「担い手不足」の原因は、少子化による「世帯数の減少」と「家族・働き方の多様化」による「専業主婦の減少」によるものと考えられます。

 少子化の進行を1980年からの約40年間でみると、15歳未満の子どもの数は1980年の2752万人から2019年の1521万人に減少していて、子どもの数は40年間で55%に減少しています(図2)。これは子どもの数なので、きょうだいの数を考慮すると世帯数と多少の誤差はあると思いますが、概ね半減に近いと考えてもいいと思います。

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図2:子どもの数(15歳未満人口)
資料「人口推計」各年10月1日現在

 また、家族・働き方の多様化による「専業主婦の減少」も、1980年から2019年までの40年間でその割合は逆転していて、「専業主婦」の割合は40年間で50%に減少しています。(図3)

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図3:専業主婦世帯数と共働き世帯の数の推移
資料:労働政策研究・研修機構 『早わかり グラフでみる長期労働統計』

このように「世帯数の減少」と「専業主婦の減少」が同時進行しています。参考のために試みに子どもの減少率と専業主婦の減少率を掛け合わせてみると、55%×50%=27.5%になります。これまでのPTAの活動の中心的な「担い手」が1/3以下、1/4近くに減っていることから「③専業主婦担い手モデル」が崩壊し、「担い手不足」に陥っていることは明らかでしょう。
 しかし、この「担い手不足」は社会的な傾向であり、PTAが自ら解消することはできません。

「④負担感」の増加

 子どもの数の減少に伴って学級数は減少します。各学級から決まった人数が「委員」などとして選出され中心となってPTAの活動している場合、学級数が半分になっていれば「委員」の数も半分となり、その状態で「例年どおりの活動」を行おうとすれば、単純に考えれば負担は倍になります。一人当たりの負担を増やさないためには、学級から選出される人数を倍にすることになるかもしれません。「子ども一人につき一度は委員・役員をする」という「一子一回ルール」が一回では足りなくなり、「一子二回ルール」になるかもしれません。
 世帯数が半分近くにまで減少していく中で「例年どおりの活動」を行おうとすれば、それぞれの世帯の「④負担感」は高くなります。
  また、平日日中の活動時間では、仕事をしている保護者は委員などを引き受けると休みを取らなくてはいけなくなるためさらに「④負担感」は大きくなるでしょう。

「⑤強制感」の増加

 このように、実際の負担や状況に応じた負担感が大きくなると、委員になることを避けられ、引き受けてもいいという人が減ってきます。しかし、「例年どおりの活動」を例年どおりの人数で例年どおりのやり方で続けようと思うと、強制的にでも委員の選出をする必要があります。そこで、「一子一回ルール」や「ポイント制」などの強制のルールが発案され、「それぞれ事情はおありでしょうが、一切、考慮いたしません」というような「強制」が行われるようになり、「⑤強制感」が大きくなります。

「①〝義務だから〟感」と「②無目的化」の悪循環

 このような「強制」がされる根幹には、PTAに加入・参加するのはその学校に子どもを入学させた「親の義務」である、という認識があるように思います。
 PTAは「親の義務」という認識があるため、「一子一回ルール」や「ポイント制」といった「強制」にも、〝義務だから〟と対応せざるを得なくなる、対応するのが当たり前となっているのではないでしょうか。

 「①〝義務だから〟感」を根幹として、「④負担感」のある活動を、「⑤強制感」を感じながら「イヤイヤだから,つまらない」と思いながらする。そのような活動では、工夫や試行錯誤をする気にならないので、「例年通りの活動」をこなすことが目的化し、目的を見失って「②無目的化」していきます。そして翌年も「②無目的化」した「④負担感」のある活動を「⑤強制感」を感じながら「いやいやだから,つまらない」・・・という悪循環がここにはあると考えます。

悪循環をどのように断ち切るか

 このような悪循環をどこでどのように断ち切るか、これが「PTA問題」を解消する考え方のヒントになるのではないでしょうか。

5つのポイントにそれぞれ対応することもできるでしょう

①〝義務だから〟感:PTAは義務ではないことを伝える
②無目的化:PTAの目的・活動の目的を明確に伝える
③専業主婦担い手モデル:活動時間を柔軟にする
④負担感:活動・役割を減らす
⑤強制感:強制しないシステムを構築する

 悪循環を断ち切るためには、PTAに入会することも活動に参加することも義務ではなく、PTAは何かを強制することもできないことを原則として、PTAの目的・活動の目的を明確にしながら整理していくことが必要だと考えます。


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