PTAについて社会教育の現状  ——社会教育研究大会参考資料(昭和二十六年六月 文部省社会教育局)

1 PTAの新課題

 PTA発足以来4 ヵ年を経過した今日においては、一応その本質は普及していると考えられるが、しかしまだまだ問題が残されている。殊にPTAが主として学校教育との関連において考えられる限り、本来の学校後援会的性格が何らかの形で払拭され切らずに現在に及んでいるということ、甚だしきに至つては、PTAは不要で、学校後援会さえあれば充分だとする学校当事者さえ現れている実情に至つては、この際我々としてその本質に立返つて大いに反省して見る必要があるのである。
 アメリカ教育使節団は、第二次報告書の中においてPTAに関する再度の勧奨を行つているのであるが、これはPTAの重要性をいやが上にも我々に認識せしめるものであると共に、我国PTAの現状に対する頂門の一針でもあると考えられるのである。

(1)  PTA本質の再確認
 アメリカのPTAの最近の方針は、㈠ 学校と家庭の協調 ㈡ 両親教育 ㈢ 地域社会の改善の三つであるということであるが我々としては、これを ㈠児童の福祉 ㈡ 成人教育の二つにはつきりと理解してかかることが必要と思う。
 とかく児童の福祉、就中学校教育的観点に立つてのみの児童の便宜にのみ眼を注ぎ、あたら学校教育活動の援助的機能にのみ走りがちなPTAの多い状況より反省して、児童の福祉は、広く、家庭・学校.社会の三つの生活環境の相互の有機的連関の上に立つて始めて真に有効であることを思い、PTAとしては社会教育的立場から、児童の福祉を図る団体であるということを確認する必要があろう。
 次には、現在の多くのPTAではとかく忘れられがちの成人教育ということをPTAの本来の使命の一つに加えるということである。親も教師も一応完成された人間として子供に対するというのが本来の考え方であつたが、真の子供の幸福は親も教師も自らの教育を行うことによつてそれを通じてこそ始めて実現されるものであるということを体認して、成人教育こそPTAの本来の目的であるという点に深く思いを致すべく指導が行われなければならない。

(2)  教育使節団報告書とPTA 第二次使節団の報告書には、次の四つの箇所において、PTAに関する指示をしている。

㈠ 日本の教育再編成の一環として、都道府県並びに市町村に教育委員会が設けられつつある。PTAの全国的な組織も又結成されつつある。この両者は国全体に亘つて民主教育の計画を進展せしめる上に重要な役割を演んじているものである。
  —— 緒言中より ——
㈡ 公立小中学校の教育は、日本の全国民の全児童に対して絶対に無償でなければならない。このことは教科書・学用品の無償配布ということも含めている。父母は義務教育費の大部分を所謂PTAを通じての自発的寄附なるものによつて支払わねばならぬというようなことがあつてはならない。
  —— 初等中等教育行政中より ——
㈢ 日本のPTAは、教員養成機関によつて奨励され援助される必要がある。PTAや、又両親教育における指導者を養成する課程がこれらの機関に設けられるように準備されなければならない。
  —— 教授法と教員養成教育中より ——
㈣ 当然社会の激励を受けてよい成人教育の大きな二つの源泉がある。それはPTAとユネスコ協力会である。両者共に日本の将来に顕著な貢献をすることができ、教員や教育者はこれらの団体の目的や計画に参加することと、それらを理解することを奨励するように努力しなければならない。
  —— 社会教育中より ——

 これによつて見ても、今後の我国のPTAの向うべき方向が那辺にあるかが充分に了解されよう。

(3)  我国PTA運動の当面する重要問題、即ちPTAの全国組織結成のこと。
 民主的に全国の各PTAの会員によつて選ばれた代表者が各県三名宛集つて結成準備委員会を作り、そこにおいて全国組織の会則案を起草する小委員会を作り、この小委員会により起草された会則原案を全国の会員に示して、意見をきき、それに基づいて更に改正案を作り、再び同様にして改正案を作り、かくして結成総会を開催するように取計るよう現在では考えられている。これは文部省、CIE (民間情報教育局)及び昨年一一月結成された現在の準備委員会の三者の間において協定された基本的線である。

2 PTA経営上の問題

 今日といえども、何といつてもこの赤ん坊のPTAを育成する為の根本の課題は、一つ一つのPTAが理想的な民主的社会教育関係団体の一つに育つて行くよう、その組織運営活動につき厳格な反省と検討を加えることである。以下その各々についてのポイントを指摘して見よう。

(1)  PTAの組織に関する問題
 これは、一応参考規約に示されたような形が理想的なものであると考えられるので、図によつて示そう。(図略)
(2)  PTA社会教育関係団体の重要な目的は、会を作つて何か事業をやるというよりか、会を構成する会員同志が、自己教育、相互教育を行うということにある。従つて、会を運営することは、民主的団体の特性として会員へのサーヴィスであつて決して会を代表する権威的行為であつてはならないのである。
 とかく、役員や委員は、平会員より一段上の偉い地位にあるもののように考えられ、又実際にそのようになつているのであるが、これは根本的に改められる必要がある。
 そこで、PTAの運営は会の究極の目的であるところの会員同志の自己教育・相互教育をとをしての子供の幸福のための会員同志の協力的活動をいかにしたら有効に推進できるかについて、会員の間からえらばれた幾人かの代表者が、全会員に代つて、いろいろ工夫し、サーヴイスすることに他ならない。
 とかくこのサーヴイス的行為を、PTAの本来の経営と誤解して、極端にいつて、選ばれた幾人かの代表者だけのPTAに終始している場合が多いが、これもこの際改めて反省を要する問題であろう。
 そこでPTAの運営ということはどんなことであるかというと、会員の活動に都合のよい便利を提供することがすべて運営と考えられるので、一応次のようなことが挙げられるであろう。
イ 規約  ロ 役員及び委員  ハ プログラム  ニ 集会   ホ 会員
ヘ 経理  ト 拠金行事  チ レクリエーション  リ 調査研究
ヌ 資料  ル 弘報宣伝  ヲ 効果判定  ワ 連絡調整

(3)  PTAの活動に関する問題
 運営は一部役員、委員に代行される仕事であるが活動は必ず全会員によつて推進されなければならない。活動には次にあげるような事柄が考えられるが、その方法としては、全会員で行うもの、中の幾人かがグループを作つて行うもの、一人々々の会員で行うものと三様に分けて考えられる。社会教育というのは、決して派出な行事ばかりでない。一人々々の日常生活における実践こそ大切なものであるから、PTAの活動は決して華々しい行事にのみ終始してはならないということを体認して、次に掲げる行事の充実して実践を望むものである。
 イ  PTAと学校
  (1)  新しい学校教育の理解ならびに促進、教科内容、教科課程の充実のための活動
  (2)  学校行事への積極的参加ならびに協力
  (3)  学校給食活動への協力
  (4)  特殊児童生活の補導及び擁護のための活動
  (5)  学校の保健衛生生活への協力
  (6)  学校施設を利用しての講座、講習会等の開催
  (7)  先生と両親の共同研究
 ロ  PTAと家庭
  (1)  両親教育のための活動
  (2)  家庭における子供の生活指導
  (3)  家庭生活の科学化、合理化の運動
  (4)  家庭生活民主化の運動
  (5)  ホームプロヂェクトの実践
  (6)  家庭の健康生活プログラム樹立のための活動
  (7)  家庭相談の実施
 ハ  PTAと社会
  (1)  社会福祉、児童福祉のための専門的施設、機関の活動事業への協力
  (2)  児童生徒の校外生活の指導、特にその自主的団体活動の育成
  (3)  職業生産教育の振興及び児童生徒の進路開拓への協力
  (4)  教育財政確立のための活動
  (5)  地域社会の社会教育振興のための活動
  (6)  社会衛生のための活動
  (7)  国際理解、国際親善のための活動


3 PTA育成上の問題

 社会教育関係団体としてのPTAに対しては、行政機関による干渉統制は絶対に加えられないし、又補助金の交付なども不可能であるが、これを健全に育成する為には、行政機関の当然の責任として、次のような事柄が考えられてよかろう。

1.  PTAスクール(指導者育成)
2.  研究指定PTA(モデルPTAを選んで、夫々の研究テーマに基くプロジェクト実施)
3.  ワークショップ(新しい研究集会のもち方について指導)
4.  資料の作成配布

4 その他の問題

 PTAの当面しているその他の問題については、関係当事者の間には充分に認識されていることであろうが、その主なもの
を拾つて見ると、次のような事柄がある。これらは在来から既に問題にされていることであり、現在においてもそれが完全に克服されたとはいえないので今後一層の警戒を要する問題としてここに掲げて、今後の反省の指針としたい。

   1.  学校経営についての過度の接触
   2.  教員人事への干渉
   3.  個人的政治的利用
   4.  役員委員だけのPTA
   5.  機能的加入
   6.  学校側の非協力的態度、PTAの離反
   7.  学校PTAや地区PTAのことども
   8.  学校財政とPTA経理の混同、特にPTA経理の乱脈
   9.  規約軽視の傾向
 10.  先生の会費不納と生活補助金
 11.  お祭り騒ぎ的行事を本体とする活動
 12.  会費徴収方法の不合理
 13.  選挙のあいまいさ
 14.  運営と活動の混同


PTA史研究会『日本PTA史』2004, 日本図書センター pp.447-56

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