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【2022年4月フクシマ部現地ツアー】参加者レポートVol.3~初めてのイチエフ~

いつか原発をこの目で見たいと思い続けた末に、福島県での関係人口を創出する取り組み「フクシマ部」を主宰する友人の誘いがきっかけで参加した『Fukushima Deep Tour』。

高なる胸音と相反する不安や葛藤が共存している不思議な感覚に心を覆われながら、エネルギーをめぐる深淵な旅路がはじまる。

福島水素エネルギー研究フィールド (FH2R)を車の窓から見学。太陽光パネル部分を見学。

ツアーに参加した動機

まずは旅路が始まる前の心の準備について書き記しておきたい。

以前に所属していたクリエイティブ会社で、再エネ企業とコラボでクリエイティブ制作をしたり、マネジメントを担当していたアーティストが再エネシフトのアンバサダーを務めていたり、数年前に姉が新電力にまつわる事業で起業をしていたことなど、少なからず"あたらしいエネルギー"と関わる機会はあった。

しかし、東北の震災時は高校中退が目前に迫った遊び盛りの16歳で、自分のことに精一杯で震災のことには目もくれず、阪神淡路大震災の時(当時0歳10ヶ月)に被災した経験があるのにも関わらず、関西に住む自分には関係ないだろうとそっぽを向くような人間だった。(本当どうしようもない奴だったw)

それから歳を経るごとに改心も終えて、南三陸へ炊き出しボランティアに行かせて頂いたり、震災後にたちあがった石巻にある複合施設「MORIUMIUS(https://moriumius.jp/)」でインターンをさせて頂いたりと、少しずつ東北への距離を縮めていった。

そこで、パンドラの箱のように知ることを遠ざけていた福島第一原発を巡る『Fukushima Deep Tour』について友人からお誘いいただき、これを機に身を取り巻くエネルギーについての学びも深めてみようと思い、参加してみることにした。

そもそもエネルギーとは何か?と自身の浅薄な知識を刷新するために、予習も兼ねてオーディオブックで聴いた古舘恒介さんの著書『エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来(www.eijipress.co.jp/book/book.php?epcode=2309)』。

「量・知・心」と歴史や哲学的知見も絡めて現代のエネルギー事情を紐解き、これから起こりうる(or 実現したい)未来を脳裏に鮮明に浮かびあがらせてくれる良書だった。本書で語られた「エネルゲイア(生命の躍動)を取り戻す」という部分が、今回の旅でのキーポイントとなった。

ローカルヒーローとの出会い

『Fukushima Deep Tour』の初日は、震災後に立ち上がったNPOが運営するワイナリーやオーガニックバナナの農園、被災地で週末Barを営業する若者や復興の未来を見据えて幾つもの事業を立ち上げる起業家など、眩いローカルヒーローな方々にお会いする機会に恵まれ、"エネルゲイア(生命の躍動)"の煌めきを肌身で感じる時間だった。

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以前にイベントのライブ配信撮影をさせて頂いた福島県Fターン起業家創出・育成事業「GOOD LOCAL!(https://note.com/goodlocal/)」の皆さんからも浜通りのローカルヒーロー情報を事前に共有いただいたのですが、時間の関係ですべて回りきれず。。次回リベンジしたい。

いざ、イチエフへ

宿所で福島のお酒を囲んでツアー参加の皆さんと夜な夜な語りあかして深い眠りにつき、”福島第一原発(イチエフ)”にいよいよ向かうことに。

とあるドキュメンタリーで見た通り、厳重な警戒網が敷かれた原発周辺区域への入口。結界を超えてしまうことへの恐怖感と、より一層気が引き締まる思いを感じながら重い足取りを進めていく。

身分証明書と照合したIDカードと静脈登録を終え、線量計を胸のポケットに携える。防護服や3層も重ねばきする靴下や手袋を揃えて、外で纏う衣装支度をととのえる。入出時の被ばく有無を調べるために、事前に体内に存在する放射線物質を"ホールボディカウンター"という機械で計測。

コックピットで万全の装備を終えて、いざイチエフへ。

1号機から4号機まで見える高台より

眼前に広がる大海原と11年経った今でも大きな傷跡を残すイチエフ。

静寂をやさしくやぶる鳥たちの羽ばたく羽音と朗らかな鳴き声。

アテンドしてくださった経産省の方々の丁寧な説明すらも次第に遠くなってゆくように、目の前の情景に吸い込まれ、ただただ釘付けになっていた。

1号から4号機までを目にしかと焼き付けてから、海洋排水で物議を醸している処理水タンクや原発付近をサファリパークのごとく車中から眺めていく。

処理水が所蔵されているタンクの前で

そして、いよいよ今回の旅の目玉である5号機の内部へと足を踏み入れる。

メルトダウンを起こした原子炉とほぼ同じ作りらしく、目線を至る所に泳がせながら当時の情景を想像していく。

4,50年前に作られたとは思えないほど、隅々にステンレスの根が張り巡らされた鉄が茂る森になんとも言えない表情を浮かべながら、中心部へ深まるにつれて防護服を装着していく。

ベント(原子炉圧力容器内の圧力が急上昇時、内部蒸気を放出すること)弁付近を見学

核燃料タンクの真下に入った時には、宮崎駿監督のデビュー作である「未来少年コナン」に登場する科学都市インダストリアの三角塔を彷彿とさせる"異様な"雰囲気を感じた。

原子炉圧力容器の真下の部分。上に見えるのは制御棒。
2号機の燃料デブリはこの下に確認されている。

5号機をあとにしてからは、処理水の安全性について経産省の方々に伺った。その場で線量計で計測していただき、WHO(世界保健機関)が定める飲料水のトリチウム濃度(10,000Bq/L)も下回っていることを知った。疑り深い性分なので、100%の安全性は信用していないけれど、海洋放出に関しての疑念は以前よりも晴れたように感じる。

使用済燃料プールを上から見学。8mの水で放射線を遮ることができる。

人間レベルでは安全であっても海中生物のみなさんは驚いてしまうかもしれないのが少し心配ではあるけれど、現地の漁業関係者が不安視している風評被害を避けるためにも、小学生でもわかるレベルでどうにか安全性を解く説明が普及してほしいと願う。

経産省職員の方に教えていただいたこちらの動画(https://youtu.be/xX5T8HDBhO4)がアニメーションも交えて、処理水の安全性をわかりやすく解説してくれていた。

思わぬ事故

原発ツアーを終えて、身に纏った装備を外していき、ホールボディカウンターで放射線量を計測する工程に移った際に、思わぬ事故に遭遇。

放射線量は正常値だったけれど、同行したチーム内の全員の計測が終わらぬうちに計測器が原因不明の故障で停止してしまった。計測器は数台あるものの、入出時で同じ機体で計測しなければならないというルールがあるらしく、故障した機体で入る時に計測していた人たちは足止めを喰らうことに。

現場の職員の皆さんも、「これまで起きたことの無い」初めての事故に焦る面持ちで対処するも、「まさか故障すると思わなかった」とも言わんばかりに上層部へかけ続けるコーリング。最終的には修理も叶わず、例外で別の機体で計測して外界へ出れることになった。

この出来事をただの故障として捉えることもできるし、繰り返された出来事とも捉えることができると思う。起きた出来事から何を反省して繰り返さぬようにすべきか、場に宿る先人の魂たちが最後に伝えてくれたのかもしれない。

燃料デブリを取り出すロボットアームの入り口。それほど大きくはない。

最後に

人類が自らの技術革新を盲信するがあまりに、甘く見てしまった大自然が放つ猛威。想像をはるかに超えるであろう心を切りさくような緊張感が当時漂っていたことを彷彿とさせる現場の残像。

エネルギーの恩恵に日々あやかりながらも、どこでどのように産み出されたのかを想像することを忘れかけていた自分自身に悔いる。

際限なく産み出されるように感じるエネルギーも有限であり、血と汗と涙が入り混じりながらも先人が生み出してきた叡智の結晶でもある。

ただし、ぼくら人類は技術革新に傾倒しすぎて大切なものを見失っていたのかもしれない。それはアリストテレスが提唱した人間固有のエネルゲイア(生命の躍動)という活動と、人間以外のすべての生命の調べに耳を傾けること。

決して経済成長の是か非かを唱えたいわけではなく、二元論で可能性の芽を潰したいわけでもない。技術革新と"こころの成長"という相反する芽を愛でながらも、"あいだ"に可能性を紡いでいくことがエネルギーの未来への一筋の光となるように感じた。

最後に、本ツアーをアテンドしてくださった経産省の木野さんとフクシマ部を主宰するGlobal Shaperの皆さんには、かけがえのない貴重な機会を作ってくださったことを心から感謝しています。ありがとうございました。

ライタープロフィール

天野 雄一郎

1994年兵庫県神戸市生まれ。アーティストマネジメントやクリエイティブ企業のサステナビリティ担当を経て、ライブ配信に特化した映像制作や創業50年来の旅館業の跡継ぎとして従事。予防医療を主としたヘルスケアや、環境倫理を探求。https://beacons.ai/yuuichiro_amano


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