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【基礎から学ぶ人事制度│等級制度編①】等級制度の役割と各制度の違いを知り、自社に最適な等級制度を選択する

このコラムは、グローセンパートナーの人気セミナー「動画で学ぶ人事制度」の内容をまとめたものです。人事制度から人材育成・教育に関する全体像を理解し、人事制度設計で押さえるべきポイントを説明します。

動画で学ぶ人事制度とは
動画とテキストに沿って演習や事後課題を進めることで、人事ポリシーの設計、等級・評価・報酬制度の概要設計、教育体系などの概要設計ができるようになっています。より詳しく学びたい方は、ぜひテキストをダウンロードして動画をご覧ください。

今回は、等級制度とは何か、職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度の違いを理解します。また、どの等級制度を選択すれば良いかの方向性を説明します。


等級制度は何のためにある?

等級制度とは何かを理解するところから進めましょう。日本の人事部のサイトでは以下のように説明されています。

「等級制度」とは、従業員をその能力・職務・役割などによって区分・序列化し、業務を遂行する際の権限や責任、さらには処遇などの根拠となる制度である。また、その組織がどのような人材を必要としているのかというモデルにもなる。いわば人事制度の骨組みともいえるのが等級制度である。
等級制度によって、従業員は「会社がどのような人材を求めているのか」を明確に知ることができる。評価制度・報酬制度とともに、従業員が業務を行う上での目標となり、モチベーションを高める役割も果たす。
等級制度において従業員を序列化する基軸には、大きく「能力」「職務」「役割」の三つの軸が存在する。(複数の等級制度を併用するケースもある)

出典)日本の人事部 HRペディア(https://jinjibu.jp/keyword/detl/1252/)

自社の等級制度が何のためにあるのか、自分の言葉で表すとどのように表現しますか?等級制度の機能をどのように認識していますか?ここで、等級制度で何が実現できるのかを整理してみましょう。

等級制度(含む昇格制度)で実現できること

等級制度の機能として、キャリアの視点からは、
・マネジメントやスペシャリストなど活躍機会を見える化
・昇格要件などでキャリア開発の見える化
・地域限定社員など働き方の見える化
といったことが挙げられます。

役割の観点からは、
・等級と役職の関連性の見える化
・各等級の役割や必要とされる能力の見える化
・雇用の契約形態の見える化
・これらの移動のルールの見える化
ということを図ることができます。

こうした可視化の促進が図れるように、キャリア開発の方向性・役割発揮の方向性などを、整理してから等級制度を意図して設計することが大切です。現状の問題の解決も考えながら、ありたい組織風土や求める人材像などの言語化も必要になります。

職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度の違い

等級制度の設計の前に、最近よく耳にするジョブ型人事制度とは何かを理解してから設計することがおすすめです。ジョブ型人事制度については、かなり誤解が生じているので、自社にとってメリット・デメリットを考えて導入を検討してください。ジョブ型について詳細は以下をご覧ください。

まず、人事制度の体系的には3つの等級制度があります。職能資格制度(メンバーシップ型)、職務等級制度(ジョブ型)、役割等級制度です(以下、職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度に統一)。各項目について、各制度それぞれの違いを説明します。

等級の決定基準

職能資格制度
人(能力)ベース:日本独自の等級制度です。
職務等級制度
仕事(職務・仕事)ベース:海外は基本的に職務ベースで等級制度を構築しています。
役割等級制度
仕事(役割)ベース:職能資格制度の問題から、職能資格制度を職務等級制度に寄せたものです。

賃金の対価

職能資格制度
過去から蓄積されてきた職務遂行能力:能力の評価は難しいので、経験≒年功的になります。
職務等級制度
現在の職務価値(ジョブ・サイズ):職務価値を評価するので、定期昇給などの概念は薄くなります。
役割等級制度
過去から蓄積されてきた職務遂行能力と現在従事している役割の大きさの両方を加味するケースが多いです。

評価する能力

職能資格制度
顕在能力と潜在能力を評価します。潜在能力の評価は難しいので、ある等級で一定の経験を積むと、能力があるはずだという仮定のもとで評価します(滞留年数などの概念はここから発生しています)。現在は、それぞれの等級に求められる能力や行動をできる限り言語化して活用しています。

職務等級制度
顕在能力で評価します。「この仕事ができる能力があるか否か」で評価します。この仕事をしてくださいと契約します。できなかったら、(わかりやすく表現すると)契約違反なので解雇になります。自分が担える職務価値を上げるために、基本的に社外(公的機関やビジネススクールなど)でスキルを身につけます。

役割等級制度
顕在能力(一部、潜在能力を加味)を評価します。一般的には、一般社員は能力開発を期待して職能資格制度、管理監督者が役割等級制度を導入するケースが多いです。

昇進昇格のパターン

職能資格制度
異なるランクのはしごで昇進・昇格します。昇進は役職が上がること、昇格は資格が上がることを言います。この2つが別に動いていくので、処遇と配置は分離します。降職することはあっても、降格することはありません。生活給として社員を守るという思想がベースにあります。

職能資格制度の昇進昇格

図をご覧ください。1等級から9等級のように小刻みで等級の定義がされています。基本的には昇格を目指し、「1等級の経験をある一定レベル積む(例えばB評価を3回獲得する)と2等級に上がっていく」という運用方法になるので、どうしても年功的な運用になってしまいます。

ポイントは役職と等級が分離していることです。この図で言うと7等級と8等級から課長が選ばれ、8等級と9等級から部長が選ばれるというような運用です。役職と等級を分離させることには大きなメリットがあります。例えば部長職(組織を統括する管理職)を解任され担当部長(部下なし役職なしの管理職)に移行するとき、このまま8等級という等級を維持することによって、さほど年収水準を下げなくて済むという運用ができます。表現を変えると、社員の生活水準を維持できるというのが職能資格制度のメリットです。

組織が変わっていくと部長職や課長職を外れる人が出てきます。その処遇を考えると、年収水準を会社都合で落とすという選択がなかなか難しいので、結果的には職能資格制度を採択する会社が多いのが現状です。

職務等級制度
従事している職務の属する等級が上昇すると、昇進昇格します。職務価値の再評価で上位等級にランクされた時、もしくは上位等級の職務についた時に昇進昇格します。昇進と昇格は基本的には連動しています。

仕事の価値によって等級・年収水準が決まりますので、例えば「営業の初級の方は2等級、生産の初級の方は1等級」ということも「営業の課長は8等級、生産の課長は7等級」ということもあり得ます。ポストが空かないと昇級できないのが原則ですし、毎年同じ仕事を繰り返していると昇級なしとなります。

一般的には生産部門で採用された方がマネジャーになることはなく、もしその方がマネジャーになりたければ一旦退職して、大学を出てから課長として他の会社に就職する、そのような形で自らキャリア開発していくところが特徴です。

役割等級制度
自身の役割の拡大と連動します。上位等級で定義されている役割に従事した時や上位等級の役職についた時に昇進昇格しますので、職務等級制度に似通った形の運営になります。

同じ部長職でも、職務の価値が異なれば等級が異なります。ローテーションにより、年収が下がる場合が生じるので、基本的には職種転換しないことが前提となります。最近話題の“同一労働同一賃金”の基礎となるものです。

役割に応じて等級が決まりますので、基本的に等級と役職が一致します。もし部長職を外れて次長になったら等級も降格するということになります。職務等級制度と同じでポストが空かないと昇格できないことが原則です。一方で一般社員は多少柔らかめな運用になり、基本的に昇格を目指す・成長を目指すという形で、少しずつ役割を変えていくような職能資格制度に近い運用になります。

昇進昇格のステップ

職能資格制度
基本的に1ランクずつです。一定期間の滞留(経験)などを設定するケースが多いです。
職務等級制度
飛び級があります(滞留経験年数は問わず)。
役割等級制度
飛び級があります。等級経験年数は問わないものの、運用実態としては一定期間の滞留があります。

降級降格

職能資格制度
原則なしです。能力が下がったことを証明するのが難しいためですが、一般的には「D評価を1回取る、またはC評価を2回取ると降格の可能性あり」という制度に設計することがあります。
職務等級制度・役割等級制度
降級降格があります。

人件費管理の方法

職能資格制度
昇格者数管理が必要です。人件費管理上での多くの問題は、この昇格管理をしていないことが大きいです。「マネジャーが増えて人件費が増えた」「マネジャーにそぐわない人が登用されてしまった」という問題が生じがちです。職能資格制度は、降格が難しいので、しっかり人選をしてから昇格や昇進をすることが大切です。

職務等級制度
ポスト数管理をしていくと等級に収まる人が管理できます。あるポジションに対して、人がやめたら、新しくそのポジションの人を採用する仕組みになります。従って、ある層が増えすぎるということは起こりにくい制度になります。

役割等級制度
職能資格制度と同様に考えて、昇進・昇格者数管理が必要です。

運用のポイント

職能資格制度
能力要件の見直しです(しかし実際には、能力要件の見直しを実施することはほとんどありません)。
職務等級制度
職務価値(ジョブ・サイズ)の見直しです。大きな会社では職務価値を毎年定期的に見直ししていますが、そういった意味で職務等級制度は運用にコストがかかるということを念頭においた方がいいでしょう。
役割等級制度
等級毎、役職ごとの役割の見直しです。職能資格制度と同様、さほど見直しする必要はありません。

人事異動

職能資格制度・役割等級制度
人事異動の柔軟性を確保できるので、ジョブローテーションが活発になります。
職務等級制度
人事異動によって処遇が変わるため、配置が固定化しやすいです。例えば経理で採用された人は基本的にはずっと経理部門となります。その職務に対して雇用契約を締結するので、会社側がジョブローテーションをすると、会社側の雇用契約違反になります。

インセンティブの対象

職能資格制度・役割等級制度
社員は能力開発に意欲を持ちます。
職務等級制度
社員はキャリア開発に意欲を持ち、会社で教育するというよりも会社が終わった後で大学に行ったり他で学んだりというケースが多くなります。

職務範囲

職能資格制度・役割等級制度
職務範囲が曖昧で、だからこそ協働が促進されます。
職務等級制度
職務範囲が厳格です。基本的に仕事で評価が決まるので、決められた範囲以外はやらないということが一般的になり、協働が抑制されます。

賃金水準の調整

職能資格制度・役割等級制度
生活主義で年齢に応じた水準の設計も可能です。
職務等級制度
貢献度の反映と、職務の市場価値も考慮した水準調整をします。大手のコンサルティング会社が全世界的に職種の賃金水準データを持っていて、その市場価値に基づいて水準を決めていくという形になります。

等級数の増減

職能資格制度
会社によって多様化していて、等級数の増加によるインセンティブ確保のため、基本的には等級数が多いです。
職務等級制度
少数化、ブロードバンディング化しています。
役割等級制度
職能資格制度よりは少数化しています。

格付けの決定権

職能資格制度&役割等級制度
各部門で人事権を持つというよりも、人事部門で集中管理をして昇格者管理をすることが良いでしょう。
職務等級制度
ライン管理職の裁量が拡大していく形になります。先ほども触れましたが、あるポジションに対して、人が不足したら、それを統括するマネジャーが新しくそのポジション担える人を採用します。

どの等級制度を選択するのか

ここまで、3つの等級制度の違いを見てきました。どの等級制度を選択すれば良いのかは、簡易的に下記のような基準で考えることができます。

まずは単一職種か、ジョブローテーションを前提としない育成方針であるかどうかです。これがYESであれば職務等級制度がお勧めです。NOでしたら、管理職は役職が外れたら等級を下げてもいいかどうかを判断します。それはNOだ、難しいという場合は職能資格制度を採用すると良いでしょう。YESの場合、一般社員も役割が変わったら等級を下げてもいいかを考え、YESなら役割等級制度が合っています。NOの場合は(比較的これがお勧めですが)管理職は役割等級制度・一般社員は職能資格制度と、2つの制度で運用することも可能です。

どの等級制度を選択するのかは、等級制度設計の基礎でもあり、人事部門の機能のあり方にも影響する大きな意思決定になります。

より詳しく学びたい方へ

より詳しく学びたい方は、動画をご覧ください。テキストと演習用ワークシートは弊社HPからダウンロードできますので、ご利用ください。

動画

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