「貴方の腕に抱かれて死ねない」企画書

キャッチコピー:死ねない王女とその命を狙う殺し屋との奇妙な共同生活が織りなす“普通”で“不通”のラブコメディ


あらすじ:
 依頼成功率100%、刺殺・銃殺・毒殺と多彩な手段を使いこなしターゲットを死に追いやってきた天才殺し屋“J”。そんなJの元にとある国の王女が不可解な依頼を持って訪れる。
「ターゲットは私。私ね、ふわふわのホイップクリームに溺れて死にたいの…」 
 殺し方の指図は受け付けないとその場で銃を放つJに王女は“その時、死にたいと思ったことでしか死ねない”呪いにかかっていることを伝える。弾丸は王女を避け、背後の壁へとめり込んでいた。
 殺し屋としての実績と誇りを守るため、Jは王女の気まぐれな死の衝動に振り回されながら、依頼の遂行を目指す。そして、殺し屋とそのターゲットの奇妙な共同生活が始まる。


第一話のストーリー:
薄暗いマンションの一室。椅子に腰掛けまどろむ男は電話の着信音に目を覚ましすも、着信は3コールで着信音が止む。

「依頼か」

そう、彼は依頼成功率100%の多才で天才の殺し屋“J”であった。

 数刻後、Jの部屋に一人の女性が現れる。彼女は自身がとある国の王女であり、自分を殺して欲しいと依頼してきた。そして契約を終えると彼女は思い出したかのようにこう付け加える。

「私ね、今、ふわふわのホイップクリームに溺れて死にたいの…」

殺し方の指図は受けない契約だ、とJは机に無造作に置かれていた銃を手にし、躊躇いなく引き金を引いた。しかし、弾丸は目の前の王女には当たることなく背後の壁へ吸い込まれた。動揺するJに対し、王女は表情ひとつ変えずこう伝えた。

「私、その日に死にたいと思ったことでしか死ねないの。そういう呪いなの」

そして契約書をひらめかせ、気長に待つわと放心状態のJを残し王女は部屋を後にした。

すっかり短くなったタバコを大きく吸い込み、平静を取り戻したJは自身の実績と誇りを守ろうと任務の遂行を決意し、キッチンへと向かうのだった。

翌日、クリームでパンパンになった浴槽をバンに乗せ王女の元に現れたJ。その姿を見た王女は笑い転げながら、気が変わったの、と言い放った。怒りを押し殺しながらJは王女に本当に死ぬ気はあるのかと問う。その時、王女は表情を一転させ、真剣な面持ちで同じ呪いにかかっていた曽祖母の悲惨な人生を語りはじめた。曽祖母は不死を謳歌する一方で、不老でない容貌や身体にその後何十年と苦しめられ、最後は自殺を図る毎日だった。自分はそうなる前に死にたい、と。

話を聞き終えた直後、Jの頬を弾丸が掠めた。王女は他にもたくさん依頼したの、と再び笑顔。集中してみると他にも人間の気配を感じたJはため息一つこぼして、腰から銃を抜いた。

「うちのクライアントだ」

 王女の身を守りながらも瞬く間に他の殺し屋を殲滅していくJ。そんな背中を見つめながら王女はJに運命めいた物を感じていた。

そして、全ての敵を仕留めたJは今の気分は、と問う。王女はそうね、と呟いて言った。

「貴方の腕に抱かれて死にたい」

 Jは王女を抱き抱え、そっと地面に下ろすと片手を銃に持ち替えその引き金を引く。二十四時を告げる鐘がなった。

 Jは抱えた姫の後方から硝煙が上るのを見つめながら、遂には笑い始めた。

「ごめん、気が変わったみたい」

二人はしばし笑い合うのであった。


第二話以降のストーリー:
王女の気まぐれに振り回され続けて一週間が経った頃。Jは彼女の住まう城の庭で木材を相手に黙々とDIYをしていた。依頼を受けてからというものキッチンや庭に立つ自分を思い返しては殺し屋とはなんだっただろうかという疑問に苛まれていた。

その日は「和風の大きな庭で鯉に餌をやりながら死にたい」という要望に、仕方ないと飛行機を手配し、王女を連れだそうとしたJだったが、彼女はここに作って欲しいと更にわがままを重ねた。気が変わらないうちにねと、部屋のベランダからコーヒーを片手にJを眺める王女に握っていたハンマーを投げつけるも、やはり王女には届かない。

 淡々と作業を進めるJに手伝ってくれる友達はいないのかと訪ねる王女だったが、Jはしばし黙り込み他人は信用できないと答えた。一緒ね、と呟いた王女はそこで思いついたかのようにひとつの提案をする。

「私たち一緒に暮らさない?」

あまりに突飛な提案に首を傾げるJだったが、王女は「普通の生活が送ってみたい。じゃないと死ねない」と続けた。彼女の気分だけが依頼遂行への手がかりというあまりの理不尽に絶望すら感じている一方で、王女の抱えた呪いとその生い立ちに、殺すことでしか生きられなかった自身の半生を重ね同情を禁じ得なかった。

即断即決の彼女に流されるまま、アパートを契約し、奇妙な同棲生活をスタートさせた二人。作りかけだった庭とJの住んでいた部屋は意にも解さなかったことは言うまでもない。

シングルのベッドを独占し、ダラダラと漫画を読み耽っている自堕落を謳歌している王女をよそに、普通とは何か、もとい彼女の指す普通とは何かを研究すべく映画やドラマを身漁るJ。お腹が空いたと言われればキッチンに立ち冷蔵庫の残り物で料理を作るJ。太陽が翳ってくるの見て、干してあった洗濯物を取り込むJ。夕飯に使った食器を片付け、湯船に浸かったJは普通がわからなくなっていた。

 ある日、デートがしたいという王女を連れ、Jは遊園地にやってきた。Jは記憶の中から『遊園地 デート』に該当するシーンを引っ張り出し普通の遊園地デートをリードしようとするも、一緒に暮らす王女に当然のように演じていることを看破される。一方で、Jの努力に悪い気もしていない彼女は最後に観覧車に乗りたいといいJを押し込んだ。プランにない行動に困惑するJだったが、王女の見下ろすアトラクションのそれぞれを指差し楽しそうに話す様子に自然と言葉が溢れてきた。

 観覧車は頂点に達し、ポツリと生まれた沈黙の後、王女が口を開く。

「最後は貴方の言葉が聞けてよかった。ちゃんと楽しかったよ。これがデートってやつか〜」

照れ臭そうに笑う王女を見て、Jは何かに気づいたようにハッとして席を立つ。そして、王女の隣に腰掛けた。王女はJの驚きながらも意を決したように目を閉じた。

その唇には冷たい鉄の味。そして乾いた銃声。王女はそっと目を開け、Jを睨み付ける。

「…今じゃなかったみたいだな」

鳴り響いた頬を張った音と口内に残った血の味をJは生涯忘れなかったという。


王女が思い描く“普通”とJが考える“普通”。世間一般とはかけ離れた人生を辿ってきた二人の想いはこうしてすれ違いを続ける。そして、現れる他の殺し屋が二人の普通を脅かす。


ある時、命を狙う殺し屋の数が一向に減らないことに疑問を持ったJは唯一の仕事仲間(?)である情報屋“A”にその実態を掴むよう依頼する。その様子を偶然見かけた王女は、女性であるAに少しの嫉妬心を抱きながらも、自信がJの人生を侵食していることを自覚する。

後日Aの調査により王女の暗殺依頼が専用の裏掲示板に張り出され、懸賞金がかけられていることが判明する。Jはそのサイトへ懸賞金をかけた大元の人物を殺すことを決意した。

その一方で、同時期に王女の父である国王が病に臥したという連絡が入った。

家族との別れに未練を持つJは王女に白に戻ることを勧める。そんなJの提案を飲みながら、王女はJに誰も殺さないで欲しいと告げる。それが“普通”だからと。契約はいつしか約束へと言葉を変えた。

自分のルーツと互いが、再び向き合うとき、それぞれの呪縛との戦いがが始まるのだった。


Jは不殺の約束を守り抜き、国王の容体も回復し、再び元の生活に戻る二人だったが、新たな問題が浮上する。金銭の枯渇である。

依頼の遂行中にあり、収入源を失ったJと、親からの支援を望まない王女は王女の提案によりそれぞれにアルバイトを始めることとなる。しかし、互いに世間一般との細かな常識の擦り合わせに苦難を強いられるのであった。


数ヶ月が経過した時、二人の元に城からメッセージが届く。

それは王女が先延ばしにしていた王位継承に関する問題だった。呪いの遺伝を危惧し、それらを避けていた王女に対し、ついに国側が動き始めた。そして、幼少期から王女に想いを寄せていた国軍の騎士がアパートへとやってくる。

Jは騎士の言葉に現場の歪な関係を考えさせられ、またその熱意に自分のつまらない意地が王女の普通の幸せを妨げているのではないかと思い始める。

以来そっけない態度を続けるJを見かねて、王女は城へと戻ってしまった。

途方に暮れるJを偶然見かけたAはその様子を案じて、Jの相談に乗る。

「情報屋は仕事で嘘は言わないよ。今回はつけといてやる」

Aの助言によってJは自分の中の王女への気持ちに整理がつき、王女に会うため城へ向かう。しかし、王女はリビングでいつも通りの様子で「解決したから」と言うのであった。

 城で国王に「結婚相手はもう決まっている」と啖呵を切ってきた王女はしばらくJの顔が直視できなかった。


Jに暗殺依頼が出される。壊滅まで追い込んだはずの件の組織が再び王女の抹殺及び、国家の転覆を企む一派により、一番の障害であるJへと白羽の矢が立ったのだった。

またしても戦いに巻き込まれていくJだったが、実戦から遠のいた感覚と技術が災いし、かつてないピンチに追い込まれるのだった。

 そんな銃弾の飛び交う最中に、王女が駆けつける。ボロボロのJを抱えて逃げる王女に、Jは自分の想いを伝え、そして謝罪する。王女は涙を流しながら言う。

「貴方と生きたいの」

そんな姫に微笑みかけながら銃を放つJ。

弾丸は王女を逸れ、背後の刺客に命中した。

「結婚しよう。気が変わらないうちに」


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