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若き日に友と誦した歌

先々週に、母校で部活のOB会があった。青空に満開の桜が眩しい日やった。
5月の陽気の中を大学前の坂道を喘ぎながら登る。相変わらずの長い道のり。学生時代、どんだけ走って上がったことやろか、しんどかった。だが、ほんまにしんどいのは門をくぐったそこからやった。心臓破りの法文坂を走るやなんてあり得へんかった。学舎についてもくねくねと続いて目的地に着くまでそこそこかかった。
有難いことに、今日の会場は門から一番近い学舎となっていた。
5年前までキャリアセンターに仕事でやってきていたので、さほどに懐かしくもない。OB会には大事な用がなければ出席していたので、現役の顔触れは変わってもOBの方はことさら新鮮な出逢い直しもなかった。

それでも、「お久しぶりですよね」という出逢い直しがいつも数人はあった。
今回のそれは切ない出逢い直しやった。

団塊の世代のしっぽだった私たち、現役の部活も100人の単位で動いていた。今のすべての部活の衰退ぶりはその部員数からも顕著に見て取れる。
OB会の担い手もどうしても、団塊の世代が中心となっている。
汗をかきながら、会場に入ると、同期生のOB会長が受付をやっていて、その前は少し混んでいた。
「おう!ちょっと手伝ってくれる」
「ええよ」
汗もぬぐえないままに会費の徴収を手伝うことになった。少し落ち着いてふっと横を見ると懐かしい顔があった。新聞記者をしていた先輩だった。かつては憧れの的の副指導部長だった。新入生女子は大抵が先輩マジックに罹った。懐かしくて声をかけた。
「W先輩、こんにちは、お久しぶりです」
「君、誰や?」
うそ! 別人なんかな? いや、3年前にもお会いしてる。あの時お話しているし間違いない。
「2年下のタカダです。先輩にご指導いただいてましたよ。Yさんと同期ですよ。彼女と一緒に金沢のお家までお伺いして泊めていただききましたよ」
と訴えても、わかってもらえなかった。
私はコロナを経て、体重増加で顔だちも変わった。そのせいでわからないんやと思った。何や切ないわ・・・。

同期のM先輩が近付いてきて、きょとんとしているW先輩に声をかけた。
「誰や?」
名札を見て、
「お~同期やないか?」
「そうや、同期やで、わからんの?」
と言って寂しそうに笑った。
そういうことか、それで悟った。それで奥さまも一緒に来られているのかと。金沢から息子さんが車を運転してきたそうだ。

もしかしたら、これが最後になるのかなと思ったら、また胸がぎゅうとなった。
3年前も、その変化の激しさに驚いた。話しを合わせてくださっていたけれど、往年の相ではなかった。ウン十年ぶりの出逢いはこんな小さな人だったのかと思ったものだった。話もかみ合わなかった。でも同期のお仲間とはお互いを認識できていたようだった。あの時すでに始まっていたのかもしれない。

私たちの同期にもデイケアに毎日通っている人はいる。そういうお年頃になったということかと愕然とした。
そのことを思うと、私は今も仕事ができていることが奇跡みたいなもので、有難いことやと思わへんとなと思う。

今年も公務員試験対策講座に呼ばれている。ここだけはポンコツは返上して、この1年を粛々と精一杯に務めさせていただくと改めて思う。
働けるのも、もう少しの間やったら、悔いの残らない働き方をしようと思う。

同期仲間とは、この20年あまり、野に出て健康な老後を叶えようと、毎月のように野山を歩く会を繰り返してきた。コロナのせいでお休みをしているうちに、どんどん弱ってしまったような気がする。少なくてもかつては先頭を切って歩いていた私はもういない。これまでは呑む会は戻ってきている。歩く会も間もなく戻ってくるけど、ついて行けるのかなと不安やけれど、ついていくしかない。

倒れそうになりながら声をふりしぼってM先輩が口上を述べる。ひやひやしながら学歌を歌った。W先輩が歌っていた。若き日に何度となく友と歌った学歌は覚えておられるんだ。一緒に歌えたことが無上に嬉しかった。

ポンコツぶりを笑って過ごす。こんな切なさも笑って過ごす。
あなたのことがいずれ分からなくなる日が来るかもしれない。でも笑って過すしかない。

他の人は知らんけど・・・。


※だんかいせだい【団塊世代】
日本の1947(昭和22)年から1949(昭和24)年にかけて生まれた世代の人間をさす言葉。終戦後の第1次ベビーブームに生まれた世代で,出生数は約やく806万人,現在の人口は約やく700万人で,その前後の世代をあわせて最大さいだいの人口集団しゅうだんをつくる。人口が多く入学や就職できびしい競争を経験してきたため独特の生活意識をもっている世代ともいわれる。「戦争を知らない子どもたち」,1960年代の大学紛争にかかわった「全共闘世代」ともよばれたが,作家堺屋太一の命名によって「団塊の世代」(団塊世代)の名前が定着した。


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